459 名前:【正夢】(1)[] :2005/12/19(月) 00:11:24 ID:MRdKr/uX
 

榊は暗い部屋の中にいた。

 どうしてこんなところに居るのか全くわからない。ただ、座っている私の周りを囲むようにして、いつもの五人がいる。皆が私を見下ろしているその視線は、氷のように冷たい……

 ちょうど私の目の前に居る一番小さな女の子が口を開いた。その可愛らしい口からは、予想だにしない言葉が発せられた。

 「私、榊さん嫌いです。」
 「えっ……?」
 突然のことに、これ以上ない簡単な言葉を理解するのに時間がかかった。
 「私も。みんなで盛り上がってる時も一人だけクールで、空気読めっての。みんな気ぃ使っちゃうんだよ、アンタ頭いいくせにそんなこともわかんないの?」
 榊の左前のほうにいるメガネをかけた女の子が言った。
 「あ……」
確かに榊には思いあたる節がいくつかあった。だが、そう思われているなど少しも思ってはいなかった。そのため、榊は急に自分が図々しく思われて恥ずかしくなった。
 もう、少し前に思った、なぜこんなところにいるのか、や、なぜこんなことを言われるのかといったことは頭になかった。
 「あ〜わかるわ〜それ。うちらが気ぃつこうてんのに、それに気づかへんでクール装うところがまた一段とムカつくねん」
 

 

461 名前:【正夢】(2)[] :2005/12/19(月) 00:28:32 ID:MRdKr/uX
 

二番目に小さな女の子が言った。
 「そ、そんな……私はただ……」
 必死にそのことを否定しようとする榊の声は震えていた。
 「ただ? ただなんねん? どうせ言い訳やろ?」
 「……。」
榊はもう声が出なかった。大切なみんなに嫌われていたことがわかったことからくる絶望感と、それを失ってしまうかもしれないという恐怖の念とで。
 「それともなに? 私みたいな人間にあたしらみたいな凡人が気ぃつかうのは当たり前ってか? か〜!アンタ最悪だね!」
  右後ろの女の子の声はいつものように明るかった、だが榊が振り向いた先にあった瞳は決して笑ってはいなかった。
 (そんな……)
 もう言葉にならない榊の思いは、自分の心の中にしか響かなかった。
 恐怖心と絶望感で榊はうつむき、すするように泣きだしてしまった。
その途端に――

――ドスッ!!

 鈍い音と共に榊はうめき声をあげてその場に横たわった。
 左後ろにいた日焼けした女の子が榊の脇腹に蹴りをいれたのだ。
 「あ〜あ〜、泣きだしちゃって惨めったらないね。こんなやつをライバルだなんて思ってたの恥ずかしいよ。」


 

 

462 名前:【正夢】(3)[今更ですが榊さんファンはちょっと辛いので注意!] :2005/12/19(月) 00:50:06 ID:MRdKr/uX


 (か、神楽……? なんで……? や、やめて……)
 新たな恐怖心と絶望感が榊を限界まで追いやっていく。
 痛みに耐えながら、親友だと思っていた神楽のほうを向く榊の目にはもう、怯えたきった光しかなかった。
 関をきったようにほかの皆が横たわる榊を蹴り始めた。
 「こんなやついないほうが私ら五人で気楽だよ! 死んじゃえよ! ほらほら!」

――ガスッ! ドカッ!

 「あがっ……! ぐっ……!」
 (やめて……! 助けて……!)
 「みんなのことは名前で呼べないくせに私のことだけ『ちよちゃん』なんて年上ぶって呼ぶのやめて下さい! えいっ!」

――ガッ!

 「あっ……!」
 (やめて……! なんで……!?)
 「どうせ榊ちゃんここで死ぬねん。『ちよちゃん』やめてもらわへんでもいいやん? せいっ!」

――ドカッ!

 「……。」
 (……助け……て……)
 「そりゃそうだな。アハハハハ〜! オラッ! 寝てんじゃっ! ねえよっ!」
 「……。」
 (……か……ぐら……)

 榊は目の前が暗くなっていくのを絶望の中で感じた。

465 名前:【正夢】(4)[] :2005/12/19(月) 01:17:10 ID:MRdKr/uX

 「いやあぁぁぁぁ!」

――ガバッ!

 「……えっ?」

 そこは榊の部屋だった。頭上のねここねこ時計は6時30分を指している。カーテンの隙間からは朝の柔らかい光が漏れている。

 (……夢……?)

 榊は上体を起こしてみた。さっきまでのことが嘘のように体に痛みはない。ただ、頬には冷たい滴が流れていた。

 (……いやな夢だ……もう二度と見たくない……)

榊は涙をふいて、朝食の用意をするためキッチンに向かった。その前に一度ねここねこのぬいぐるみを抱きしめた。だが今日はいつものような安心感を与えてはくれなかった。

 

 「……いってきます。」
 いつもよりもさらにトーンの低い声で誰に言うともなく言った。
 榊が家を出た途端にちよちゃんと出くわした。
 「あ……。」
 榊はいつものあいさつの言葉をつまらせた。
 頭の中では、夢での出来事だから気にすることはないと思っているのだが、夢で言われたことが的を射てるだけあり、声が出なかった。
 「あ……えっと……おはようございます。 ごめんなさい今日ちょっと急ぎますんで……」
 ちよちゃんは走っていった。いつもと違い、まるで逃げるように行ってしまった。あまりにも不自然だった。
 「え……?」
 嫌な考えが榊によぎった。


 私……本当に、嫌われてる……?


468 名前:【正夢】(5)[] :2005/12/20(火) 01:00:22 ID:FIUbCt27
 

私は、あの五人と仲良くなる前、つまり小中学校と高校に入学してすぐは、いつも一人で登下校してきた。
 もう慣れきっていたはずなのに、私は久しぶりの一人の登校が淋しく惨めに感じた。
 一体どういうことなのだろう。私が見たのは夢だ。だが、ちよちゃんのあの態度はどう考えても変だ。認めたくないが……嫌われている? でも先週までは普通にしていたのに……

 予知夢……そんなことばを聞いたことがある。確か、夢で見たことが現実でこれから起こるであろうことになる夢……。
 まさか……いや、きのせいだ。今日、たまたまちよちゃんには用事があったんだろう。
 榊はいつもよりプラス指向で考えた。だが、それでもやはり妙な不安感は拭いきれなかった。

――キィ

 榊は自分の下駄箱から中靴をとり、外靴を入れた。普通の女の子よりも幾分大きい靴を見る度に榊はコンプレックスを感じる。
 榊が靴を履き替えおえた時、廊下を歩く神楽を見つけた。少し日焼けした肌を晒しながら数人の友達と楽しそうに話をしている。
 
 そうだ。神楽にならこの思いを打ち明けられる。神楽はいつだって私の話を真剣に聞いてくれた。それに神楽は……私の人生で初めての……親友だ。

 

 

469 名前:【正夢】(6)[] :2005/12/20(火) 01:34:27 ID:FIUbCt27
 

榊は神楽の元に走った。
 「神楽、おはよう。」
 私はいつも通りを装うように言った。心の中では、神楽がいつものように元気に『おはよう』を返してくれることを期待していた。だが、それは期待で終わった。
 神楽は、困ったような顔でちらりと私のほうを見ただけで、すぐに視線を戻して友達とまた楽しそうに話を初め、教室に入ったいった。

 (え……? 気付いているんだろう神楽……?)
 
