6 Eurya japonica sage New! 2007/05/11(金) 19:54:59 ID:mqUhVWtk
「ん、あっ、ああっ!」
二人きりの室内に、嬌声が響く。彼女の声は作り物などではなく、紛れも無く快感を
与えられたがゆえのあえぎ声だった。
「か、かおり、もっと、もっとっ!」
彼女は自分を抱く少女にさらなる刺激を要求した。
かおりと呼ばれた少女――高校時代はかおりんと呼ばれていた少女は、もっと敏感な
箇所を探るために、指の動きを激しくした。彼女の濡れそぼった秘所はかおりの指をほど
よく締め付け、女の内部の熱さを感じさせていた。かおりは彼女が自分を愛している証に
感激し、もっと強く証明してほしいと、彼女の反応の変化を鋭く察知し、最も敏感に反応
する箇所を捜し当てた。
「ねえ、ここがいいの?」
かおりは挑発的な笑みを浮かべ、彼女を見つめる。彼女の微妙な表情の変化を見逃さず、
自分の判断が正しかったと確信した。
「そこ、そこに、もっと、欲しい!」
彼女はベッドの上で、かおりの右手が与える快感に身を任せ、激しく悶える。普段は
凛とした顔立ちで、街ですれ違えば十人中十人が振り返るほどの美貌――実際、彼女は
女性にすら好意を抱かれていた――は誰もにクールな印象を与えるが、今の彼女はかおり
の指をはしたなく求め、乱れきっている。
かおりは左腕で彼女の上半身を抱き起こし、彼女の肩を抱く。長身の彼女は座高も
かおりより少し高く、かおりが彼女を見上げる形となった。そして、互いの顔も間近に
なり、唇も間近となる。もちろん右手の動きは止めることはない。少しだけ頑張れば唇が
届く――そんな位置関係がかおりにとっての理想だった。
「や、やあっ……そんな、みないでっ」
かおりに抱かれ、見つめられた彼女は急に恥ずかしくなったのか、身悶えする。それと
快感が合わさって、強く頭を振り乱す。そのたびに腰まで届くほどの髪も乱される。
彼女の黒髪は艶やかで真っ直ぐで、彼女の魅力の象徴のようにも思える。
かおりは自分の腕に抱いた女の全身を観察する。容貌と髪だけではない。すらりと長く
しなやかな肢体、たわわに実った乳房、全てが女性としての理想像であり、かおりの憧れ
そのものであった。それが今は、自分の腕の中にいる。
彼女は激しく乱れ、柔らかい乳房もぷるぷると意志を持っているかのように揺れる。
かおりはその乳房に吸い付いた。乳首を吸うと彼女の嬌声は大きくなり、軽く歯を立てる
とさらに声が大きくなる。
そろそろ頃合いかと見計らって、右手の指の動きを強くする。
「はっ、あっ、ん、んっ、んんんんっ!!」
かおりは自分の唇で彼女のそれをふさぎ、そのためあえぎ声はくぐもったものになった。
左腕で抱き寄せる力を強め、逃げることも振り乱すこともできないように唇を押し付け、
舌を挿し込む。
「ん、ん、ふはっ、はあっ」
乱れきった彼女の姿と、キスの感触。かおりも思わず喘いでいた。
「んっ、んっ、んむっ、ふあっ、ん、んんんーーーーーーっ!!」
彼女は唇をふさがれたまま絶頂に達した。唇を解放されると、酸素を求めて激しく喘ぐ。
全身を脱力させたまま、かおりの胸に頭を預けた。
榊によく似た特徴を持つ女――けれど榊ではない女はかおりの指使いに晒され、かおりの
腕に抱かれたまま果てた。
彼女の名は日坂椿(ひさか・つばき)。血縁者に榊という苗字の人はいないそうで、
榊と似ているのは単なる偶然ということになる。
かおりが椿と初めて出会ったのは、予備校の教室でのことだった。瓜二つというわけ
ではないが、一瞬榊と見間違ってしまうほど似ていた。榊を忘れられないために幻覚を
見てしまったのかと思ってしまったほどだ。顔だけでなくスタイルもよく似ていたし、
纏っている雰囲気も似ているような気がした。
「何人かに榊さんって言われた。それと人違いでしたって」
それでも椿と榊を重ね合わせ、卒業と同時に諦めたはずの恋を再燃させるには十分な
