695 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《1》 :2005/06/08(水) 18:07:55 ID:dG0p1c6o

 

 大阪はいつも呆けている。ように見える。
 こうやって一緒にいるときも、呆けている。と私は思う。
「神楽ちゃん、どーしたー? 」
 大阪が笑う。まったく、ボケている。とぼけているのか?
「お、おおさかは」
 私は口ごもる。それはそうだ。誰だって口ごもる。こんな状況では。そう私は思う。
「大阪は、ど
 どうなんだよ――」
「どうって何がー? 」
 私の小物入れがわりのナップサックは、足元でくたくたに潰れている。大阪のポシェットはちょこんと寄り添っている。とうの私は――。熊のようにうろうろしている。大阪は座っている。ベッドの端に。
「ここだよ! こんなところに来て平気なのかよ!? 」
「なんで? 」
 呆けた顔から、ぽかんとした顔になって、大阪が問う。
「だってここに入りたいっていうたの、神楽ちゃんやないの」
 うわああああああああああああ!
 私は座り込む。頭を抱えて。顔が熱い。肩甲骨に力が入る。側に大阪が来て、ぽんぽんと肩を叩いた。二度叩いた。とてもとても優しかった。
 す、と手が離れたときに、振り返って思い切り抱きしめた。きっと、他の人も、多分、そうする。
「だめよ神楽ちゃん」
 大阪がやんわりとたしなめる。
「こういうところの絨毯ってやー。あんまりきれいやないよ? 」
 押し倒された大阪の、ロングスカートの肩口がつるりとむけている。照明にじんわりと、肌が光っていた。
「ご休憩やないんやから。そんなにがっつかんの」
 いたずらっぽい笑いに、私はごくりと唾を飲んで、身を起こす。大阪の肌のにおいが、す、と鼻に入ってくる。
「はああああああああああ」
 今度は脱力する。きっとそうする。少なくとも、私はそうだった。
 初めて、しかも女の子同士で、ラブホテルに入った夜には。

 今日は大阪の家に泊まることになって、いた。
「おっきなテレビ、買うたん。初めては、神楽ちゃんにみせたる! 」
「家族用に? 」
「いいや! わたし専用の! 」 
 

 

696 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《2》 :2005/06/08(水) 18:09:08 ID:dG0p1c6o

 

 珍しく鼻息の荒い大阪である。長年のバイトで溜めてきた分と、お年玉の貯金で買ったのだそうだ。へえ、そいつは凄いな。凄いやろ? 
 だったら、何かDVDでも買っていこうか。
 ついでに食事をしてからにしよか。
 新宿まで足伸ばそう。
 気がついたら、土曜日に新宿で大阪と待ち合わせていた。
 DVDを選んだ。
 紀伊国屋で参考書をついでに買った。
 焼き肉を食べた。
 そしたら、なんだか帰りたくなくなった。
「なんか、このまま、帰りたくないなー」
 大阪が呆けた声で言った。だから。
「泊まってこうか」
 と言ってみた。
 そんだけの話である。そんだけの。
 とんとん拍子に話しが進んだ。親へのアリバイもばっちりだし。お金も半分ずつ出した。
 ラブホが宿泊の時間になるまで、何件か店をはしごした。

「ねえ」
「ん? 」
「入ったことある? 」
「どこに? 」
「…テル」
「ないよ? 」
「ほんとに? 」
「ほんまや。好きな人は、神楽ちゃんとだけ」
「ば、ばか! 大きな声出すなよ!! 」
「平気よ。誰も聞いてへんて」 
 

 

697 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《3》 :2005/06/08(水) 18:11:21 ID:dG0p1c6o
「そうかなあ……? 」
「そもそもやーあ? こんなこと、ここでしてて、もうとっくに怪しいお二人さんやないの? 」
「……! 」

 引っ込めようとした指を、ぎゅっと大阪が掴まえた。だから安心して、でも控えめに、また大阪の細い指に指を絡ませた。手の甲をさら、と撫でられて、背筋がぞくぞくした。甘いにおいがした。
「神楽ちゃん、あまいにおい、するよ? 」
 そう囁かれて、脳がじーんとしびれた。思わず両方の太ももに力が入った。身体の芯が熱い。気がついたら、足の親指に力がぎゅっと入っていたのだった。
 だから、そう、ホテルに入るまではよかったんだ、と思う。受付で、私はなるべく低い声で「しゅくはく」といった。鍵を受け取った。身体がカチカチだ。

