「…おはよ〜」
「だから朝じゃない」
「あたしが起きたから朝」
「だーまーれ。もう昼だよ」
私、黒沢みなもの夏休みの宿題は、ゆかりを叩き起こすこと。
いや、この宿題は年中無休か。
「とりあえず、座らせてもらうわよ」
「にゃも」
「なによ?」
「…お邪魔しますは?」
「さっき玄関で言ったわよ!」
こいつってば…私の苦労も知らずに!
夏休みなのに早起きして、あんたからの連絡待って、こなければ私が出向く。
なに?これが教師の夏休み?
ふざけんじゃないわよ。
私もつくづく甘いわね、こいつに…。
「はい、夏休みです」
「いえーい」
「夏休みといえば?」
「睡眠!自由時間!」
「去年から進歩なしね、あんた。やる気あるの?」
「ありましぇ〜ん」
毎年繰り返されるやり取り。
もう次にどんな言葉がくるか、わかってしまう。
とりあえず、何年かかってもいい…やる気あるの?の次にYESがくるようにせねば。
「今、12時」
「うん」
「予定表できた?」
「ほい」
「…12時………、12時も睡眠?」
「うん」
去年の12時は、自由時間だったっけ。
睡眠の割合が増えてるって一体…これは深刻である。
私の努力の結晶を、こんなとこで砕け散らせるもんですか。
「ダメです、外に出なさい」
「んだよー、おまえ先生かよー」
「おまえもな」
「んだよー、おまえ体育教師かよー」
「言い直してもダメ!」
バシッとだらし無い予定表に手を叩きつける。
短く声を上げてのけ反ったゆかりは、渋々と書き直しに入った。
ぶつぶつ言いながらも、最後は言う事をきいてくれるのが、ゆかりだ。
こいつには押せ押せよ。
「でーきたー」
ゆかりが胸を張って、予定表を差し出してくる。
その内容は全く変わっていない。
「………」
「ダメ?」
「ダメ!」
もう頭にきた!
今日という今日こそ、私の思うように動いてもらうわよ。
世界が自分を中心に回ると思うな!ゆかり!
「―ぅわ、痛い痛い!なにすんのよー?
「外、出るわよ。近所のスポーツセンターに行く!」
「えー、まだ着替えてもないのに…」
「なら早く着替えなさいよ」
「えー、でも面倒じゃん…」
私が繋がった腕を引いても、ゆかりは口を尖らせて動こうとしない。
…ったく、今日は一段とわがままだ。
飲み以外で、私と外に出るのがそんなに嫌?
私とは酒がのめればそれでいいのかしら?
こんなに想ってやってんのに、ひどいわね。
なら、私にも考えがあるわよ…覚悟なさいよね。
私が満足するまで味わって、それから口唇を開放してあげる。
耳まで真っ赤になったゆかりは、睨みつけながら震える声を漏らす。
「は……!にゃもっ…あんたね…こーゆうのは…」
「なに?」
「好きな男にやんなさいよ…」
熱に侵されて潤んだ瞳は、今にも泣き出しそうで、なかなか扇情的だ。
「なにそれ、誘ってるの?」
「はぁ?あんたバ、かぁ…っ」
言葉を遮るように、クーラーが効き過ぎた部屋に冷やされた掌を、ゆかりの服に侵入させると
おもしろいくらいに身体をくねらせる。
「私、バカって言われるの、一番嫌いなのよねぇ…」
「ぁ、謝るから…っひ、ごめ…んんっ」
お腹からゆっくりと撫で上げて、胸をやんわりと揉むと、とうとう瞳の端から一筋の涙が滑り落ちた。
「冷たいの?」
「んん、っ…」
「感じてるの?」
「にゃものば…か………あぁっ!」
つんと上を向いた頂を軽く弾いてやると、ゆかりの身体がぴくんと跳ねる。
「私、それ嫌いって言ったわよね?」
「にゃもぉ…ごめん、ごめんなさいぃ…」
「んー、ゆるさない」
だって…ちょっと懲らしめるだけのつもりだったのに、ゆかりのせいで本気になっちゃったんだもの。
「え――――あっ、」