程度には似ていた。彼女と親しくなるにはどのように接すればいいか、その妄想癖を駆使
してシミュレーションを組み立て、榊と一番親しかった神楽のようにアプローチするべき
だと結論した。
「椿さん、隣いいかな」
「いいよ。かおりさん……だよね」
口調まで真似するわけではないが、強引にでも彼女に近づき、テストの点を競ったり、
忘れてもいない文房具や参考書を借りたり、昼食の時間のたびに行動を共にしたりと、
神楽のように大胆に――もちろんそれはかおりにとっても神楽のイメージでしかなく、
必ずしも神楽の実像とは一致しないのだが――接近し、着実に彼女と親しくなっていった。
椿はよく男に声をかけられた。榊と似ているのだから当然だと思いながらも、鬱陶しい
ので追っ払ってやったりもする。
「かおりちゃん、一緒にごはん食べよっ」
当然というべきか、予備校に入ったばかりの頃は誰でも大人しいが、性格まで榊に似て
いるものでもなく、どちらかといえば明るい性格であったし、椿は男性を苦手としている
らしく、守ってくれるかおりを頼り、甘えるようになっていた。
「知ってる? かおりちゃんと私って噂を立てられてるんだよ……」
頼られるような関係は、かおりの理想とは真逆ではあったが、そんなふうに上目遣いで
頬を赤らめてこられるとまんざらでもなく、椿に惹かれていることを自覚する。この美貌
でこんなかわいい顔をされたらもうたまらない。もう榊と椿を重ね合わせるようなことは
しなくなっていた。
「今度の休み、私の家に来て……」
椿が男嫌いどころか、そっちの気があるのだと、はっきり知ることになる。かおりに
とってそんな経験は初めてであり、技術の拙さに不安もあったが、それなりに彼女を満足
させることができた。あんなに美しい女がこんなふうに乱れるのだと考えると胸の奥から
ゾクゾクとした快感がわき上がり、彼女にますますのめり込んでゆく。何度も逢瀬を重ね、
肌を重ねると、そのたびに気持ちは強くなっていく。
しかし、榊と椿を重ね合わせることをせず、椿を好きになったからこそ、自覚して
しまった。自分はまだ榊のことを好きなのだと。
いまだに榊のことを考えると胸が高鳴る。人間諦めることはできても、忘れることは
できないらしい。あんなにも好きになったのだから、当然といえば当然かもしれない。
かおりは高校時代の思い出に耽る。一目見たときから気になっていたかもしれないが、
意識しはじめたのは体育の授業での活躍だろうか。そのクールな振る舞いと凛とした
佇まい、スポーツ万能で才色兼備。完璧超人と呼ぶにふさわしい同級生が一人いたが、
榊もまた完璧超人と言っていい。
そんな女性を好きになってしまうのは、思春期の女子にありがちな疑似恋愛なのだと
物の本で知り、自分もそうだったと思うことにして、ひとつの恋を諦めた。しかし、
女と愛し合い、唇を重ね、肌を重ね合わせたことは紛れも無い事実。自分がレズなの
だとすれば、榊への恋心も本物だったのではないか。それならば、榊を諦める理由は
どこにあるのだろうか。
一体、榊の何を好きになったのだろう。かおりは考える。
外見だろうか? 多分、それは正しい。世間にはうるさいことを言う人もいるが、
外見が感情のとっかかりになることは事実である。では外見だけを好きになったのかと
言えば、それは違うだろう。それならば、そっくりな外見をした女性に心変わりして
榊をあっさり諦めてしまえるはずだ。
性格だろうか。あの知的な容貌そのままのクールな性格。確かにそれも榊の魅力と
言っていいが、それを好きになったのなら、榊が猫好きだと知ったときに幻滅しても
よさそうなものだ。
では、その能力の高さか。それも人間的な魅力の一つだが、いかに榊が天才とはいえ
能力だけで言えば榊より優れた人間はいくらでもいたはずだ。
第一、新たに好きになった椿は、外見こそそっくりだが性格はまったくの別人だし、
