582 『同棲』〈ゆかり×にゃも〉 sage 2010/04/13(火) 00:37:58 ID:fcDjjr90
ゆかりと私は、夜の埠頭で風に吹かれていた。
対岸の空港に、飛行機が一機また一機と下りては上がっていき、その度に身体をジェットの振動が撫でていく。
私の車の開け放たれた窓からのFMのトークが、別世界からの音のように感じる。
「…婚活っての、私も始めてみたってこの前話したよね?」
唐突に、ゆかりが呟く。
「けどね、私、愛せる人が欲しいんじゃなくて、金づるが欲しいのかもって気がしてきて…。」
ゆかりは、私の顔を見ずに続ける。
「何人か、会ってみたの。
でも、何だかウマの合う人よりご飯を奢ってくれる人とばかり、何回も会うようになっちゃって。」
「…いい人見つけて主婦にでもなってラクしたい、って私も思うことある。
仕事いくら頑張っても男の人に敵わないんじゃ、ってね。
…でもねゆかり、打算だけじゃ続かないよ、恋愛って。」
「…こうなったら、にゃもと結婚しようかな?
お互いよくわかってるし、どう?」
ゆかりの顔をはっと見て私は、ゆかりが口調と裏腹にちっとも笑っていないのに気付いた。
ゆかりの顔は、真剣そのものだった。
こうして私達の奇妙な『同棲』は始まったのだった。
586 『同棲』〈ゆかり×にゃも〉 sage 2010/04/13(火) 21:43:24 ID:Q714HMdu
その晩の記憶は、正直言って全くない。
ゆかりと、仕事帰りに川崎のコストコで買ってきた5リッター入りのワインを全部飲んでしまったらしいことしか、覚えていない。
気が付いたときにはもう朝で、私たちはソファの上にいたのだ。
「…え、なんで私、裸…って、ゆかりまで!」
当のゆかりはいびきを立てながら、私の横でまどろんでいる。
自分の身体を見下ろすと、人工皮革のソファに、なんだかベタベタした染みができているのに私は気付いた。
おまけに、なんだか生臭い、魚が悪くなったような匂い。
…いやな予感がした。
この同居人は正直頼りないが、私の記憶がない以上、ゆかりにことの次第を聞くしか、私に選択肢はなかった。
「ちょっとゆかり、起きなさい!
ねえ、何があったの、ねえ!?」
私はゆかりの肩を掴んで揺する。
「…ZZZ…もうカルビは食べられないよ…ZZZ…。」
「ゆかり、ゆかり起きなさい!」
「…むにゅ…ん、あ、にゃも、おはよー。」
「おはよー、じゃないわよ!
なんで私たち裸なの、ねえ、何があったの、ゆうべ!?」
「…ありゃーにゃもちゃん、覚えてないの?
私のことあんなに好きにしといて、ホント、教師の風上にも置けませんなぁ。」
「え、え…!?」
外からは、雀がチュンチュン鳴く声が聞こえてくる。
私の頭を冷や汗がたらっと流れる感触が、頭皮から伝わってくる。
「もう、にゃも、昨日すごかったんだから。
ほら見てよこのキスマーク、にゃもがつけたんだよ?」
ゆかりは自分の胸、右の乳首のちょうど左横についた赤いアザを私に見せ付けるように指差す。
「ええええええ!!!!????」
「今でも、たった今のことみたいに思い出せるわ。
あんたの指が私の、誰にも触れさせたことのないここを、執拗に執拗に攻めてさ。
痛いって言っても、『今に気持ちよくなるって、だから我慢しなさい!』とかエロマンガみたいなこと言って…。」
「な!?」
「あんたさすが保健体育の先生だけあって、人体の構造には詳し…」
私には、ゆかりの言葉を最後まで聞き取ることができなかった。
「ちょっとにゃも、ねえどうしたの、にゃも!?」
ゆかりの声が、どんどんどんどん遠くなっていった。
生理が重くて貧血になったときのような、そんな眩暈が私を襲っていた。