>>785 即興でやってみる。たまには榊や神楽、木村以外で。
いよいよ受験も近づき、各自(一部例外を除き)その勉強で忙しくなっている最中―
一人、教室の隅で物思いにふける男子生徒が1名。
ゆかり先生担任の1年生の頃のクラスで、学級委員長を務めたひょろメガネ…大山である。
「……はぁ」
「ん?―」
大きなため息をつく、そんな普段の大山からは想像できない光景を
間近で目の当たりにしたよみは、思わず吹いていた。
「な、何?ため息なんかついて?何か悩みでもあるの?」
「そんなに俺がため息つくのが可笑しいかよ…」
「だって…(あの)大山くんがねぇ…」
まだ笑いが収まらず、再度吹き出しそうになるのを、口元をピクつかせながら必死に堪えるよみ。
「で、悩みでもあるの?」
「全く無きゃ、人じゃないよ」
「受験?」
「まあ…それもあるけど…」
よみが笑いの谷をようやく乗り越えて、真面目な態度に戻り、大山と向かい合い、ため息の理由を訪ねる。
「へぇ、意外。あんたって成績いいし、そんな事で何一つ悩みは無いと思ってたけど」
「あのな…人をどっかのマンガの出来杉みたいに言うなよ」
「それもある、と言ったんだ。本当のな―っと、あっぶね〜」
「ちっ」
思わず口が滑り、本命の悩みをいいかけて止まり、安堵する大山。舌打ちするよみ。
「…ちっ、て」
「ま、何にせよ、男なら悩んでないで行動あるのみ、なんじゃない?」
(だから、その行動に移し難い悩みなんだけど…まさか内容は言えないしなぁ)
「行動あるのみ、ね…」
「そうそう」
よみは得意気に人指し指を突き立てる。
「じゃ―」
「何?」
「俺と付き合ってくれ、水原」
世界の時間が止まった。
勿論、実際ありえない。
だが、今この教室の時間と空間だけは、確実に凍りついた―
実質にして5秒後。
「…冗談、でしょ?」
なんとか平静を保ち答えるよみ。
「冗談で言うセリフに聞こえたなら、今度は教室全体の周りの奴等全員に
聞こえるくらい、デカい声で言うが?」
「わ、わかった!やめろ!冗談じゃないんだな?!」
「イヤならイヤで、この場で断ってくれ。それで諦める」
「う…う〜ん」
普段の大山からは、想像もつかない気迫によみは狼狽した。 (こんなに強気に出てくるなんて…)
冷やかし半分に悩み事を暴露させようとした事を、よみは後悔した。
「わかったわ…いいわよ」
「え?!いいのか?」
「何よ、そっちから迫ってきて驚く事はないでしょ?」
「あ、いや…」
大山の方も、告白したはいいものの、80%以上返り討ち確実、
と思っていただけに、返事に頷くよみの姿は、全く想像していなかった。
(…仕方ない、話せる所までは話す、か)
「え〜、う〜ん…何て言えばいいやら…」
「で、結局あなたの悩みは私に告白するかどうか、だけだったの?」
「…ある意味じゃ、そうなるのかな?」
「?」
大山しばらく黙りこみ、大きく息を吸い込んでふぅ〜と吐き出し、その後よみの耳元で囁く様に言った。
「ヤりたい」
宙に浮く大山。
もちろん、よみの伝家宝刀、アッパーカットが炸裂したからに他ならない。
「遺言なら、後一言くらい聞いてあげるわ…」
「っつつ…だいたい俺の悩みを聞いてきたのはそっちだろ…」
「そんな愚劣極まりない悩みだと分かっていたら、速攻断ってたわ!」
「愚劣、か…」
大山はよろよろと立ち上がり、自嘲気味に笑う。
そしてよみに向かい言う。
「じゃあよみ、お前はこれから自分を好きだ、と本気で言ってくれる人に、一生身体を許さないでいる気か?」
「一生…ずっと…」
「ああ、ハッキリわかりやすく悩みを言わなかった俺も悪いとは思うが、
道徳や常識の面から言いづらいから、それも悩んでたんだ…」
「よ、要するに私とせ…せ―」 「セックスしたい、と思った」
大山はもうふっ切れていた。
「今まで、確かに学校の勉学面じゃずっと成績優秀できたさ。でも、最近―」
周りの楽しそうな連中を見て。
街を行き交う人々を見てて。
「不安になってた。この道の先に何があるのか、わからなくなって―」
「分からなくなって…そして、何でソコに私が出てくるわけ?」 「…ずっと、憧れてた」
「え?」
「背丈、声、髪、しぐさ…自分の描いた、理想の女の子像だったんだ」
「私が?…あなたの?」