 初めてラブホテルに来たら。
 そんな想像をしたことは、誰にでもあると思う。もちろん私にも、ある。――男の人とだけど。
 絶対に相手に「あなた初めてじゃないでしょ」と言ってみたいと思っていた。なんか、シャレた言い回しだと思ったからだ。余裕たっぷりに。ちょっといやみっぽく。
「初めてだよ」
 と言われたら、嬉しがって見せよう。そうすれば、きっと相手はとても喜ぶ。
「そうだよ」
 と答えられたら、それをネタにさんざんからかい、いじめることが出来る。私の前に、そんな人がいたなんて!
 初めてか初めてじゃないかなんて、そんなに重要じゃないよなあ。その時はそう考えていた。だってけっきょく、セックスって行為だから? ただの行為だから、回数を越せば上手くなるだろうし。
 以前に好きな人がいたって、しょうがない。今好きなのが、自分ならいい。
 だから「あなた初めてじゃないでしょ」と聞くことを前提に、ラブホでの過ごし方を想像していたのだった。わざわざそんなことを聞くなんて、冗談以外の何物でもない。

698 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《4》 :2005/06/08(水) 18:11:48 ID:dG0p1c6o

 

 ところが、その想像のパターンから、これはずれている。
 そもそも女の子と二人で来る、という時点で、おおいにずれている。

 エレベーターで、大阪が胸をつついてきた。私もつつきかえした。ちょっとした戯れ。普通なら、そうされたら胸元をかばう。
 なのに大阪は、無抵抗だった。
 部屋に入っても、きっと無抵抗なのだろう。
 思わず服の上から、荒々しく乳首の辺りを摘み上げる。
「――くぅ」
 大阪が、目を閉じてうめいた。頬が赤くなったように、見える。
 自分の首元がじっとり湿るのがわかる。口付けようとしたらドアが開いたので、私の手は自然に大阪の手にのびて、まるで清らかな小学生のような無邪気さを装ってみる。
 きっと、誰でもそうする。いや、これはどうかな?
  大阪の手が、珍しく火照っている。

 そうしてさっきの事態である。
 私は今、その打開策を見つけた。
 シャワー! シャワー浴びよう!!
 私はそういって、いそいそと服を脱ぐ。
「――見るなよ」
「なんでー? 」
「見られたら恥ずかしいだろ!? 」
「これからもっと恥ずかしいことするのに? 」
「うるさい! それとこれとは話が別だ!! 」
 もう十二月なので、着ているものが多い。一枚ずつ脱ぐ。やっぱり下着がかなり湿っていて、恥ずかしくなる。さりげなく脱ぎ捨てたジーンズの陰にすべりこませる。
 素っ裸になって、シャワーを浴びる。ようやく一息ついた。 
 

 

699 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《5》 :2005/06/08(水) 18:12:29 ID:dG0p1c6o

 

 足元を湯が流れていく。顔をぬぐって、それから、股のあたりに入念に湯をかけ、指でこする。
「ふ――」
 ぬるぬるしたものが、湯に溶けて流れていく。親指に、毛のざらざらした感覚がある。大阪も生えてる。きっと、こんな感触がする。
 はっとして、壁に目をやる。
 壁が透けて、大阪が目の前に座っているところが見える。全裸で。
 うかつだった。
 部屋からでも浴室が見えるようになっていたのだ。ガラス張りの世界。
「見てへんよー」
 呆けた声が聞こえる。
「今から、一緒にシャワー浴びようかな、思ただけ」
 な、な、な、な。
 私は硬直している。シャワーを浴びている姿の、一部始終を見られていた。
 浴室に入ってきた大阪は、満面の笑みを浮かべていた。というより、にやにやしていた。
「来てしまいました」
 彼女の肉は、骨にすっきりとついている。乳房は目立たない。アバラが浮いている。腰骨がうっすらみえている。
 乳首が、勃っている。
「お背中ながしましょーか? 」
 彼女にシャワーを向ける。細かいお湯の線が、幾つも幾つも大阪の身体にかかる。キラキラ光る。大阪の肌。
「あぶあぶあぶぶううぶ! やべやべてかぐだちゃん!! 」
 きゃあきゃあ笑いながら、大阪が近づいてくる。少し体勢が崩れそうにみえたので、あわてて手を伸ばす。大阪の身体が、しゅるん、と腕の中にくる。鎖骨に、大阪の頭の重さを感じる。
 小さな舌が、ちろちろと動く感触も。
「あう」
 思わず声、もれちゃった。