 神楽はいつでも必ず明るくあいさつを返してくれる。だが返してくれなかった。振り向いた先の私のことに気付いていなかったはずがない。
 私は気付いた。あれは予知夢だったんだ。私は嫌われていたんだ。神楽も、ちよちゃんにも。
 まさか、なんてなんて厚かましいんだろう……私は……私は……。
 瞳の奥に熱いものを感じた。一番失いたくないものを失った、その気持ちで胸が潰れそうだ。
(私……。また一人だ……。)
 

 

480 名前:【正夢】(7)[] :2005/12/21(水) 00:14:25 ID:pidCD9f5
 

友達が欲しいと思ったことが無いわけじゃない。でも一人での登下校やテスト勉強、体育祭や文化祭はそれほど苦にならなかった。
 それは、友達が出来ないのは私が無口で内気で素直に友達が欲しいと言うことをうまく表現できなかった事が悪いと思っていたから。
 だから、自分が悪いことなのだから。そう割り切っていた。でも、高校に入って私にも、たまに話かけてくれる人じゃない、『友達』というものができた。
 そこで初めてわかったんだ。一人でなにかをするより皆でなにかをするほうがずっと、ずっと楽しいということを。
 今日の夢を見て妙な恐怖を感じたのは、私は素直に友達を失いたくないという気持ちなんだろう。
 ぬいぐるみなどのように買えるものじゃない。私は買えるものじゃないものを今まで持った事がないんじゃないだろうか?
 失ったらもう二度と手に入らない大切なもの、それを失うなんて……怖い……頭が変になってしまいそうなほどの……不安……。

 こんな思いするくらいなら……友達なんて……
 

 

485 名前:【正夢】(8)[] :2005/12/21(水) 07:49:35 ID:pidCD9f5
 

「榊さん?」
 「えっ?」
 榊は急に自分の名前を呼ばれたことに驚いき、背筋がピッと伸びた。振り向いた先には怪訝そうな顔付きの黒沢先生がいた。
 「廊下で立ち止まっていると後ろに迷惑がかかるわ。」
 「え……あ……すいません……。」
振り返ると確かに、私が通路の少しをふさいでいた。
 (考えごとする時間だって、タダじゃないんだ……)
 なんだか急に現実に戻された気がした。

――ガラッ

――ガヤガヤ、ガヤガヤ

 榊は誰にもあいさつされないまま教室に入った。今日は、いつもの五人が榊の席からかなり離れたところで楽しそうに話している。
 榊は、あまり見ないようにしながら自分の席についた。どうしても、今日がいい日になる気がしなかった。

 

 

486 名前:【正夢】(9)[] :2005/12/21(水) 08:16:14 ID:pidCD9f5

 「アハハハハ! え〜とそんで、それから〜……」
 「とも、うるさい。」
 「なあ、よみ。榊、来たぞ……どうするんだ……?」
 「昨日今日言った通り、少しくらい不自然でも構わないから。」
 「で…でも、少しくらい話しても、いいだろ?」  「少しなら、でもあのバカがいるところじゃダメ。あと、気付かれないように。」
 「わ、わかってるよ。」
 「よみさん、私もいいですか?」
 「まだ朝のこと気にしてるの? まあ気持ちはわかるけど、謝ったらなんでそんなことしたのか聞かれるでしょ?」
 「あ……。」
 「でもさ、よみ? なんだか辛くないか、学校終わるまで榊、可哀想だよ……」
 「でも誰かが口を滑らしたら計画は台無しだろ? 私だって辛いんだから我慢してよ!」
 「……う、うん……」
 「なあなあ、私はなにしたらいいん?」
 「あんたは普通にしてりゃいいわ。ただあんまり喋らないで。」
 「わかった〜。」

492 名前:【正夢】(11)[なんでわかるんですかね? じゃあ変えます] :2005/12/21(水) 21:36:53 ID:pidCD9f5

 「では設問の3番を……榊、解いてみなさい。」
 「はい。この場合は先日習った公式が使えないので、二学期半ば頃に習った定理によって一度式を展開し……」
 「うん、完璧な解答だな。その調子で頑張りなさい。」
 「……ありがとうございます。」
 
長い答えを解説した榊に、クラスの女子が少しざわつく。
 「ねえ、榊さんってクールでかっこいいよね?」
 「うん、そのへんの男子よりいいよね。」

 ――ヒソヒソ

 「授業中だぞ、静かにしろ。」
 「は〜い。」
いつものことだった。勿論それが榊に聞こえていない訳ではない。中には聞こえていればいいな、と思いワザと声を大きくする者もいる。
 それは当然、聞こえていたら榊は気分がいいだろうし、こちらが好感を抱いていることが榊に伝わるだろうと思うからだ。
 だがそれは本人にしてみれば全く違った。「かっこいい」と言われる度に、それが「かわいい」ならどんなに嬉しいことだろうと思う。
 「かっこいい」と言われることでできなくなること、「クール」だから取れない態度。そして外側からは見えない「内気」で「無口」な性格。
 そんなことにがんじがらめにされて、誰かに甘えることもできな


493 名前:(11)続き[] :2005/12/21(水) 21:43:14 ID:pidCD9f5
 

い。いや、甘えることどころか、気軽に話さえできない。
 それはとても苦しいことだが慣れてしまえば、少し不自由なだけだと感じていた。だが、それは高校に入って友達ができてから変わった。
 自由に自分の個性を主張できて、皆が耳を傾けてくれる。不自由なことなどない。それがとても楽しいことだとわかった。
 それを今、失おうとしている。それがどれほどの恐怖か、不安か、榊は思い知った。誰かの胸で泣き付きたい、思いっきり甘えたい。そんな気持ちだった。
 だが、今の榊には、そんな人はいなかった。
 

 

495 名前:【正夢】(12)[] :2005/12/21(水) 22:18:46 ID:pidCD9f5

 ――キーンコーンカーンコーン

 4時間目の終了をつげるチャイムが校舎に響き渡った。

 「じゃあ今日はここまで。 あ、体育の補習を受けなければならない人は、昼休み、つまり今から、着替えて体育館に集合。課題を発表するわ。なお、なかった場合は留年よ。」
 「は〜い。」
 先程までの静寂が嘘のように教室の中が騒がしくなった。個々に弁当を広げる者もいれば、弁当を持たず学食に行くものもいる。極僅かだが授業中に食べ終えた者もいる。
 私は、今日はいつもの五人が来ないことを考え一人で自分が作ったお弁当を広げた。一人での食事がこんなに味気無いものだったのかと驚いた。

 

 「なあ、榊、一人でお弁当食べてるよ……? 可哀想だよ……」 泣き出しそうな声で神楽が言う。
 「そうですよ、ここまですることないですよ! 榊さん淋しそうです……」
 ちよちゃんも同じ調子だ。
 「私、ちょっと行ってくるよ。」
 「私も……」
 「いいから待ってて。」

 

496 名前:【正夢】(13)[] :2005/12/21(水) 23:57:40 ID:pidCD9f5

 「えっと……さ、榊!」
 一人で弁当を食べている榊を横に、神楽がぎこちない声でいう。
 「ん……?」
 榊は、朝のことでかなり気まずい雰囲気を感じた。目をあわせずに平静を装った返事をした。
 「えっと〜、その……なんていうかさ〜……」
 神楽とて同じだった。
 「……どうした……?」
 「えっと……朝の、あれ、あの……ごめん……!」
 神楽がしどろもどろに謝った。神楽はどう思って言ったのか知らないが、榊はすごく嬉しかった。榊は自分の頬が少し紅潮してきたのを感じた。
 「そんなことか……?」
 つい思ってもみない言葉が出てしまう。素直になれないのも榊の悪いところだ。だが、それがまずかった。
 「えっ……? そんなこと……そんなこと……?」
 神楽がごもるように言った。榊はすぐに「しまった!」と思った。
 「あ……神楽! 違う……!」
 神楽の耳には届かない。
 「そっか……私のあいさつなんて……そんなこと……だよな……」
 榊が必死に弁明する。
 「いや違うんだ神楽……!」
 「……ごめん、もう行かなきゃ……じゃあ……」
 
 ――タッタッ

 神楽は行ってしまった。榊には後悔しか残らなかった。

502 名前:【正夢】(14)[俺ドSだから榊みたいないじらしい子いじめんの大好き〜] :2005/12/22(木) 07:47:28 ID:U5AloH+l

 「神楽さん、どうでしたか?」
 ちょうど教室を出てすぐのところにいたちよちゃんが聞いた。
 「あ……普通だった。ちょっとどいて、トイレ行ってくるから。」
 声のトーンが急に低くなった神楽は少し下を向いていたが、ちよちゃんの身長では、神楽が隠そうとしている涙のたまった瞳がよく見えた。
 神楽はそのままトイレに行った。多分、用をたしはしないのだろう。
 「……神楽さん。」
 ちよちゃんには、どうしても榊が、その涙の原因にしか思えなかった。当然それはいいほうではない。