「―だから、そんな女の子と付き合ったり、デートやそれ以上の事ができたら…
何か、変われそうな、そんな気がしたんだよ」
「………」
「今更隠さない。付き合いたいと思った動機、理由自体は自分でも確かに不純だと思う。
でも、俺はよみが好きだ。だから、付き合いたいし、する事もちゃんとしたい」
「私は…」
「返事は急がないよ」
「え?」
大山はよみの戸惑いを理解していた。
今の自分の要求に、素直に応じる事の意味に対する怯えも―
「もし受け入れてくれるなら、後で俺ん家にでも来てくれよ」
あれから3日後の大山宅。
ピンポーン。
「は〜い、今行きま…」
自宅の玄関先に。
私服姿のよみがいた。
「…あ、あの、おじゃまします」
「あ、ああ…」
二人はたいした打ち合わせもなく、すんなり大山の個室部屋へ入る。
「私も、ここまで来たから隠さない。やってみても…いいと思ったから」
「そう、か…」
覚悟はしている様だが、よみの顔はかなり赤い。
しかしそれは、自分もきっと同じだったろうと、大山は確信していた。
(恥ずかしい事をするんだ、と言ってるみたいなモンだし…)
何よりも先ず、気持ちはもう同調していると言う確信があったから。
やがて、よみは上着を脱ぎ始める。
服を脱ぐ瞬間に散らばる長い髪、徐々に露になる柔肌―
その仕草、身体すべてに大山の目は釘付けだった。
よみが下着のみの姿になるのに、結果的には30秒かからないくらいで終わっていた。
だが、大山が感じた時間の長さの間隔は、その比ではなかった。
「何かが変わるか、試そう?」
「…ああ、きっと―」
大山は、爆発しそうな鼓動をグッと堪えて、優しくよみに抱きついた。
(変わる、変われる―以前の自分じゃない、何かに―)
よみも大山も、多少なりとも通り一辺の知識はあったので、とりあえずは
ゴム付きで合意してその行為に及んでいた。
「ん…」
拙いキス。
決して巧いとは言えないタッチも、今の二人には上々の媚薬だった。
「やっぱり…乳首って起つんだ」
「…あ、あんまりジロジロ見ないでよ…ん、あ…」
「じゃあ見ないで揉む」
「う、そう言う事じゃ…な、」
よみは乳房を乱雑に揉まれ、顔を苦痛に歪めるも、荒い吐息、艶かしい喘ぎが、苦悶の表情を上書きする。
「…あ、むぅうう」
その喘ぎの口を、大山ががっぽりと舌を入れて塞ぐ。
「もう、俺も…限界かも…」
瞬間、よみの顔に緊張が走る。
(げ、限界?―それって?!)
「あッ!あ!」
大山の最大まで膨れあがった肉の棒は、よみのお尻の真ん中の穴を貫いていた。
そして、その勢いを失うまいと、大山は激しく腰を動かした。
よみも、もうそれを避ける事もせず、止めようとも思わなかった。
(誰が、誰を好きなのか―それを確かめる行為…)
「私も―」
立ったまま、ガクガク震える腰をひたすらそのままに、よみは意識がとぶ前に、何とか大山の耳元に伝えた。
「―す、好き…大山…くっ、んんんんっ!あッ、あぁあああぁぁあああッ!」
弛緩したよみの股間から、ドロリとした液が溢れた。
「う、はぁ…」
「…はぁはぁ…」
二人は立ったままではいられなかったので、床に横たわっていた。
しばらくの間、意識のとんでいたよみのその表情は、とても満足そうな、穏やかさに溢れていた。
「…よみ?」
「…」
やがて―
「…何か、変わった?大山君?」
「え?」
「自分で言ってたじゃない、私とヤれば、人生観変わるかも、みたいな事」
よみが唐突に聞いてきたので、大山は瞬時には即答できなかった。
「…ああ、変わった、気がする」
「何よそれ…」
「そんなに怒るなよ。第一、今すぐ変わった!なんて証明のしようがないだろ…」
「私は…変わったわね」
「へぇ?実感するんだ?」
「何言ってんの、あんたのお陰だってのに」
(打算や損得感情を抜きに、人と向かい合ってみたい、他人の本音にぶつかりたい、
と思ったのは、多分これが初めてだと思った―)
その後、二人は着替え、よみは大山宅を出て、帰宅した。
「また、来ていい?…」
「…ああ、いいよ」
しかしその翌日―
大山は自殺した。
遺書と思われる封書に、本人が書いたと思われる文を残して。
「悔いはない。もう、彼女に伝えるべき事は伝えきってしまったから。
僕はもう変われなかったから」
完