 大阪の肌を感じる。
 私に吸いついてくる。
 シャワーの音がする。
 キスの音に混じって。 
 

 

700 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《6》 :2005/06/08(水) 18:13:28 ID:dG0p1c6o

 二人で身体をふきっこする。キスしながらふきっこする。
 キスをするのは、初めてではない。過去に何度か、したことがある。こっそりと、誰にも見つからないように。
 水泳大会、前日の練習日に。ちよちゃんの別荘で。体育祭前の、夕暮れのクラスで。
 他にも、何度も、何度か。私達は、している。キスを。
「大阪は、勉強、どう? 」
「神楽ちゃんこそ、学校の補習どう? 」
「んー? そうだな。結構、すすんでるよ」
「かぐらちゃんは、ねっしん、やもんな」
「……」
「ん? どうした? 」
「…んでもない」
「明日楽しみやなー」
「え? 」
「明日はお昼一杯DVD見よな? 今日買うたの、面白そうやしな」
「うん」
「家にもたくさん、あるよ。いろいろ、みよ、な? 」
「…う、ん」
「今の神楽ちゃんの感じ取る姿も、録画して、一緒に見てみたいな? 」
「……ん、んん。う、ん。――あん」
「きこえとる? かぐらちゃん」
「ん? ―――んーん、だめ。こんなの撮っちゃぁ」
 う――。声がかすれてる。なんて色気のない声。あそこを細い指で弄られていて、頭がお留守になってた。
 何の話? わからない。
 何を録画するの?
「神楽、かわいい」
「んあーあ…――。い、イ、イイ。そ、れっ」
 固くて、まだ入ることの出来ない私の身体の入り口から、さまよっていた指が、きゅ、とクリトリスをつまんだ。

701 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《7》 :2005/06/08(水) 18:14:04 ID:dG0p1c6o

 

 思わずのけぞった。
 足が突っ張った。
 大阪の中を弄っていた、私の指が止まる。親指に、ちりちりとした毛を感じる。お、お、お、声がもれる。わたし。

 おっぱいが、もまれてる。首筋には舌がちろちろしてる。たまに軽くキス。そして強くキス。
 獣みたいな息遣いの私。
 はあはあ、じゃなくて、は――あ、は――あって。
 水の底に沈んでいくみたいな、窒息感。
「お、お、さか」
「それはあかん」
「え? 」
「……名前で呼んで、神楽」
 耳元で囁かれる。びくん、てする。氷を首筋に当てられたみたいに。
「ほら、神楽」
 誰か別の人の呼びかけみたいに聞こえる、大阪のしゃべりかた。
「だって、もっとしてって、いいたいだけ……」
「そうだったら、なおさら。ねえ。名前で呼んで? 」
 今までもそうしてことがある。けれど、今の大阪は、怖いくらいいつもと違うみたい。ねえ、神楽、名前、呼んで?
「あ、ゆむ」
「――聞こえないよ? 」
「あゆむ、あゆむ、あゆむ! ぅ! うう! っあ!! 」
 名前を呼んだだけで、かすがあゆむのなまえをよんだだけで、私は真っ白になってしまう。たぷたぷして、大きいな、そんなふうに言われた乳房をなぜられながら。ちくびをなめられながら。
 何か悔しい。
 だから。
「はじめてじゃ、ないだろ? 」といった。余裕もなく、いやみでもない。
 ただ、きっと必死だった。 
 

 

702 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《8》 :2005/06/08(水) 18:14:33 ID:dG0p1c6o

 

