「あっ 」
指先を伸ばしたまま数瞬固まり、なんともやるせない表情で深いため息をつく。
「ねこが 」
「あー にげてしもたなあ」
「なんで…… 」
大好きなのに、好いてくれないことはいつものことではあるけれど、
今回はとみにショックが大きかった。
(どうして私にだけ懐いてくれないんだろう)
「なあなあ榊ちゃん」
「えっ」
いつの間にか、膝の上に大阪がちょこんと頭をのせている。
「あっ…… それは」
榊は、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらあたりを見渡すが、幸いなことに
周囲に人影はいなかった。
「わたしが榊ちゃんのねこになってあげるで」
しばらく、やや鋭い目を瞬かせていたが、やがてとても優しい表情になって
黒髪をゆっくりと撫ではじめる。
「猫にしては、ちょっと大きいな」
彼女にしては珍しい冗談に、笑いながら大阪は囁いた。
「ねこはねこでも、ちょっとちゃうねんよ」