自分と同じ予備校に通っている人間である。
かおりは、元々は肘まで程度だった椿の髪を腰ほどまで伸ばすように言ってみたり、
自分のことをかおりと呼ぶように求めてみた。それがかおりの理想だったからだ。それ
をしたところで、結局何もなかった。いくら求めても、あの頃ほどのときめきは得られ
ないのだと悟り、あの頃の記憶を蘇らせる。
ふと、あの古典の教師を思い出してしまった。いい思い出などという一言では片付け
たくない出来事の数々を頭から追い払おうと努力する。よくあれで教師を続けていられる
ものだ。
『女子高生とか好きだからー!』
無理にでもあの教師のいいところを挙げろというなら、その直情さだろうか。もし
そのくらい堂々と好きですと言えたら、榊との関係はどうなっていただろう……。
自己嫌悪。今のかおりの精神状態を表現するならその一言に尽きた。わめき叫ぶ椿に
話も聞いてもらえず追い出されただけならともかく、自室に帰ってから火照った体を
鎮めるために自分を慰めたことがさらに嫌悪感を強くした。
もっとも話を聞いてもらえたからと言って何を言えばいいのか。どんな顔をして彼女に
向かえばいいのか。何と言えば許してもらえるかを考え、そのことに至った原因を考える
と、自己嫌悪に陥る。その繰り返しだった。堂々巡りに飽きた思考回路は、そのうち
止まることを選んだ。
予備校に行く気力がないどころか、ベッドから降りることさえできずに、ずっと布団に
こもっていた。日光なんか全く惜しくない。カーテンの存在を無視してやってくる陽光が
憎らしかった。昨日をなかったことにできないのなら、せめて明日が来なければいい。
それならば少しは楽でいられるだろう――
家の呼び鈴が鳴った。どんなに願っても明日はやってくるし世界は止まることなどない。
だから止まっていない誰かがやってきてもおかしくはない。だがかおりはそれを無視する。
そのうち誰か家族が帰ってくるか、その前に相手も諦めるだろう。実際、呼び鈴もすぐに
止んだ。
かわりに足音がやってきた。それもかおりの部屋に近づいてくる。泥棒? 思考停止
しても防衛本能は残っているのだと妙なことに感心しながら、それでも何も行動をとる
ことはできずに、布団にこもってただ何事もなく終わることを祈るだけだった。祈りも
むなしく足音は的確にかおりの部屋までやってきて、かおりの部屋のドアを開ける。
「かおりちゃん!」
「へ? ……つ、椿さん!?」
果たして、そこにいたのは椿だった。ありえないと思っていた人物の登場にパジャマ
のままで髪を整えていないことも気にならないほど驚いていた。
「無用心だよ、鍵を開けておくなんて」
「ごめんなさい……」
怒った声で言う椿にそれしか答えられなかった。ただ、椿の顔を見るのが怖くて
目をそらす。
「私を、見て」
この声に逆らえず、椿を見る。しばらく見つめていると、その凛々しい表情は、怒り
ではなく決意から来るものだと気づくことができた。
――こんな顔もするんだ――
かおりは椿のことを、外見に似合わず明るくてかわいい性格の女の子だと思っていた。
しかし彼女の人間。時には怒りもするし、弱さだけでなく強さも秘めている。当たり前の
ことにようやく気づいた。
そのまま何も言えずにベッドに座ったままのかおりに、椿は足早に近づく。たった
これだけの距離がもどかしいというように。
「私を、見て」
同じ言葉を繰り返すと、有無を言わさずかおりを押し倒し、唇を奪った。
今度は、目を閉じなかった。かおりの視界は椿の顔でふさがれる。かおりの視線は
椿の眼に引き寄せられた。椿もこちらをしっかりと見据えており、文字通り目と鼻の
先で見つめ合う。強く真っ直ぐな眼差し。近づけば近づくほど魅入られる。
「んあきさんっ」
慌てて椿の名を呼んでみるが、唇を吸われたままでは正しい発音は出来なかった。
かおりの頭は椿の右腕でがっちりとホールドされ、激しく唇を貪る椿から逃れることは
