地上へ照りつける激しい日差しも、プールで水しぶきをあげて歓声をあげる
少女達にとっては、最高の天国に変わる。
ごくスタンダードな濃紺色をしたスクール水着を身に纏った、平坦な体つきを
した少女と、シャープなラインが特徴的な競泳用水着に、小柄ながら豊満な肢体を
包んだ少女は、休憩をとるためにプールからあがった。
大阪が売店へジュースを買い求め、神楽はパラソルの下に、持参したビニール
シートを拡げる。
「神楽ちゃん。もってきたで」
「おっ、さんきゅー」
小さな掌から差し出された紙コップに注がれたコーラを、嬉しそうに受け取ると
一気に飲み干す。
「ぷはっ、うめえ」
真っ黒に日焼けした神楽は、喉を大きく鳴らして歓声をあげた。一方、ほんのりと
赤くなっている程度の大阪は、短い舌を浸すような様子でちびちびとオレンジ
ジュースを飲んでいる。
「神楽ちゃん。今日はありがとうなあ」
「ん? 」
お礼を言葉を口にした少女に、神楽は少しだけ怪訝そうな顔を浮かべた。
「今日、いろいろ泳ぎ方を教えてくれたやん」
「まあ、水泳部だからな。何てことないぞ」
からからと笑いながら、空になった紙コップを掴むと手首を素早く翻した。
綺麗な放物線を描いて、見事にダストボックスに吸い込まれる。
「おまえはもう少し脚の蹴りを強くするといいぞ」
「けり?」
「ああ。バタ足で蹴り出す力が弱いからな。下半身が沈まないようにしないと」
「なるほどお」
うんうんと頷きながら、ふと気づいたように言った。
「そういえば、神楽ちゃんと二人っきりってのは珍しいなあ」
「いつもは榊や、ちよちゃん。水原、それに…… 馬鹿うるさい智もいるもんな」
濡れたシャギーが入った髪にバスタオルを当てながら神楽は笑った。数滴の
雫が凹凸のはっきりした胸部と腹部をつたう。
「ほんでもなあ。私はもっとなかよーなりたいと思ってるねん」
「えっ」
そっと耳元に顔をよせて言葉を続ける。
「なあなあ、神楽ちゃん」
「な、なんだ」
次第に高まる動悸が、神楽の声を裏返らせた。
「あんなあ、耳にほこりがついてんで? 」
「おいっ 」
ため息をついながら、あきれたように肩を竦めた。
「お前ってころころ話題が変わるんだな」
「ごめんなあ」
早春の野原に咲いたたんぽぽのような微笑みを浮かべながら、ごそごそと
バックをあさって、白い綿棒を数本取り出した。そして、正座した膝の上に
タオルを敷く。
「神楽ちゃんの耳掃除をするで」
とんとんと膝を叩いて招きよせる。
抗えない何かを感じて、吸い寄せられるように、神楽は大阪の膝に頭を載せた。
タオル越しにひんやりとした太腿の体温が伝わってくる。
「なんか、はずかしいな」
幾分と頬を赤くして視線を伏せる。
「そろそろ、はじめるで」
大阪は、穏やかな顔つきのままで言うと、しっとりと濡れた同級生の髪を
かき分けて形の良い耳朶を探し出し、綿棒の先端を耳たぶにあてた。
「ひゃんっ」
突然の刺激に悲鳴交じりの声をあげた。同時に身体がぞわりと震える。
「動いたらあかへんで」
「ごめん」
「少し、水が中にはいっているねん」
大阪は小さく呟きながら耳の奥を覗きこむと、綿棒の先端を少しずつ奥へと
侵入させていく。
「んあっ、ばかっ」
「ほやから動いたらあかんてゆーたやん」
整った眉をしかめながら、身体を捩りながら喘ぎ声をあげつづける少女を
たしなめる。
「神楽ちゃん。ひとの話はきかなあかんで」
「そんなこといったって、やめっ…… んはっ 」
絶え間なく襲い掛かる強い刺激に、上半身 ―― 特に、張りのある胸が揺れて、
太腿に小さな振動を伝える。
しかし、大阪はほとんど表情をかえないまま、丹念かつ執拗に外耳の掃除を
続けていく。
神楽にとって刹那とも永遠ともいえる時間が過ぎ去った後。
「神楽ちゃん。終わったで」
いつもと同じ口調の声によって、救われたように身体を起こした。しかし。
「次は左耳やねん」
「まだ、やるのか?」
「あかんのん? 」