 (……また、やってしまった……)
 榊は深くため息をついて、瞳の奥からくる熱いものを必死でこらえた。
 どうして私は人の気持ちを考えられないのだろう。嫌われたくない嫌われたくないと思いながら、人に嫌な思いをさせている。
 そのくせ、それに気付けないでいる。それって、どこまで厚かましいんだろう。私なんか嫌われて当然だ。
 
 (神楽、ごめん……)

 榊は自己嫌悪に陥っていた。


509 名前:【正夢】(15)[] :2005/12/22(木) 23:33:16 ID:U5AloH+l

 「お〜い! ちよすけ〜!」
 活発な女の子が、教室のドアの外側にいる小さな女の子めがけて走ってきた。ともだ。
 「さっきよみに言われたんだけどさ〜今日の……って神楽は一緒じゃないの?」
 「神楽さんは……」
 ちよが困ったような顔で、ことのあらましを説明した。

 「じゃあまだトイレに……?」
 珍しくともは話を真面目に聞いて真面目に答えた。
 「なあ、ちよすけ。それってさ、もしかして榊って結構やなやつなんじゃない?」
 「えっ?」
 「だってあいつが泣くくらいのことを、言ったかやったかしたんだろ?」
 ともは、ちよでははっきりといえない部分を直に指摘した。
 「……」
 いつもなら「そんな! 榊さんは優しい人です!」と答えるであろうちよも、今ははっきりと言えなかった。
 実際のところ、神楽が教室から出てきてすぐにトイレに行ったあの時から、僅かではあるが頭によぎっていたことだった。そんなちよに構わずともは続ける。
 「な〜んか少しやる気失せたな〜。」
 それ以上ちよにとってあまり考えたくない事だったので、ちよは話題を切り替えた。
 「そういえばよみさんがどうとか……?」
 急に話題を切り替えてもなにも疑うことなく話にのってともが答える。これがともちゃんの数少ない長所かもしれないとちよは思った。
 「あ、そうそう。実はよみが〜……」

 ――キーンコーンカーンコーン

 「あ……」
 同時にでた言葉だ。
 「次はゆかりちゃんだから早くしないとまずいわ。んじゃ後で。」
 ともはそう言って教室に入っていった。
 ちよもすぐに教室に入った。

526 名前:【正夢】(16)[] :2005/12/24(土) 11:47:01 ID:0f5rs3+P

 ――キーンコーンカーンコーン

 放課後を告げる電子チャイムが校舎の中に響き渡った。それを聞いて喜び勇んで帰るものもいれば毎日の部活に励むための準備をするものもいた。
 榊はそのどちらでもなく、静かに鞄に必要なものを詰めて帰路についた。
 その榊のいつもより寂れた背中を正門より隠れ見ている五人がいた。
 「よし、私とともと神楽は自転車で直行。思いっきりこげば榊が帰るまで三十分は空く、その時間に飾りつけアンド用意。ちよちゃんと大阪は遅いからバスで。OK?」
 「なあなあ、勝手に榊ちゃんち入ってええのん?」
 大阪が言った。よくぞ聞いてくれたとばかりによみが答える。
 「実は私が事前に榊の両親に連絡しておいたから大丈夫! 両親は平日は夜までいないからって、スペアキーまで渡してもらったのよ!」
 「へ〜、よみスゲーな!」
 「じゃあもう時間がないから、みんな、行動開始よ!」
 よみととも、神楽は自転車置き場に直行し、ちよと大阪はバス停に走った。

532 名前:名無しさん@ピンキー[] :2005/12/24(土) 19:42:49 ID:0f5rs3+P

 その頃、榊は一人、長い帰路についていた。いつも一人でいることに大きな不安を感じたり畏怖したりすることはないが、今日は別だった。

 (……神楽……)

 どうみてもあの態度は、なにかワケアリだった。それがなにかは知らないけど、私にとっていいほうではないことは確かだ。 それでも、私にあいさつのことで謝りにきてくれた。
 そんな神楽だから、いつでもそういう神楽だから、私は神楽のことを特別な存在に感じているのかも知れない。私は神楽のこと、全てひっくるめて好きなんだろう。
でも私は……神楽に対して少しの気遣いすら考えないで傷つけてしまった……
 「なんでみんな私を嫌うの?」なんて、図々しい、私の醜さが完全に現れた問いだ……
 それが私が原因だって気付いてない証拠で、私のほうに問題がないと思い込んでいた証拠。
 とどのつまり、私は神楽の優しさを逆手にとって神楽を傷つけた、それでいて神楽にだけは嫌われたくない、私のことを好きでいてほしいと願っている。
 (……アハハハハ……なんなんだろう……?……私って……?……)
 
 人目を気にして必死に堪えた涙はもう自分では抑えきれなかった。


533 名前:【正夢】(18)[] :2005/12/24(土) 20:31:15 ID:0f5rs3+P

 「よみ〜。もぅつかれた〜。」
 いつもとは違うともの気の抜けた声だ。
 「何回も何回もうるせぇ〜! ダイエットだと思え!」
 よみの声だ。
 「……」
 「なぁ〜、榊んち遠くないか〜?」
 「それも何回目だよ!? ダイエットだと思え!」
 「……」
 昼休みからずっと、元気のない神楽を見かねてよみが言う。
 「神楽、そんなに気にすることないよ。榊は……その……口下手だろ? だから……えっと……」
 「いいんだ……別に気にしてないから。」
 よみを見た神楽の淋しそうに笑う表情によみは狼狽した。
 「あ……神楽。ごめん……」
 「よみ、ありがと……」
 それだけを言って神楽はまた口をつぐんだ。

 (……榊……)
 榊は私のことどう思ってるんだろ……?
 少なくとも私は、ただの友達とは思ってない。なんていうか……普通の友達より、大事な感じ。ここにいるよみとかバカには悪いけど、選べって言われたら間違いなく「榊」って答える。
 なんでそう思うのかはわからないんだけど、とにかく榊を選ぶ。これが好きってことなら、そうなのかもしれない。
 別に恋とかそういうことじゃないんだけど、好きなんだと思う。
 榊は私が欲しがるものをみんな持ってるからなのかもしれない。冷静な考え方、本当はすごく優しいところ、なんでもできること、ガサツでバカな私には全くないところばかり。


534 名前:(18)続き[] :2005/12/24(土) 21:45:34 ID:0f5rs3+P
 

だから、求めているものの姿が榊だから好きなのかもしれない。 でも榊は……お前はそう思ってないんだよね……? 私のことなんてさ、別になんとも思ってないんだよな……?
 そりゃあ、私だってあんな風な態度とったけど、それは……
 (……仕方なかった……?……本当に仕方なかった……?……)
 ……いや……違う……それは言い訳……私にも悪いところはいっぱいあった。
 あいつのカワイイものの話もあんまり興味示してないし、二人でいても自分の話ばかり……。
 (……なんだ……冷静になってみれば私の落ち度ばっかだ……)
 どうでもいい……か……そりゃそうだよな……面白くもない話ばっかしてて、ガサツであいつの気持ちも考えなくて……そんなやつって特別な存在じゃないよな……? 私なんて……

 (……榊……)

神楽は溢れそうになる涙を、よみ達に見せないように拭った。

 「よみ……あのさ、私んち今日両親泊まりで家のこととか頼まれてるからさ……その、一回帰ってもいいかな……?」
 ともが割ってはいる。
 「なんだ、来ないの? 私たちだけに用意させんのか〜?」
 「あ、ああ……悪い……犬のえさとかもやらないとまずいから……少しだけ遅れて行くからさ……」


 

 

535 名前:(18)続き[] :2005/12/24(土) 22:12:39 ID:0f5rs3+P

 神楽の少し紅くなった瞳を見てよみがいう。
 「……わかった。飾りとか用意は私達に任せて。」
 「……ありがとう、よみ。じゃあ、また……」
 それだけいうと神楽はターンして今きた道を戻っていった。
 「よみ、帰らせちゃっていいのか?」
 ともが真面目に聞いた。
 「あんなに必死に悩んでるのを見て、帰るな! なんて言えないでしょ? どうしても帰って一度落ち着きたかったのよ。多分。」
 「そんなに悩んでた? あんまりわかんなかったけどな〜。」
 「だって……神楽って嘘つくやつじゃないだろ?」
 「……?」
 「神楽の家に犬なんていなかったでしょ……?」
 「……あっ!」

542 名前:【正夢】(20)[] :2005/12/25(日) 17:56:53 ID:VCtCKWE+

 ――キィッ!