 声がひきつっていた。

 こんなところにきても落ち着いてるし。シャワーをガラスのむこうからのぞくし。いきなり声のちょうしとか変わるし。
「わたし、こんな、きもちよくなっちゃうし」
 言うたびに、涙がぽろぽろ出てくる。さっきまでの快楽の余韻で、腰が、ひくんひくんって、動く。ちょっとバカみたいだなって、関係ないことを脳の片隅で思う。胸がじんじんする。おっぱい触って、ほしい。でも涙が出る。辛い。
 バカだ。私は――。
「ねえ、嘘つかないで、言って? お、おおさ、あゆ、むは、はじめてじゃない、よね? 」
 こういうことするの。
「――こういうことするのは、初めてやない。けど、好きな人としたのは、初めて」
 あっさりといってのける彼女の目。
 とても疲れたみたいに見える目。
 泣きそうにみえたけど、なかなかった。
「だって、手に入るなんて、思わなかったんやもん。それに――」
 わたしはこうきしんがおーせーすぎるから。
 さっきまで私をいじっていた手が、ぴたりと止まる。あたたかい。いつ電気を消したんだろう? 目に見えない光は、ずっと感じ続けてた彼女の体温。
「私、神楽ちゃん、好きよ」
 当たり前みたいに。ああ、そうだ。いつも彼女は、さりげなくて。なんでも当たり前みたいで。
「でも神楽ちゃん、いやだったら、止めとこか」
「ばか」
「――何よ、バカって? 」
「ば、か」
「でも、神楽ちゃんが嫌て……」
「いやなんて、いってねえだろ」
「え? 」
 私はぐっと彼女を引き寄せる。一度目は、軽い抵抗があって、二度目は軽々と抱き寄せられる。
「ああああ」
 長いキスの後で、彼女が息をつく。太い声の音が出る。
「やら、くすぐたいて、ほん、ま」
 くすくす、笑い声。その両脇に私の手があるから。そこを私の舌が舐めているから。さりさりとしている。手入れしている感触のある、彼女のわきの下。
「かぐら、どうしたい? どうしたいの? かぐら、ちゃん――」
「めちゃくちゃに、されたい――」

 

 

703 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《9》 :2005/06/08(水) 18:15:04 ID:dG0p1c6o

 

 その薄い耳元でささやくと、華奢な身体がぶるるっと震えた。足がかくかくしている。私のも、彼女のも。
「そんで――
その――
めちゃめちゃにしたい」
「誰を――? 」
 すごいエッチな声で、尋ねられて、今度は私がぶるるって震えた。
 もちろん、彼女の名前を呼ぶ。
 誰だってそうする。
 私だってそうした。

 私の指が二本、彼女の柔らかい部分にくわえ込まれている。手の甲がつりそうになるくらい、激しく動かす人差し指と中指。
 普通ならこんなにしたら中が痛くなってしまうだろうに。でも一杯濡れているから大丈夫だ。くちゅくちゅくちゅくちゅ。
 あゆむ。
 あゆむ。
 あゆむ。
「ああああ、あああ」
 優しい指が、私の髪をすく。ときおりぎゅっと髪を掴まれる。
 緊張。
 硬直。
 痙攣。
 弛緩。
 私の胸が熱くなる。乳首が強張る。クリトリスが固い。おしりの奥がじんじんする。

 細い指が、かすかにかすかに震えている。私の入り口で。舌も震えている。その少し上で。う、う、う、と声がもれちゃう。私の芯の部分の皮が、舌で剥かれて剥き出しになってて。

 

 

704 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《10》 :2005/06/08(水) 18:15:51 ID:dG0p1c6o

 

 ひだのぶぶんと、クリトリスと、いりぐちのところと。ふとももがぶるぶる震える。じらすようにゆっくり動く舌。恥毛の上から、かぷ、と噛み付かれて、私。
「ひいっ! 」
「きもちええの――? 」
「う、あ、あゆむ、あゆ、む、あゆむの――た、した。ああ、いい。イ! ううう」
 あゆむ。
 あゆむ。
 ことばにするだけでかんじてしまう。
「中、いれてほしい――」
「ん? 」
「中に、いれてほしい。あゆむの、ゆび」
「だいじょうぶよ、神楽ちゃん」
 私のしこりきった乳首を優しくほぐしながら、歩は言う。
「いきなりは、入らへんから。ゆっくり、ゆっくりしていこな? 」
 何べんも何べんもキスして。
 何べんも何べんもエッチして。
 そんで。
 あゆむの白くて細い指が、私のあそこにぴったりとおさまるようになるまで。
「……った! 」
「そろそろ痛い? 」
「ん、ちょっと、そこ、痛くなってきた」
 じゃあちょっと休憩しよか? そう言って歩は私の隣にぴったり寄り添う。柔らかくなった肌の感触がする。たっぷり汗をかいている。シャワー浴びようか? うん。このままだと風邪ひいちゃうよ。うん。あゆむ、好き。うん。
「私も神楽ちゃん、大好き」
 少しの間、濃厚なキスをした。
 またうめき声が出た。