できない。さらに、椿の左手がパジャマの上からかおりの乳房を揉みしだくのを感じた。
その手は、唇と同様に強く激しい。少しの容赦もなくかおりを襲う。
「あぁっ、はっ、はぁっ、ああっ」
優しい愛撫は体の外側から満たされていくが、激しい愛撫は体の内側から満たされて
いく。そんなふうにかおりは感じた。頭がぼっとして何も考えられず、唇が離される
僅かな隙間を縫って酸素を求める。これから更に激しくなるであろう行為に備えて。
左手が乳房から離れ、かおりの股に辿りつく。パジャマの上からあそこをこすると、
すぐにかおりも反応した。
「やあっ、あ、んっ」
かおりは焦らさないでほしいと言ったつもりだった。それが伝わったのかどうか、
椿は手をパジャマの下、そして下着の下に潜り込ませた。直接手で触れたそこは、すでに
十分な湿り気を帯びていた。大陰唇をなぞり、クリトリスを撫で、膣内に指を挿入すると、
順を追ってかおりの反応も大きくなる。
「あぁぁっ、あはぁっ、んんんっ」
体の中からかきまわされて、激しく喘ぐ。相変わらず唇を解放してはもらえず、いくら
呼吸を激しくしても十分な酸素を供給できない。意識はぼやけてくるが、快感だけは
はっきりと感じることができて、かおりの心を支配する。
「や、あ、あ、あ、あっ」
体の中から何かがやってくる。それが絶頂だということを経験から知っている。だから
かおりは目を閉じてそれを迎えようとした。
しかし、そこで椿の指がぴたっと止まった。
「ダメ、まだイかせてあげない」
椿はそれに応え、かおりの秘部に指をあてがう。その箇所の具体名を言わされずに
すんだことにちょっとほっとしながらも、中に進入してきた指に、すぐに心乱される。
「あ……んっ……」
体の深いところにやってきた刺激に、深く息をつき、喘ぐ。さらに椿はかおりの全身に
キスを浴びせた。唇、首筋、胸、わき腹、だんだんと下に進んでゆき、最後には椿の指と
同じ場所に辿りつく。
「や、やだ、すごいよ、それっ……」
膣内を指で、クリトリスを舌で。二重の攻めに理性が飛びそうになる。目を瞑って
頭を振り乱したかったが、それを堪えて椿を見つめる。懸命に自分を愛してくれる椿の
姿を目に焼き付けるために。それはどんな媚薬よりもかおりの性感を高めてくれた。
『私を、見て』
その言葉を思い出し、途切れそうな意識を必死に繋ぎ止める。もう見失わない。
「つばきさん、つばきさん!」
かおりから見えたのは精悍な横顔。懸命にかおりの大事なところをむしゃぶっている。
それがこちらを振り向いた。
「そろそろだよね」
一段と指の動きを激しくした。いつのまにかその本数が増えている。
「そんなに、私を見てくれるんだね」
凛々しい顔がかおりの眼前に来ていた。今はもう椿しか見えない。椿のことしか考え
られない。
「私も、かおりちゃんのイってる顔が見たい」
椿のささやき声も、かおりの秘所から聞こえる水音も、わずかにかかってくる吐息も、
全てがかおりを頂点へと押し上げようとする。
「つば、き、さん、すき、すき!」
達する前にそれだけは伝えたくて、言葉を紡ぐ。それが最後に残された理性だった。
「私も好きだよ、かおりちゃん」
それが最後の一押しだった。体の中から外から、あらゆるところからやってきた何かが
かおりを最高の地点に押しやった。
「つばきさん、もう、だめ、いく、いくーーーーーーー!!」
最後の瞬間は、目を開けていたのか閉じていたのかわからなかった。それでも、意識が
途切れる直前に見えていたのは椿の顔だった。
「ごめんねかおりちゃん、大丈夫?」
目を覚ますと、椿が後始末をやってくれていたらしい。まだ服を着ていないということ
は、大して時間はたっていないということか。
かおりは何も言わずに椿の手をとり、自分のもとへ引き寄せる。
「椿さんステキ……」
キラキラと瞳を輝かせ、椿を見つめていた。