 「ぜぇ……ぜぇ……あぁ〜……やっと着いたぁ〜……」
 「はぁ……はぁ……どうだ……! ダイエットは過酷だろ……! それより、自転車を隠すぞ……はぁ……」
 「ぜぇ〜……待ってよ、よみ〜……」

 よみとともは榊の家の前に出た。見上げながらともが口をつく。
 「へぇ〜榊んちってフツーなんだな〜。もっとでっけ〜イメージがあったよ。」
 「そっか、おまえは榊んちくるの初めてなんだな。榊の部屋みたらビックリするぞ〜。」
 「な、なんだよ〜! もったいぶるなよ〜! 早く開けろ〜!」
 ――ガチャ

 「うわ……。」
 「な、すごいだろう……?」
 榊の部屋は……一面ネコだらけだった。といっても生きているものではない。全てがぬいぐるみや絵や写真である。
 「え……なに…? ギャグ?」
 ともが唖然としていう。
 「違うよ、榊ってさ、本当はかわいい女の子なんだよ。姿形はかっこいいけどさ、芯が誰よりも女の子なんだ。」
 「よみ? なんでそんなこと知ってんの?」
 「神楽がさ……楽しそうによく話してくれたよ。」
 「……なあ、あいつ来るかな……? なんか私、来ない気がするんだ……」
 「……わからない……まぁ、いや……さぁ準備するぞ。」
 「……あ……ああ。」

550 名前:【正夢】(22)[] :2005/12/27(火) 21:46:52 ID:J+k8zMug

 ――ガチャ

 「ただいま……」
 榊は誰もいないことを知ってながら、習慣となったあいさつをした。その声には凛とした爽やかな勢いは感じられず、逆にどんよりと濁っていた。
 (……疲れたな……今日はもう寝よう……)
 そう思って榊は二階に上がり、自分の部屋のドアをあけた。

 「……え……?……」

 榊は素直に驚いた。その自分の部屋はいつも通りにネコのぬいぐるみで埋め尽されている。
 だがそのネコのぬいぐるみひとつひとつが、まるで榊に差し出すようにカードを持っている。
 そしていつもより幾分華やかになった榊の部屋の中央のテーブルには色鮮やかに装飾されたデコレーションケーキが置かれている。
 さらにそのケーキの前にも、榊から正面の位置にカードが置かれている。
 榊は混乱気味にそのカードをそっと取り上げた。
 「……榊、誕生日おめでとう!!……」
 榊は一人でそのカードに書いてあることを呟いた。そのとき

 ――パンッ!!

 「きゃああああああああ!!」

 背後から急になったパンッ、という高い渇いた大きな音に、榊は驚きのあまり後ろを振り返りながらテーブルわきのベッドにへたれこんだ。
 いつもの榊とは誰もが思わないであろう、誰よりも女の子らしい悲鳴をあげながら。

 「榊、誕生日おめでとう!!」

566 名前:【正夢】(23)[] :2005/12/28(水) 17:01:21 ID:3x5toySx

 「……え……?……」
 完全に警戒しきった榊の瞳に映っていたのは、榊がいま入ってきたドアの向こうにいた、クラッカーを手に持った、ともとよみだった。
 ともがいつも以上にうるさい声でいう。
 「奇跡! 榊のドッキリ誕生日パーティー大成功!!」
 「奇跡とドッキリは余計だ。」
 すかさず、よみがつっこみをいれた。
 「……え……あ……?……」
 
 (誕生日……? 私の……?)
 
 榊はふっとカレンダーに目をやった。
 今日は……あ……確かに私の誕生日だ……全く気付かなかった……。
 でも何故? なんでよみさん達が私の部屋に?
 それになぜ私の誕生日を知っているのだろうか?
 いや、それよりもよみさん達は……私のことが……嫌いなんじゃ……?

 榊は混乱した。聞きたいことがたくさんあるのにどうしても声がでない。
 そうしてる間に、よみとともが榊の傍に腰をおろして、言った。
 「驚いただろうけど、まあ落ち着いて。榊?」
 そしてよみは自分がいれたコーヒーを差し出し、テーブルの自分の向かいに座るように促した。
 「……あ……うん……。」
 榊も言われるままにした。だが到底落ち着ける状態にはなかった。


567 名前:【正夢】(24)[] :2005/12/28(水) 21:48:17 ID:3x5toySx
 テーブルのケーキを正面にして榊が座り、その向かいによみが座った。ともは勝手にベッドの上に寝っ転がっている。
 それは榊にとって異質な空間であり時間だった。だが積もるその疑問よりも、自分を嫌っている人間と向き合っていることの妙な不安と恐怖が上だった。
 ブラックコーヒーの芳ばしい匂いが漂う部屋のなかで、うつむいてなにも言わない榊によみは言った。
 「ちよちゃんと大阪が来る前に言っておきたいんだけど、まずは色々ごめんね。」
 「え……?」
 「だから、勝手にこういうことしたり、無断で部屋借りたりして、ビックリしたでしょ……?」
 榊はきょとんとした顔を少し上げた。そして自分の部屋を見回した。それからとものほうをチラリと見た。その時ともが口を開いた。
 「あ、榊ちゃんの部屋がこういうふうだってのはよみから聞いてたからさ。私はなにも変とは思わないから気にしないで!」
 ともの素直な感想とタイミングの良さに、よみは心の中で「とも、ナイス!」と言った。それは榊は知るよしもなかった。
 そうは言われても榊はやはり恥ずかしそうに顔を赤らめて、またうつ向いてしまった。
 「……でもさ、こういうのもたまにはいいんじゃないか、って思ったの。」
 「え……?」
 よみの言葉が理解出来ずに榊が単音を返した。
 「榊さ、いつもアレだろ? その……クールでさ、自分からあんまり、喋らないじゃん……? みんなでどこか行ってもさ……? だから、ン…」
 軽く咳払いをしてまたよみが続ける。榊はうつ向きながら聞き入っていた。さすがのとももこの空気の中ではおとなしい。


568 名前:【正夢】(25)[] :2005/12/29(木) 00:14:47 ID:3/PaegKq
 
 「だから、じゃなくて……その、私達は友達だろ? だから、もっと榊と仲良くしていたいし、榊にも私達といることが楽しいって感じてほしくて……さ……だからこういう、ン」
 よみが二度目の咳払いをした。
 「だから、こういうふうにすれば榊の素直なところも見れるし、楽しいって感じてもらえるかな……って……迷惑だったかな……?」
 「そんなこと……ない……!……すごく、すごく……嬉しい……」
 榊が最後の一句に反応して背筋を伸ばし、うるんだ瞳でよみを見て精一杯に言った。
 「そう……なら良かった。」
 よみは内心、涙のたまった榊の瞳を見てドキッとしたが、その言葉を聞いて素直に喜んだ。

 (……よみさん……そんなに……私のことを……思ってくれていた……なんて……)

 溢れそうになる熱い滴を懸命に堪えている榊。だが、あることが頭をよぎった。
 よみさんは私のことを嫌ってなんかいない……むしろこんなに大切に思ってくれていた……でも、ちよちゃんは……? ちよちゃんの朝の行動は一体……?
 榊は今、自分が置かれている立場を考えて、そのことを考えないようにした。だがそれも束の間だった。

 ――タッタッタッ、バタン!

