487 名前:えずまんが大王[sage]:2007/01/21(日) 11:26:18 ID:zBavzIpE

「そんなことより、よみ。とりあえずコレを見てくれ、こいつをどう思う?」
「本当に……大きいな。お前のその態度は」
 人ん家を勝手にあさってスポーツ新聞引っ張り出して、テーブルのど真ん中におっ広げて
何がどう思うかだ。本当におめでたいな。
 それ以前「そんなことより」の「そんな」が意味不明なんだが。まあ、ともの行動に
意味を求める方が間違ってるだろうけどな。
「いいから見てみろって。ほらこれだよこれ」
 そう言って人差し指を紙面の中央にビシビシ立てる。やれやれ、一体何だってんだ。
仕方なくそちらに目を向け凝らしてみると、

 某紅白の全裸スーツ&股間キノコ事件が載ってました。

「な、このエンジョイ&エキサイティング」
「あっそ死ねよ」
さっさとその場から立ち去ろうとする私を、しがみつくように引き留めるとも。
「待てって、聞いてくれって! こっから真面目な話が始まるんだから、な、聞いてくださいよ、
お客さん〜」
「いいからわかったからとりあえず腰から手を放せ。いやむしろ放してください」
 体重を掛けて引っ張るものだから、ストレートパンツがずり落ちそうだ。こんなところで
昼下がりの情事とはいきたくない。

 

488 名前:えずまんが大王[supersage]:2007/01/21(日) 11:28:19 ID:zBavzIpE

そんなわけでとりあえずチョップをかましておいて、私はともの話を聞くことにした。
本人曰く、未成年の主張2007。どんなオチがつくかやらだが、最後はやはり私の
ダブルで締めだろう。マックにならってダブル二段のメガチョップでもいいか。
「で、どんなふざけた話だ? 早く突っ込んでやるから手短に話せ」
「いやいやよみ君、これから話すのは私の信念についてだよ」
「はあ?」
 信念ときたか。信念という言葉がこいつの口から? 右のインド人が口から火を吐きだしても、
ともの口からそんな言葉が吐かれることはありえない。信念というか説得力を感じない。
まさか、新年にちなんで信念とかいうギャグでもないだろうが。
「ほらこの事件さ、どう思った?」
「どう思ったって……バカなのは記事の通り、DJ某だろ」
 記事には彼のしたことと、彼へのインタビューが載っている。冒頭で謝りつつ、無理解と
無責任に対し憤慨しているようだ。
 無責任というのは、番組制作者側が自分がすることを全く知らなかったわけじゃないのに、
その点を無かったことにしている発言を指しているのだろう。
 確かにそう言えなくもないが、やっぱりバカだ。そう思う。リハの内容がプロデューサーの
耳に入ろうが入るまいが、事前に報告してなかったのは本人も認めてることだ。それなら
放送局側が知らぬ存ぜぬで通そうとするのをご無体とは言えない。

 

489 名前:えずまんが大王[]:2007/01/21(日) 11:30:00 ID:zBavzIpE

無理解というのに至っては、説明するまでもない。
「公共放送でアレはないだろ、素直に謝っとけよ」
 この記事に書いてある彼の台詞はどっちつかずだ。謝罪なのか抗議なのかわからない
言葉の羅列に見える。その上思いついたまま口から出てきた音声を丸々書き殴ったような
印象で、紙面に載せるものとしては不適に過ぎる。読者からの反発は必至だろう。
「ちっちっち。甘いね」
 指を振って不敵に微笑むとも。何気にムカつく。
「何がだよ、お前こいつにシンパシー感じてんのか?」
「チンパンジーなんか感じてねーよ。そもそも全部が全部オールオッケーなはずねえじゃん、
全裸は許すとしてもさ」
 許すのかよ! しかも全裸って実際よりレベルアップ(品性はダウン)してるし。
「あ? じゃあお前はどこに問題を感じたって言うんだ」
「そりゃあ、あれだよ、信念? ていうか生き様?」
 そこで信念が出てくるのか。どういうことだ? いや、待て。全裸で信念? ……全裸
信念……謹賀新年?
「何震えてるんだよ。笑ってるのか?」
 唐突に浮いて出たフレーズに自分で吹き出しそうになってしまった。オヤジ化してしま
ったことに自己嫌悪。せめて内面は若くありたい。こう考える時点で老けてるかもしれな
いという考えは、そっと心の片隅に蹴飛ばして放置。
「い、いや続けてくれ」
「? ああ。んでな、別に紅白はこういうの全面的にダメ出しされてるわけでもないよな、
少なくとも視聴者はさ」
「そうか? 相当叩かれてるけどな」
 新聞やテレビやネットでちょっと見たくらいだが、肯定意見は端に追いやられてた感がある。
「今年だけじゃなくてさ、昔だってパンツ一丁とか近藤くんとかあったじゃん」
「近藤くん? ……ああ、ゴムか」
「お、わかった? やっぱよみはエロいな」
 バシッ。
 振り下ろしたチョップをともは両手で挟む。真剣白刃取り。流石に読んでいたようだ。
やってくれる喃。