                                  *

 身体がからっぽになるくらい、エッチして、今一緒にマグネに入っている。目やにが一杯出てた。親指でこするとぽろぽろとれるくらい。おしりが軽い、なんか。
「嬉しそうだな……なんか」
「そらあもう」
 ハッシュドポテトをつまみながら、大阪が答える。にっこり笑う。 
 

 

705 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《11》 :2005/06/08(水) 18:16:23 ID:dG0p1c6o

 

「神楽ちゃんの初めての人は、私」
「ば! ばか!! 」
「誰も聞いてへんよ」
 は、はずかしいこと、いうなよ……。消え入りそうな声で、私。ふふんと鼻で笑う大阪。
「神楽ちゃんはほんまに心配性やなあ」
「だって、はずかしいこと、いうからあ」
「そないな声のほうが、よっぽど恥ずかしいわ」
 ぐ、と言葉に詰まる。顔が熱くなる。身体の奥がほてってくる。もう! あれだけしたってのに……。
 悔しいから、コーラを飲んだ。身体が冷える。息をつく。
「この後DVDみるやんかー? 」
「う、うん」
「一緒に、二人で」
「うん? 」
「DVDどころやないかもしれへんな! このままやと! 」
「だーっから、恥ずかしいだろ! ヤメロヨッ!! 」
「公開言葉攻めー」
「しなくていい! 」
「どーしてー? 」 
 

 

706 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《12》 :2005/06/08(水) 18:16:50 ID:dG0p1c6o

 

「いいから! 」
「へー? 」

 マグネトロンバーガーの店内には、数名の客がそれぞれ陣取っている。線を基調とした、シャープな店内。単純な色で構築された空間。簡素ないすとテーブル。

「神楽ちゃんさあ? 」
「なに? 」
「私、できるだけながいこと、神楽ちゃんといたいわ」
「え? 」
「ずーっと、二人目が来ないとええのになー」
「大阪にとって、私は二人目じゃないか」
 ちょっとブスくれていうと、ほー、と彼女が呆けた。
「おい! おまえまさか、一人じゃないんじゃ!! 」
「ちゃうねん」

 どうしていつも背広の男の人が、どっかに座ってるんだろう。今日は日曜日なのに。誰かの携帯電話がぶるぶる動いている。また階段を誰かが上ってくる。世界最大のファーストフード、マグネトロンバーガーの朝。

「こうやって、一緒にいるだけで、幸せなエッチしたのは始めて」
「え? 」
「やっぱり、好きな人といると違うなー、思て。こうしとるだけでもいい」
「詭弁だよ、そんなの。そんなのずるい」
「ずるくないし、覚悟決めとる」
 あんまり余裕たっぷりだから、私。
「私は嫌だ」
「え? 」
 驚いた顔して、大阪。ざまあみろ。一本取った気分。へへん。
「……これだけじゃ、嫌だ」
「え? 」

 

 

707 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《13》 :2005/06/08(水) 18:17:15 ID:dG0p1c6o

 

 首を傾げる彼女。当惑したような、悲しそうな。な、なんだよ! 気づけよ! この鈍感!!
 ――だから。

「いっぱいきもちよくしてくれないと、いやだ」

 歩が目を閉じた。私も閉じる。
 そして数秒。
 濡れた音がしたので、あわててキスを止める。かわりに。

「あゆむ」
「ん? 」
「あ、あのさ」
「ん? 」
「あ、あゆむのこと、あ、あい、あいあい……」
「お猿さん? 」
「ち違う」

 二人きりの世界になると、周りが見えなくなる。
 世界が狭まる。
 どこかで「お持ち帰りですか? 」と声が聞こえる。携帯電話がまた着メロを鳴らす。階段を下りる音がする。そして。

「あゆむ愛してる」
「私も神楽ちゃん大好きよ」
 かたかたとかすかに震えながら告白した私に、にっこり笑って歩。
 ぐっと身体を近づけて、私の耳元に。噛み付くみたいに。
「あいしてるよ。かぐら」 
 

 

708 名前:『あなたと一緒 私も一緒』《14》 :2005/06/08(水) 18:17:42 ID:dG0p1c6o

 マグネトロンバーガー、二階の禁煙席の床の上。
 足元でくたくたになっている、私の小物入れがわりのナップサック。
 ぴったり寄り添った大阪のポシェット。
                                             (了

 

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