 「榊さん! 誕生日おめでとうございます!」
 「おめでと〜。」
 大阪とちよが榊の部屋に飛び込んできたのだ。
 「おっせーな! ちよすけ、なにしてたんだよ〜!」
 ともが久しぶりに口を開いた。その問いに答えたのは本人ではなかった。
 「ちゃうねん。あのな、ともちゃん。バスの時刻表はなんであんなん……」
 「ああ、わかったわかった。お前が原因か。」
 よみが呆れて言った。それには触れずにちよが続けた。
 「あの、榊さん、これ私達からのプレゼントです!」
 ちよはいつもより幾分膨らんだカバンの中から綺麗にリボンをされた「ねねここねねこ」ぬいぐるみを出して榊に手渡した。
「あ……」
 榊がなにかを言おうとするその前に、ちよは意外なことを榊に言った。
 「あの、榊さん。今朝はすいませんでした。謝ろうと思っていたんですが……」
 榊がまたきょとんとした顔をした。
 「実はよみさんに、誕生日のパーティーのことは榊さんに極力バレないようにしてって言われてまして。だから、膨らんだカバンを見られたらマズイと思って……」
 榊は次々に心の中の淀み晴れていくのを感じた。


569 名前:【正夢】(25)[] :2005/12/29(木) 07:52:29 ID:3/PaegKq
 
 「だから、じゃなくて……その、私達は友達だろ? だから、もっと榊と仲良くしていたいし、榊にも私達といることが楽しいって感じてほしくて……さ……だからこういう、ン」
 よみが二度目の咳払いをした。
 「だから、こういうふうにすれば榊の素直なところも見れるし、楽しいって感じてもらえるかな……って……迷惑だったかな……?」
 「そんなこと……ない……!……すごく、すごく……嬉しい……」
 榊が最後の一句に反応して背筋を伸ばし、うるんだ瞳でよみを見て精一杯に言った。
 「そう……なら良かった。」
 よみは内心、涙のたまった榊の瞳を見てドキッとしたが、その言葉を聞いて素直に喜んだ。

 (……よみさん……そんなに……私のことを……思ってくれていた……なんて……)

 溢れそうになる熱い滴を懸命に堪えている榊。だが、あることが頭をよぎった。
 よみさんは私のことを嫌ってなんかいない……むしろこんなに大切に思ってくれていた……でも、ちよちゃんは……? ちよちゃんの朝の行動は一体……?
 榊は今、自分が置かれている立場を考えて、そのことを考えないようにした。だがそれも束の間だった。

 ――タッタッタッ、バタン!

「榊さん! 誕生日おめでとうございます!」
 「おめでと〜。」
 大阪とちよが榊の部屋に飛び込んできたのだ。
 「おっせーな! ちよすけ、なにしてたんだよ〜!」
 ともが久しぶりに口を開いた。その問いに答えたのは本人ではなかった。
 「ちゃうねん。あのな、ともちゃん。バスの時刻表はなんであんなん……」
 「ああ、わかったわかった。お前が原因か。」
 よみが呆れて言った。それには触れずにちよが続けた。
 「あの、榊さん、これ私達からのプレゼントです!」
 ちよはいつもより幾分膨らんだカバンの中から綺麗にリボンをされた「ねねここねねこ」ぬいぐるみを出して榊に手渡した。
「あ……」
 榊がなにかを言おうとするその前に、ちよは意外なことを榊に言った。
 「あの、榊さん。今朝はすいませんでした。謝ろうと思っていたんですが……」
 榊がまたきょとんとした顔をした。
 「実はよみさんに、誕生日のパーティーのことは榊さんに極力バレないようにしてって言われてまして。だから、膨らんだカバンを見られたらマズイと思って……」
 榊は次々に心の中の淀み晴れていくのを感じた。


571 名前:【正夢】(26)[] :2005/12/30(金) 09:49:49 ID:fy/gtwAf

 繋げてよみが言う。
 「そうそう、私は、ともとか大阪とかのいわゆるバカが、榊に誕生日のことばらしちゃうんじゃないかって思って……裏目にでてしまったかな…?」

 (なんて……バカなんだろう……私はあんな夢ひとつで……)

 すかさず大阪とともが異議を申し立てた。
 「なんや〜よみちゃん! うちはいわゆるバカとちゃうで! れっきとしたもんや!」
 「そ〜だそ〜だ! 私らは……っておい!」
 「やっぱりバカには違いないじゃないか。」

 (……こんなに私を……思っていてくれる人を……)

 「なんだと〜!? この中性脂肪! 小太りメガネ!」
 「なんやともちゃん! うちは太ってへんで! 太ってんのは……」
 「お前じゃねぇ〜!」
 「うるせえー!!!!」

 (……私は……私は……)

 「だいたいお前らな! 人の誕生日にうるさ…………榊……?」
 よみが途中で言葉を切って榊の名を呼んだ。それに気付いた二人は榊を直視した。
 榊の瞳からは自己嫌悪から来た自分の醜さと、よみ達の愛情から来る嬉しさや厭しさが熱い形となりきめ細かく美しい頬を伝っていた。
 それでも榊は顔をうつ向せることなくよみの瞳を見ていた。
 「私……私……」
 榊はもう抑えきれなくなった感情を言葉に変えた。
 「榊……」
 よみとちよが榊の側に駆け寄った。その表情は困惑に満ちていた。
 「私……みんなに嫌われ……避けられて……」
 かんぱつを入れずちよが言う。
 「そんな……」
 「ずっと……そう思って……て……だから……」
 「……」
 「……だって……私……口……下手で……小心……者で……そのく……せ……」
 榊の顔は涙で濡れ、目は涙で見えなくなるほどだった。咳き込みながら精一杯に気持ちを伝える姿にみんな固まっていた。
 「榊さん……今日でもう終わりです。そんな考え……ここにいる誰も、みんな榊さんのこと、大好きなんですよ……」
 ちよが言った。とても重みがあって、その場を収めるくらいの言葉だった。
 「あ……ああっ……ううっ……」

 ――ガバッ

 榊はちよの、自分よりも凄く小さな胸に抱かれて声をあげて泣いた。ちよは子猫を慰めるように榊のその美しい長髪がかかった頭を優しく撫でていた。

574 名前:名無しさん@ピンキー[] :2005/12/30(金) 22:11:06 ID:fy/gtwAf

 

 それからしばらくして、誕生日パーティーも宵の口に入ろうとしていた。
榊にはもう先ほどのような姿勢は少しも見えず、いつものようにみんなと打ち解けあっていた。いや、いつもより喋るくらいだった。
 榊も、自分のために用意してくれたことを自分の事情で湿っぽく終わらせてしまうことだけは避けようとしていた。
 そんな気持ちは、今までの榊にはなかったものだった。今までに友達だけで自分の誕生日パーティーなど、思ってもみなかったからだ。
 なんとなく、なんとなくだけれども榊には、友達がどういう存在であるか、そして自分はどうあるべきかが分かりかけてきていた。
 ここにいるみんなとは、神経を尖らせるほど気を配って話すような、そんな、卒業したらさようならといった安っぽい友達でありたくないと思ったから出た行動だった。
 みんな、そんな榊に気付いていたが、それについては何も言わなかった。みんなはいつものペースで話をしていたのだ。
 榊に合わせて話題を変えたりせず、それにどうにか適合しようとする榊の気持ちを無駄にしようとは思わなかったからだ。
 まあ、ともや大阪はそれに気付いていたのかどうかはわからないが。
 そういえば、誰も神楽に関する話題には触れなかった。榊でさえ。