 

490 名前:えずまんが大王[sage]:2007/01/21(日) 11:31:24 ID:zBavzIpE

「確かにあったが、だから何だ?」
 ギリギリと手刀を押し込みながら聞く。ともはそれをバッと斜めに振り流して答えた。
「それとさ、今回の、何が違うと思う?」
「何がって、批判の数か?」
「違うって。察しがいいのはエロだけかよ」
「うるせーな。じゃあ何だよ」
「批判されるのは当たり前なんだよ。されないわけないじゃん」
「けど今年は非難囂々じゃないか、前の時はそんなでもなかったのに。なら知名度の差だろ、
身も蓋もない言い方をすれば。大物じゃなけりゃテレビ側も叩きやすいしな」
「多かろうが少なかろうが関係ないの。むしろ非難されなきゃしょうがないの。そういう
ネタなんだから、どっちもさ」
「その後で許容されるかどうかってのは関係するんじゃないか?」
「それもおんなじ。いいんだって、一生毛嫌いしたり、見下したりする奴が出てきたって」
「いや、開き直ってどうすんだよ」
 どういう思考パターンだ。嫌われても好きなことすればいいってことか? 私には理解
できない。いや、普通の人間なら周りの気持ちを一切無視して行動するなんてできない。
気違い沙汰だ。
 それともこいつなら理解できるっていうのか? ……うん、できるかもしれない。
 気の赴くままに突発的行動を繰り返す、自他共に認める暴走女子高生のこいつになら。
「要はそれで面白がってくれるんが一人でもいれば成功なわけなんだよ」
「その面白がってる一人が自分だけだったとしてもか?」
 はっ、とともは鼻で笑った。その上、外人が映画でやるみたいに手のひらを上に返しつつ
肩をすくませやがった。
「絶対ない」
「何?」

 

491 名前:えずまんが大王[sage]:2007/01/21(日) 11:32:43 ID:zBavzIpE

確かに仮定の話だ。誰一人支持者がいないなんてことはほとんどない。しかし、そうなる
可能性はないわけじゃないのだ。なのに。
 対してともは「絶対」と言った。それは100%面白いと思う奴がいるという断言。
 自信の根拠は何だ?
「伝わんないはずがない。『自分にはこれしかない、こうでしか全力出せない』って
腹くくってる奴の気持ちが伝わらないはずがないじゃん」
「これしかないって……あんなのだぞ? 最低だろ」
「最低も最高もそいつだけのもんだ。んで、それは誰も彼もに押しつけていいもんじゃないよな」
「そりゃそうだが、同じ事は芸する方にだって言えるんじゃないのか」
「だから非難GOGOも関係ないっての。出てきて当然だし、出てきたからって別にその
ことをどーこー言おうって気はないってさっきから言ってるじゃん」
「でも今年芸やったこいつは文句言ってるぞ」
「それがダメなんだよ。前にやった奴との違いはそこ。言い訳しちゃてるからカッコワルイんだ。
『オレは面白いと思ってやった。それだけだ』とか言って、真ん前見てりゃ良かったのにさ」
「にしたって芸の幅が狭すぎるだろ。下ネタしかできないんじゃ三流じゃないか。他に
やりようもあったと思うけどな」
「『他のやりよう』はそれをもっと上手くやるタレントに任せておけばいいんさ。他の
分野に手を出す必要ナッシング。自分は自分にできる最高のことをやるしかないだろ、
それだけしかないんだ」

 

492 名前:えずまんが大王[sage]:2007/01/21(日) 11:34:46 ID:zBavzIpE

 ともはソファから立ち上がった。右手に握り拳まで作って。
「くだらない、意味がない、最低。そんな評価がどうしたっての。大リーグやJリーグだ
って、ただの球遊びじゃん。意味は押しつけられるもんじゃねぇ。自分で決めるモンだ。
自分の決めた最高のものを全力全開でやれば、それが誰にもちっとも伝わらねーってこと
はありえねえんだ。そんでもバカにするヤツはいるだろうけど、わかりきってたことなん
だからほっときゃいいんだ」
 新聞を指さす。
「こんなのはダメだ。絶対に自分のしたことは否定しちゃいけない、言い訳しちゃいけない。
それはてめーとてめーの芸を受け取ったヤツを馬鹿にすることだからな。絶対にいけねーんだ」
私は熱弁を振るうともをポカンと見つめていた。空白というより塗りつぶされた平面に
近い頭に、ある思考が横切っていった。
そうか。
 何となくわかってしまった。
 こいつは今まで傍若無人の限りを尽くしてきた。けれどそれは決して考えなしにやって
いたことじゃない。いや、大部分は何も考えてないだろう。一般的に「バカ」と評される
所行だ。けれどその根底には「自分」を発することがあって、さらにそれは誰かを楽しま
せようとすることに繋がっている。
 つまりは「生きる」ということだ。自分を発揮し、相手と関わって。ともは全力で
生きているのだ。
 口に出してしまうと陳腐だが、何となく事なかれで日々を過ごしている自分は、果たして
ともほどに生きていると言えるのか。
 ともと接したことのある者なら、その強力なイメージがいつまでも残っているはずだ。
私にとっても、今までの思い出からとも関連の項目を取り去ってしまうと、かなり物寂しい
ものになり果てるだろう。
確かに迷惑だ。迷惑には違いない。それでもそれはともにとっての最高だし、周りにとっても
最高の一つになるかもしれない。少なくとも私にとっては、そうだ。と思う。恐らく。多分。

