651 2009, a Tale of a Veterinarian sage 2010/05/01(土) 21:29:54 ID:fK+3/kHD
私がその農業試験場に配属されたのは、単に獣医師の資格を私が持っていたということからだけではなく、何か必然、
運命のようなものが働いていたのかもしれない。
そうでなければ、私は彼に出会えなかっただろうから。
この北の大地で暮らすことも、なかったのだろうから。

生まれ育った街とは全く違う気候の中、毎日のようにツナギを着て、試験場で飼っている牛や豚の世話をしていた私が
彼と知り合ったのは、ある春の日だった。
彼の所属している研究機関のことは、もちろん知っていた。
けれど、そこに彼のような若い人がいるなんて思いも寄らなかったし、何より、そこから私のところまで彼がわざわざ
やって来るなんてことも、あるなんて思っていなかった。

彼は、私の書いた、試験場のホームページで公開されている論文のコピーを携えて、トラクターにPTOで繋いだ
ミキシングフィーダで飼料と抗生剤を混ぜている私を尋ねてきた。
それが、全ての始まりだった。

今も、よく覚えている。
論文のタイトルは、「酪農経営の衛生対策における投資限界とライフ・サイクル・アセスメント分析」、はっきり覚えている。
「担当者:酪畜経営チーム 榊研究職員」と書かれた、そのたった一行を頼りに、彼は来てくれたのだ。

彼は、厩肥の匂いがまだ残っているかもしれない、化粧っ気もない私を、目つきが悪くて感情を表に出さない暗い私を、
論文の内容について討論した後に食事に誘ってくれた。
他の女の子のように可愛く振舞うこともできないし、可愛い服も似合いもしないような、背だって大抵の男の人よりも
ずっと高くて、30近くなっても誰からも女として扱われていないそんな私を、彼は紳士の態度でまるでお姫様のように
扱ってくれた。
割り勘のつもりだったのに、食事の代金ですら全部彼が持ってくれた上に、小さな花が盛られたフラワーバスケットまで
帰りにそっと持たせてくれたのだ。

彼は車で、いろいろなところに連れて行ってくれた。
アルパカに触れる牧場とか、隣町の運河沿いにあるガラス工房とか、スペイン風のタパスとシェリーが味わえるお店とか、
月に何度も、友達も少ない干物のような私を誘ってくれた。
そしてある晩、いつものように誘われたアイリッシュ・パブで彼は私にこう言ったのだ。

「榊さん、僕と、結婚を前提に付き合ってもらえませんか?」

私は、黙って頷いた。
その瞳には、涙が溢れそうだった。
男の人にそんなことを言われたのは、生まれて初めてだったから。
ミクシィのせいで学生時代の友達の嫌な面をいっぱい知ってしまって、なんだか同性の友達とも縁遠くなっていた私を、
只一人、彼が真剣に見つめてくれていることに気付かされたから。

その晩、私たちは初めてベッドを伴にした。
彼が予約していた、ホテルのスイートルームで。
処女を切る痛みと、満たされた感情とともに。
忘れられない、思い出とともに。

658 2009, a Tale of a Veterinarian sage 2010/05/02(日) 12:19:28 ID:Qgyy2nhy
私はシャワーを浴び、ホテルのガウンに着替えて、ベッドに座って彼を待っていた。

マヤーの餌も水もトイレも、私が今晩帰れなくてもいいようにしてきてある。
それに、最初のときは痛いとは聞いていたけれど、いつも患畜に蹴られたり噛まれたりしているから、痛さには慣れっこだ。
だから、何も心配はないはずだった。
だけど私の胸は、どうしても高鳴りを押さえきれなかった。
すごく…怖かった。

男の人が、私にはずっと怖かった。
私から好きになった男の人はみんな、私を異性とは思えないと、常々揶揄とも皮肉とも取れない同じような事を私に言い放った。
何度好きになっても、そうだった。
だから、段々と私は男の人を好きになることをやめた。

女の人も、恐ろしかった。
その人がいなくなった途端に、陰口大会。
言ってもやってもいないことが、いつの間にか私の言動と決めつけられる。
あからさまに、私にだけ愛想が悪い。
タイプじゃなさそうな男の人には、ひどく冷たくあたる。
みんな、みんなそうだ。
私の、母だって。

私が心を許せるのは、家畜たちだけだった。
人間はみんな、私には怖かった。
みんな、敵だった。


660 2009, a Tale of a Veterinarian sage 2010/05/03(月) 07:55:12 ID:jgwxyHc3
気付いたら、彼がガウンで私の前に立っていた。
その肌はお湯で暖められたせいか、私を前にしているせいか上気しており、息は、少し荒かった。

「榊さん…。」

彼はベッドに腰掛けた私の頬に手を当て、こう言った。

「榊さん…俺、君が好きでたまらない…今も、こうしているだけじゃ物足りない…。」

私は、無言で瞳を閉じる。
彼の唇が、私の唇に触れる。
舌が…絡み合う。
唾液が、二人の間でチュク、チュクと淫靡な音を立てる。

唇が離れるとともに、私は目を開けた。
彼の両腕が、私の身体を抱く温もりが、心地よかった。

「お願い、暗くして…。」

私がそう言うと、彼はベッドサイドのつまみを回転させて、部屋の明かりを調整する。
私たちの身体が、暗闇に包まれる。

「ぁ…あ…っ…あ…!」

彼の指が、私の胸をガウンの上からまさぐる。
邪魔でしかたがないこの胸も、彼が愛してくれるのなら、いとおしい存在になるのかもしれない。
彼が巧みに、経験のない私をリードするように、硬くなった私の身体をあちこちを優しく撫でてくれるのが、どこか嬉しい。

「っあ…あ…ッ…ぁ…!」

彼の指が、私の長めの乳首を摘む。
そのとたん、快感が私の背筋を突き抜ける。
お腹に、熱く硬いものが当たっている、そんな感触がある。

「榊さん、脱がすよ。
 榊さんの身体を、直接見たい。」

私は、コクッ、とうなづく。
ややあって、彼の手がガウンの袖口にかかる。
ぱさっと、ガウンが床に落ちる。

「綺麗だよ…榊さん。
 今まで見たどんな女性より、ずっと綺麗だ。」

「そんな、恥ずかしいこと、言わないで…。」

私は、恥ずかしさに両腕で顔を覆う。
自分もガウンを脱いだ彼の身体の温もりが、直接伝わってくる。
肌と肌を、重ね合わせている。

「っ…あ…ッ…!」

彼の指が、私のその部分に触れる。
柔らかい毛の間から、誰にも触れさせたことのないその部分に、優しく、優しく触れる。
背筋に、電撃が走る。
淫らな、水音がする。
男の人を受け入れるのが初めての私のそこは、男の人にそうされたらどうすればいいか、わかってしまっている。

本能とは、なんと神秘的なものなのだろう。
私は、そんなことを考えながら、彼に身体を自由にされ続けていた。

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