 「みゃ〜お」
 一時間ごとにねこの鳴き声アラームがなる置き時計が、おおよその時間をみんなに知らせた。
 「もう十時か……さてと、とも、そろそろ行くか?」
 よみの問いにともが答えた。
 「うん。榊ちゃん、今日は楽しかったわ! んじゃあ。」
 「じゃあわたしも帰るわ〜。」
 「さよなら……また明日。」
 榊があいさつをした途端にちよが慌てて叫びながら階段を降りた。
 「あ〜!! 大阪さんはまだダメですよ! 私達は後からきたから後片付けを〜!」
 そう言い放ってちよは榊の家の外の暗闇に消えた。

 ――ガチャ

 「逃げられてしまいました……」
 ドアの前には、本当に悔しそうな顔のちよがいた。
 「アハハ……いいんだ、片付けは私がやるから。」
 「あ! 私も手伝います。」
 そういってちよは食器を一階に運びだした。
 「ありがとう……」
 榊は心に思ったことをそのまま口にした。ちよちゃんは「えへへ」とかわいく笑って、また作業を続けた。


577 名前:【正夢】(28)[] :2005/12/30(金) 23:06:30 ID:fy/gtwAf

 ちよが食器を持って転ばずに一階に降りて行ったのを確認して、榊は部屋の装飾の片付けを始めた。
 榊は、モールや花飾りを捨てるために外していた時、ふとテーブルの上のバースディカードに目がいった。
 榊は作業をやめて、みんなの字で書いたバースディカードを手に取り、それを静かに見入った。
 しばらく榊はカードを見ていたが、フッと微笑んで、モールや飾りをゴミ箱にいれる傍ら、そのカードを自分の勉強机の中にしまった。神楽のカードを除いて。
 自分の部屋の作業を終えた榊は、一階のキッチンに降りて、まだ半分も終わっていないちよちゃんの食器洗いを手伝った。

 「ちよちゃん……」
 「なんですか?」
 二人とも食器を洗いながら話している。
 「あのぬいぐるみ、ありがとう……一生大事にするから……」
 「えへへ、嬉しいです……」

 ――ガチャガチャ

 「榊さん……」
 「ん……?」
 「大事にするのは、ぬいぐるみだけですか……?」
 「えっ……?」
 「……今、榊さんに大事にしてほしい人が……いるはずです……」
 「……」
 「どんな事情があったのか私はわかりません、ですからこれ以上のことはなにも言えません。」
 「……わかっているんだ……今からでも……そう思っていたんだ……」
 ちよちゃんは笑っていった。
 「良かったです、やっぱり榊さんは優しい人ですね。」
 「……私が……本当に優しい人だったら……こんなことにはならなかった……」
 その榊の言葉を堺に二人とも押し黙った。黙ってはいたが、なにも考えていない訳ではなかった。

 「じゃあ私はこれで失礼します。榊さん、明日は一緒に学校に行きましょう。」
 「うん……暗いから帰り道、気を付けて……また明日。」

 ――パタン

 玄関の戸が閉まった。

 「…………ハァ……」
 榊は深いため息をついて二階に上がった。そして数分ののちにまた玄関の前にいた。上は無地の黒のTシャツ、男物のワイシャツにつつみ、下は黒のパンツズボンをはいていた。

 「……よし……!」

――ガチャ、バタン

 榊は玄関から勢いよくでて、一目散に神楽の家に向かって走った。
頭の中には、パーティーの最中に押し殺していた神楽への思いしかなかった。

581 名前:【正夢】(29)[] :2005/12/31(土) 11:22:29 ID:guJGp6zA

 私にとって、今日は特別な日になった。初めての友達だけでのバースデイパーティー、みんなの気持ちがとても、言葉に出来ないくらい嬉しかった。
 友達が、どういう存在なのか僅かながらわかった。そして、友達がどんなに脆い存在なのかも。
 私にとって、よみさんやともさん、大阪さんにちよちゃんはかけがえのない、友達。
 でも、こんなこと考えるのはよくないことだとわかっているのだけど、神楽はそれ以上の存在だと思っている。今だって。
 私は内気で小心者で無口で本当は寂しがりやで、だからよみさん達と話ができるようになったころでも、よみさんとともさんのような存在ではなかった。
 少し、他のみんなより距離があって、時には自分からなにもいえずに淋しい思いもした。でもそれは私が悪いだけ。
 だからこそ、急に私との距離を積めて、少しも警戒せずに私と友達になってくれた神楽が大好きだった。
 いつも明るく話ができて、一緒にお弁当も食べて、一緒に帰ってくれて、それは私が高校で生きていくための、どれほどの支えになったのか知れない。
 神楽はそのことを知るよしもないのだろうけど、毎日、感謝していた。
 だから、私と神楽は特別な存在でありたいと願うなら、私も神楽の心の支えにならなくちゃならない!
 だから私は今、走っているんじゃないか! 例えこれから神楽にどう思われようとも、神楽が特別な存在だと伝えるんだ、今までできなかったこと、今ならできる気がする。
 その勇気をくれたのは、いつものみんな。みんなが私の心を支えてくれて、神楽も支えてくれて、それなら私も誰かを支えてあげたい。その誰かが今、神楽なんだ!

 

582 名前:【正夢】(30)[それも、ありだな……www] :2005/12/31(土) 15:49:06 ID:guJGp6zA

 ――ハァ……ハァ……

 榊は神楽の家の前で荒くなった呼吸を整えていた。頬の紅潮が少しずつ引いていき、大きな胸に伝う汗が冷たくなってきていた。
 榊はズボンの後ろのポケットからかわいいねこ柄のハンカチを出して汗を拭い、また几帳面に半分折りずつに畳んでもとに閉まった。
 今更ながら、榊は緊張していた。いきなりドアを閉められたりしたら……いや、「今更、どのつら下げてきたんだよ!!」なんて怒鳴り殴られても……仕方のないことだ。

 ――ピンポーン

 数十秒が過ぎる。なんの物音もしない。

 (……もう寝てしまったのか……?)

 ――ピンポーン

 ――ガチャ

 「はいはい……! 誰だよ……こんな時間に……!」

 二度目のインターホンから数十秒後、玄関のドアノブが回った。と同時にドアの向こうから不機嫌そうな声が聞こえた。
 榊は心臓が飛び出しそうになったが、できるだけ平静を装おうように努力した。

 「あ……?」
 「え……?」
 ドアの向こうに居たのは、茶色がかったウルフヘアーで褐色に日焼けした、榊より少し小さい男の子だった。顔つきが神楽に少し似ている。
 「……あ、えっと、姉ちゃんの友達ですか…?」
 同じくらいの歳の男から話かけられた榊は少し硬直してしまったが、すぐにいつものように戻った。
 「え……? あ……はい……君は……?」
 「あ、弟っス……姉ちゃんなら少し前に公園の自販機でジュース買いに行ったっきり帰って来ないっスよ。」
 「え……あ……そう……」
 「じゃあ、これで……」

 ――パタン

 お、弟がいたんだ……知らなかった……

 短時間で突然の出来事に榊は神楽のことが頭から飛んでいた。それも短時間の出来事だった。
 公園か……神楽と一緒に行ったことがあったな……確かここから近くだったはず……
 榊は見たことのある道だけを選んで歩いた。かなり先のほうに電灯に照らされた公園の入口がある。
 (ああ……そうだ……あそこだ……)
 榊は無意識の内に走った。あと百メートルあるかないかだ。その時。

 「……!!」
 「……」
 「……! ……!」 「…………!!」

 なんだ……? 人の声……? なんていっているのかは聞きとれないが、確かに人の声がする。
 榊はいつの間にか足を止めていた。
 この声は……

 「……神楽……!? ……神楽の声だ……!!」

 榊は神楽が公園にいると確信した。


583 名前:【正夢】(31)[] :2005/12/31(土) 22:10:13 ID:guJGp6zA

 神楽……!
 何を言っているのかは聞き取れないが、その神楽の声が普通ではないことを知り、榊は声のするほうに走った。
 ちょうど自動販売機のところに、神楽は、いた。その神楽の前には背の高いのと低いのとの二人の男が立っていた。ここまでくればさすがに声は聞こえる。
 「いいから来いって言ってんだろ!!」
 背の高いほうが神楽の腕を強く掴む。男の指が神楽の細い腕にめり込んだ。
 「痛ッ!! ふざけんなよッ! 放せ!」
 (神楽……!? あの状態はどうみても……普通ではない……)

 いつも強気な神楽が、言葉には出さないものの少し脅えているのは目に見えて明らかだった。
 「静かにしろっ!!」

 ――パンッ!