 

493 名前:えずまんが大王[sage]:2007/01/21(日) 11:36:33 ID:zBavzIpE

「奇人変人扱いされても、命かけてやってる芸人だっているんだ。『いつ死ぬかわからない。
だからオレはいつも死んでもいいくらいの力を掛けてる』。そう言ったね、私の尊敬する人は」
「尊敬する人?」
「エガちゃんだ」
「マジかっ!?」
「履歴書とかにも書いてる」
「書くなよ!」
「バカか、エガちゃんのすごさを知らねーのかよ。衆人環視の中、躊躇なく下半身丸出し
になり、そのまま集団に突入していった偉人だぞ」
「ただの変態だ!」
「イスラム圏でそれやって国際問題になったのは伝説だね。もはや神、いわゆるゴッド」
 その神は向こうの神を冒涜したわけだが。嫌なハルマゲドンだ。
 ……うぅ、確かに、ともの言ったことの第一線に彼はいる。見た目こそブルース・リー
のできそこないのような男だが、その存在感は決して引けをとらない。むしろ別次元で
別格だ。右に並ぶ者がいないというか、誰も並びたくないものすごいキャラクターなのだ。
「そんなわけで今年の私の抱負。如何に神に近づくか、これだね!」
「ちょ、おま」
「胸が焼け付くほどの生き様、見せてやるぜ!」
「ぃや、待」
 やばい。オチが来る。
「まずは手始めに全裸になって、町内を練り歩いてくるか!」
「うわぁあああっ! 待てぇええええぇえええっっ!!」
 すぽぽぽーん、とルパン並の脱衣で一糸まとわぬ姿になったともに慌てて手を伸ばすが、
無情にも空を切ってしまう。玄関へ小さい尻を振りながら嬉々として走っていく痴女。

 

494 名前:えずまんが大王[sage]:2007/01/21(日) 11:37:47 ID:zBavzIpE

まずいまずいまずいまずいまずい!
 もたつきながらも必死で追う。このまま逃がしたら不名誉すぎる称号が我が家に授与さ
れてしまう! 是が非でも止めなくては! むしろ息の根を!
 運動不足の私の足よ、無茶を承知で頼む。ほんの数秒でいい、今までで最速のレコードを!
 その願いに呼応するかのように生体ターボエンジンが発動。人間が無意識にセーブして
いるという筋力の限界を突破した。脳内で。
 ぐおおおっ、と裸の姿がズームアップするかのように、みるみる目標との間を縮めていった。
よし、捕捉!
「もぉらぁっったぁあああーっ!!」
気合一閃。玄関の手前で腰に飛びつき押し倒す。
 トラーイ! と声が聞こえた気がした。それくらい思い切りのいいタックルだった。
 や、やった。よくやった、私の足。後で甘いものやるからな。
「うー放せー」
 ジタバタ。自らの目論見を阻止されてもなお、ともは私の下で無駄な足掻きをしていた。
「往生際が悪い。もうお前は何もでき」
 ガチャ。
「ガチャ?」

 

495 名前:えずまんが大王[sage]:2007/01/21(日) 11:38:29 ID:zBavzIpE

視線を上げると、未だ正月ボケ風味の顔。それが玄関の扉を開けてこちらを覗き込んで
いた。何で大阪がここに? いやそれより。
「………………………………」
「………………………………」
「……ともちゃんに呼ばれてよみちゃんちに来たら、裸のともちゃんをよみちゃんが押し
倒しとる……」
「なっ」
 違、違うんだ、これは。そう言おうとしたが、言葉が出てこない。一体どういう説明を
すればいいんだ? しかも私らの息、めっちゃ荒いし!
「大阪ー、よみが、よみが変だー、誰でもいいから片っ端から呼んできてくれー」
「こっこいつ」
 ぬけぬけとほざきやがる! だがともの明らかに危機感のない台詞に、大阪は「わかっ
たー」と走り去ってしまった。私は再び、「うわぁああああああっ!」
このままでは私というか私自身にあらぬ疑いが! しかし大阪を追いかければ、ともを
解放してしまうことになる。そうなると素っ裸の好色一代女が町内行脚を敢行してしまう。
 ようやくこの時点で完全にはめられたことを知った私は、あうあうとただ狼狽えることしかできなかった。にやにやと笑う裸の少女を抱きかかえたまま。

 

496 名前:えずまんが大王[sage]:2007/01/21(日) 11:39:09 ID:zBavzIpE





ふと。
これもいつか遠い未来、いい思い出になるのかな、と片隅で思った。

〔江頭漫画大王:了〕

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