「いや、それは 」
自分でやるのは段違いに刺激的な耳掃除に、かなり倦怠感を覚えていたが、
それでも、目の前に座っている、幾分ぼんやりとした少女がもたらしてくれる
無上の快楽の誘惑に抗しきることができず、結局は、言われるままに逆向きに寝転んだ。
目の前に平らな胸、そして、目線を少しあげると見慣れたあどけない顔がある。
大阪は、神楽の顔の向きを少しだけずらすと、綿棒を持つ指先をゆっくりと
動かし始めた。
「神楽ちゃんって、結構美人さんなんやな」
大阪は、意外と的確な手つきで、細かい耳垢を探り当てながら呟いた。
「何言い出すんだ? 」
顔を少し紅潮させて、上から見つめてくる視線から思わず目を逸らす。
「神楽ちゃんは、榊ちゃんがすきやのん? 」
矢継ぎ早に繰り出される質問に、意表を突かれながらも何とか否定する。
「そんなんじゃねーよ。榊はな。えっとそうだ。私のライバルだ」
「そうなのん? 」
「ああ」
幾分と落ち着いた声で断言する。運動部に入っていないのにも関わらず、
ずば抜けた運動神経を遺憾なく発揮する榊は、神楽にとって永遠の目標で
ありライバルである。
「ほんならやー 神楽ちゃんはいまフリーなんや」
「おまえなあ。私に彼氏がいるとか思わないのか? 」
「いるのん? 」
「いないけどさ」
幾分、膨れくされ気味になって神楽は首を振った。クラスにも、水泳部にも
男子はいるが、今のところ彼女が気になるような者はいない。
「なんでそんな事聞くんだ? 」
「そやな…… 」
言いかけてやめて、耳掻きをシートにおいた。
そして、膝の上に頭をのせている神楽の首の後ろに手を回して少し持ち上げる。
「おおさか? 」
きょとんとしているショートカットの少女が驚く暇もなく、神楽の唇を
あっさりと奪い去ってしまう。
「な、な、なっ」
いきなりのことに呆然とする神楽を尻目に、巧みな手管で唇を舐め
取っていく。
「んっ」
可愛らしい悲鳴が、自分の口から漏れだした事に驚きながら、神楽は抗う
こともできずに、大阪の口技に身を委ねきってしまう。
「んん…… おおさかっ…… 」
ゆっくりと抉じ開けられた唇の間から、短い舌が侵入してくる。
信じられないような展開に思考停止状態に陥りながら、それでも反射的に
入り込んできた舌端を受け入れ、絡みつかせる。
「ふあっ…… んくぅ」
真夏の太陽が照りつけるもと、プールサイドの奥で卑猥な情事を続ける
美少女二人を偶然見かけてしまった、通りがかりのカップルは、呆然として
半ば逃げるように去っていったが、当然ふたりは気がつかない。
「あふ…… かぐらちゃん…… すきやで 」
水に濡れた豊満な双丘を、掌で幾度もまさぐりながら、大阪はとろんとした
瞳で呟いた。一方、神楽は最初はどうしていいか良く分からなかったが、
次第に慣れてきて、大阪のわき腹や平らな胸の先端を摘みあげたりする。
「かぐらちゃんの、えっち…… へんたい 」
「お前だって、人の事いえな、んあっ」
大阪が乾き始めた競泳用水着の中に手を突っ込んで、下腹部をまさぐろうと
したところで、困り果てた表情の、人のよさそうなアルバイトの監視員に肩を
叩かれる。
「あのー 他のお客様のご迷惑になりますので 」
「大阪の、大馬鹿者! 」
火の出るような恥ずかしさに懸命に耐えつつ、平謝りに謝って早々にプールから
脱出した神楽は、後ろからちょこちょこついてくる確信犯に対して怒りの声をあげた。
「ごめんなあ」
表向きは申し訳なさそうに謝っている大阪だったが、何を思ったかプールの近くに
ある売店でカキ氷を買い付ける。
「メロンシロップを、頼むねんで」
「おまえ。何をしてんの? 」
意味が分からずきょとんとしている神楽の口元に、シロップをたっぷりと含ませた
甘い甘いカキ氷が差し入れられた。
「こんなことで買収される程、お安くないぞ」
厳しい口調で言いながらも、神楽は渡されたカキ氷を全部食べてしまい、大阪は
悪戯っぽい微笑を浮かべてみせた。