 高い音が公園内に鳴った。背の高い男が神楽の頬を張ったのだ。神楽は、初めて受けた男性からの不当な暴力に明らかな脅えの色を見せた。
 「痛……あ、いやぁ!! やめてっ!」
 それと同時に男二人が神楽を引きずり、どこかに連れていこうとした。その時

 榊は、キレた。

 ――ダッダッダッ

 一番初めに気付いたのは、男達の行動に暴れて抵抗していた神楽だった。
 「…………さっ………榊ッ!!?」
 その声を、今までの抵抗の声ではないことに気づいた男二人が後ろを振り向いた。
 瞬間、背の高い男の体は横っ飛びし自動販売機に頭を打ち、気を失った。
 榊の飛び顔面蹴りが命中したのだ。
 榊はすぐに体制を整えて、何が起きたのかまだ理解しきっていない背の低い男の、神楽の腕を掴んでいる手にめがけて踵を下ろした。
 「うがぁ!! ……うあ……なんだテメェ…!」
 背の低い男が騒ぐと同時に榊はいい放った。
 「今すぐ神楽から手を放せ!!」
 その声と、氷よりも冷たそうな瞳に男は手をさっと放して、ノビてしまった相方を担いで逃げ出した。実際、榊のその表情と声に、神楽もすくんで動けなくなるほどだった。
 「二度とこのあたりをうろつくな!! 次に見たら……殺してやる!!」
 恐ろしい瞳と表情で榊が、男の後ろ姿に叫んだ。神楽は、先ほどの男達よりも今の榊に脅えていた。今までに考えもしなかった榊の姿を見て。

 榊の顔つきは、嘘のようにいつもの顔つきに戻り、神楽のほうを心配そうに振り向いた。
 「神楽……ケガはない……!?」
 「あ……ああ……」
 「良かった……!」
 榊は本当に安心した表情をして胸をなでおろした。


584 名前:【正夢】(32)[] :2005/12/31(土) 22:51:49 ID:guJGp6zA

 幾分かして、神楽も榊も落ち着き、神楽が言葉少なく礼を言った頃、やっと本題に入った。
 「榊……なんでこんなところにいるんだ……?」
 榊は、いつも通り言葉に詰まった。
 などということはもうなかった。
 「私は……神楽に謝りたくて……」
 「え? あ……ああ……そうか。 私こそ最初に……ごめん……」
 「……」
 「……」
 「神楽……」
 「……な、なんだよ……?」
 「……今日のパーティー、楽しかったよ……すごく……」
 「……」
 「……どうして来てくれなかったんだ?……なんてこと私には言えない……私はいつも神楽の気持ちを考えないで、自分のことばかり考えて……」
 「……」
 「……だから、……それが結果的に……来てくれなかったことにつながっていたって……やっと気づいたんだ……」
 「……違うよ……私は……自分のせいで榊を怒らせちまったのに、またアホアホってパーティー行くなんて空気読めないな、って思ったから……」
 「そんな…私は怒ってなんか……いないよ……」
 「どうしてだよ……? だって最初に私が……」
 「……理由がわかったから……もういいんだ……」
 「……」
 「……」
 「……榊」
 「……ん……?」
 「……私さ……榊のパーティー、すっごく楽しみにしてたんだよ……」
 「……」
 「……でもさ、当日にあんな小さなことで……気まずくなって……素直になれなくて……後悔して……私、バカだよなぁ……なぁ……?……」
 神楽は泣いていた。
 「……神楽……」
 榊は神楽を抱き寄せて、胸で泣かせてあげた。自分のことで神楽が泣いていることが、とても苦しく、榊は死んでしまいたいくらいの心持ちだった。
 「……うっ……ううっ……」
 いつの間にか、榊も声をあげて泣いていた。背の高い榊の頬から伝う涙が神楽の顔を濡らした。神楽は涙を止めて、初めて榊が泣いているとわかった。
 「榊……」
 「……すっ……素直になれてないのは……うっ……私……だ……」
 「……」
 「いっつも……クール装おって……人の気持ちも考えないで……バカで、無口で、臆病で……」
 「……榊」
 「……でも……今日だけは、違う………」
 「……榊?……」
 「何があっても……私の気持ちを神楽に伝えたいんだ……」
 「……」
 「……神楽は……どう思っているか知らないけど、私はもう、神楽とは、友達でも、例え親友でも……足りないんだ……」


587 名前:名無しさん@ピンキー[] :2006/01/01(日) 19:01:47 ID:IHmZI1gQ

 「……もう……友達じゃ我慢できない……親友でも我慢できない……神楽……」
 「……な……榊……なにを言って……」
 「……私の大切な人に……なって欲しいんだっ……!!……」
 「……榊ッ…!!」
 榊は顔を本当に真っ赤にして、うるんだ瞳を神楽に向けた。表情には、どこか不安げだがある種の覚悟を決めた証があった。
 同じように神楽も顔を紅くしていた。榊の突然の告白に、喜ぶよりも驚きを隠せずにいた。あの榊がこんなことをいうなんてという驚きを。
 その榊に対して発している言葉に、自分自身矛盾を感じてはいるが、榊を受け入れられない、自分の素直になれない心が恥ずかしく、ほとんど考えられなかった。
 「もちろん常識外れな考えだってこと……わかりきってる……でも……でも!!…………神楽……神楽は私のことが……嫌い……?……」
 「……きっ……嫌いな……わけないだろ………!!……私だって、榊は特別な存在だって……思ってた……で、でも…いざこんなこと言われると…なんて言ったらいいのか…」
 「……ありがとう……もう……言葉はいらない…………」
 榊の言う通り、もう言葉はなんの意味ももたらさなかった。
 神楽の柔らかい口を、榊のもっと柔らかい口が塞いだ。
 凄い衝撃と、榊の味にうちひしがれて何もできなくなっていた神楽も、だんだんと自分から榊の唇を愛し始めた。
 二人のうるんだ両眼には、愛する人、大切な人の姿しか映っていなかった。二人とも、今はそれでいいと思った。
 「榊……」
 「神楽……んっ…!……んんっ……」
 神楽は榊の甘い口の中に舌を入れた。それに驚いた榊は少し身震いをした。
 自分達がとてもいやらしいことをしていると感じた榊は、さらにそれの感情が油となり、激しく神楽の唇を求めた。


