363 名前:ねこっねこっ協奏曲(1/2)[sage]:2006/11/21(火) 00:17:53 ID:oC9wgDnH

 秋から冬へと橋渡しが行われつつある季節の、ある晴れた昼下がり。
「ええ天気やなあ」
「ああ 」
 セミロングの少女はうーんと大きく伸びをしながら、腰まで届く
流れるような黒髪が印象的な、長身のクラスメイトを見上げた。
「こーゆーのをこはるびよりっていうねんな」
「小春日和か」
 澄んだ青空から目線を落とすと、黄から山吹に色づき始めた銀杏の
木陰から茶色い子猫がちらちらと二人を覗いている。

「あーねこ? おいでー 」
 のんびりとした口調で手招きすると、まだまだ親離れしていな
さそうな子猫が、しっぽを振りながらちょこちょこと近づいてくる。
 そして、囁くような鳴き声をあげながら大阪の膝の上で寝転んだ。
「かわええなあ」
 思いもよらない小さな来訪者に嬉しそうな声をあげている少女の、
隣に座っている榊がおそるおそる手をのばしてみると……

 ぴゅっ!
 瞬く間に、子猫は駆け去ってしまった。


364 名前:ねこっねこっ協奏曲(2/2)[sage]:2006/11/21(火) 00:18:33 ID:oC9wgDnH

「あっ 」
 指先を伸ばしたまま数瞬固まり、なんともやるせない表情で深いため息をつく。
「ねこが 」
「あー にげてしもたなあ」
「なんで…… 」
 大好きなのに、好いてくれないことはいつものことではあるけれど、
今回はとみにショックが大きかった。
(どうして私にだけ懐いてくれないんだろう)

「なあなあ榊ちゃん」
「えっ」
 いつの間にか、膝の上に大阪がちょこんと頭をのせている。
「あっ…… それは」
 榊は、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらあたりを見渡すが、幸いなことに
周囲に人影はいなかった。

「わたしが榊ちゃんのねこになってあげるで」 
 しばらく、やや鋭い目を瞬かせていたが、やがてとても優しい表情になって
黒髪をゆっくりと撫ではじめる。
「猫にしては、ちょっと大きいな」
 彼女にしては珍しい冗談に、笑いながら大阪は囁いた。

「ねこはねこでも、ちょっとちゃうねんよ」

 

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