588 名前:【正夢】(34)[上のが33ね〜ちなみに9回www] :2006/01/02(月) 00:06:05 ID:hbQ4CTl2

 「……んっ……」
 二人の口から漏れる声と卑猥な音だけが夜の公園に響いた。
 「ん……はあっ……」
 少しずつ息苦しくなってきた神楽は、ゆっくりと唇を離した。
 それに気付いて少し残念そうに紅く染めて伏せた榊の顔を見て、神楽は素直に「かわいい」と思った。それは絶対に「かっこいい」ではなかった。
 神楽は、目の前でかわいく顔を伏せているこの女の子を、壊してしまいたい感情にかられた。壊れるほどの愛情を注いで、そしてひとつになりたいと思った。
 榊は、いつまでもこんな時間が続けばいいな、と感じていた。
 「あっ……!? ……か、神楽……!?」
 神楽は榊を、通称「お姫様だっこ」で担ぎあげた。榊の背中と足に、神楽の頼りがいのある筋肉質な腕の感触を感じた。
 今まで抱き上げられたことなどなく、きょとんとしたかわいい顔を神楽に向けている榊を担ぎながら神楽は歩き出し、自動販売機から少し離れた公園の柔らかい草むらに榊を優しく下ろした。
 「……へへっ……」
 神楽の気味の悪い笑い声を聞いて榊は少しだけ背中に冷たいものを感じた。
 寝っ転がったままの榊に神楽がマウント状態に乗った。いわゆる馬乗り状態だ。
 神楽は素早く榊のワイシャツを脱がせて、Tシャツとブラジャーの下からふくよかで形の整った榊の胸に手をあてがって、もみくちゃに揉みしだいた。
 「あっ……!! あんっ……ん……くっ……!! ……くぅ……ん……」
 神楽の手の動きに合わせて榊の口から卑猥な声が漏れた。
 「榊、気持ちいい……?」
 「……!!」
 榊は顔を真っ赤にして神楽から眼をそらした。そんな榊を見て神楽は、どうしようもないほどに榊を「いとおしい」存在に感じた。めちゃくちゃにしたいほどに。
 「あれぇ? なんだ? ここは硬いなぁ……?」
 意地悪く神楽が笑いながら榊に囁いた。確かに神楽の手は、榊の硬くなった乳首を捻るように摘みあげていた。
 「ああっ……!? くうっ……」
 榊は耳まで真っ赤にしてまた眼をそらした。神楽が今まで見てきた中でどんな顔よりも榊はかわいかった。いとおしかった。
 「なあ……榊……もう脱いじゃおうぜ……?」
 「……う……うん……」
 手早く衣服を脱ぎ捨てた神楽に対し、ここにきてまで脱いだ衣服を丁寧に畳む榊。二人の性格の差は凄いものであった。


589 名前:【正夢】(35)[] :2006/01/02(月) 00:40:25 ID:hbQ4CTl2

 丁寧に時間をかけて神楽の分まで衣服ん畳む榊をみて神楽は呟いた。
 「さ……榊ぃ……ここまできてそれはないよ……」
 「でも……脱ぎ捨てたままだと変に皺がついちゃうから……」
 「あ〜はいはい……って……あ〜………もう!! 榊ぃ!!」
 「な……うわ……きゃっ!!」
 神楽は榊に飛びかかった。仰向けに倒れる榊のちょうど上になった形になった。と同時に神楽は榊の一番、女の子の部分に手をやった。榊のそこは濡れに濡れていた。
 「そ、そこは……だ……ダメッ!!」
 「ダメェ? どうしてだよ……? 榊のここ、こんなに濡れてるのに……」
 そういって神楽は触れただけで愛液にまみれた手を榊の目の前に突き出した。
 「あ……」
 榊は困ったような顔をしながらも、自分が合意のもとに犯されていることに大きな快感を感じた。榊の湿りがまた一段と増したのを榊自身が感じた。
 神楽も自分達が合意の上で榊を辱めている自分に興奮していた。はっきりとSとMが分かれていた。だがそれが一番二人にとって似合う形だった。
 神楽は躊うことなく自分の中指を、入れた。そして親指で榊のクリトリスをなぶった。
 「くああ!! あっ、んんっ!! ああああっ!!」
 榊は今まで味わったことのない大きな快感に身をよじって答えた。神楽は続けたまま姿勢を低くして、榊の乳首を口でもて遊んだ。
 「ああああっ!! ダメッ!! ダメェ!! ひああっ!! んくうっ!!」
 神楽は榊の絶頂が近いことを知って、さらに指を速くした。榊もそれに答えた。
 「いっ!! イクッ!! あっ!! うあああああああ!!!」
 神楽のゆびが締め付けられた。榊は身をくねらせたその快感に耐えた。

 

 沈黙が流れた。

 

 「榊……」
 冷めやらぬ榊が虚ろな眼を神楽にやった。
 「榊……ひとつになろう……」

 「……うん……」

 

 色々とある愛の形のなかで、決して多くはないであろう形で二人はひとつになった。
 称賛を贈るものは何もなかったが、二人は幸せだった。いつまでも幸せであろうと誓った。


590 名前:【正夢】(LAST)[終わった〜] :2006/01/02(月) 01:20:10 ID:hbQ4CTl2

 帰り道。
 これからどうなるのか、どうあるべきなのかは二人とも分からない。普通の人とは違う形の二人、色々と悩みや価値観の違いは出てくるはず。
 でも大丈夫。この先なにがあっても、この繋いだ手は離さないから。
 そう思って榊は小さく笑った。そして繋いだ手に力をいれた。


 「神楽……」
 「なに?」
 「実は……」
 急に榊は、神楽に今日の、いや、昨日の夢のことを話しだした。
 榊はなぜ話をしたのか。それは不安だったからだ。あれが予知夢や正夢の類だとすればと考えると。
 「ふ〜ん、なあ、それって有り得ると思うか?」
 「あ……いや……私、みんなに嫌われてると思ってたから……怖かった……」
 「でも実際、起こらなかっただろ?」
 「うん」
 「じゃあ正夢とかじゃないだろ。」
 「う……うん」
 それでも榊はなにか考えている。いくら夢とはいえ、あんなことをこんな繊細な女の子が見せられたのだから、すぐには消えそうになかった。
 神楽は思いついたように少し声を大きくして言った。
 「あ、わかった!」
 「……なにが?」
 「それ、逆夢だ!」
 「逆夢……?」
 「正夢は現実に起こることの夢だろ? 逆夢は現実と逆に起こることの夢だよ!」
 「……?」
 「つまりさ……榊を一番始めに……その……夢の中で蹴ったのは……私だろ……?」
 「……うん……その後に、よみさんとちよちゃん……」
 「つまり……夢の中では私が一番、榊を嫌ったんだ!」
 「…あ!」
 「ってことは私が現実では一番榊のこと、好きだってことだろ……?」
 「そ、そっか……! 逆夢……よみさんも私のためにパーティーを……ちよちゃんも……私を励まして戒めてくれた……」
 「……な?」
 「つじつまがあう……」
 「だから榊、そんな夢もう気にするなよ……?」
 「うん……」


 「神楽……」
 「なに?」
 「ありがとう……」
 「…うん……」


 二人はすぐに神楽の家に着いた。榊はもっと道が長かったらいいのにと思った。
 「じゃあ、また明日。」
 「うん……気を付けて帰れよ。」
 「わかってる。」
 「じゃあな……」

 

 (ふう……)
 榊の頭の中には色々なことが流れていた。でも、今日は考える気にはならなかった。
 帰り道、歩きながらふと夜空を見上げた。一面の星空だった。
 榊はどうしても、明日が悪い日になる気がしなかった。

 終わり

 


592 名前:【正夢】(おまけ)[] :2006/01/02(月) 01:37:29 ID:hbQ4CTl2


 次の日、神楽の家にて

 「姉ちゃん。」
 「ん?」
 「昨日の人、なんていうの?」
 「昨日って?」
 「あ、姉ちゃんいなかっんだっけ? なんか、姉ちゃんの友達だって人。夜中にうちに来たんだ。」
 「……? どんな人?」
 「髪長くて、凄くきれいな女の人。」
 「……榊のこと? あ、そっか、確かにうちにこなきゃ私が公園行ったなんてわかんないか。」
 「榊……さん……か」
 「榊が、なんかしたの?」
 「いや……」

 「姉ちゃん」
 「ん?」
 「榊さんって何歳?」
 「私の同級生だよ。」
 「え!? タメなの!?」
 「上にみえるよね。」
 「うん……」

 「榊さんって、どういう人?」
 「う〜ん……ああ見えるけど本当は優しくて繊細な女の子。」
 「姉ちゃんより?」
 「私じゃ話にならないよ。」
 「へえ……」

 「姉ちゃん。」
 「ん?」
 「榊さんを……俺に…紹介してよ……」
 「えっ……榊を……?」
 「……うん」
 「ダメだよ、榊、恋人いるよ?」
 「あぁ〜……やっぱり……」
 「なに? 気に入ったの?」
 「……ちょっと……」
 「アハハ! かわいそ〜!」
 「ちくしょ〜……! 付き合ってる人、姉ちゃんと同じ学校の人……?」

 「さあ……ね……」
 神楽は小さく笑った。
 終わり


 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

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