227 名前:ぱられる・ぱられる :04/12/18 15:20:32 ID:lHSlkVfp
「ともちゃん…… 」
目の前に一人の少女が立っている。
冬服にコートを羽織っていて、艶やかな黒髪は肩のあたりまで伸ばされている。
ここまでは普段どおりだが、頬がほんのりと上気して、潤んだ瞳で上目遣いに
なっているところが、いつもと違う。
「な、なんだ、大阪!?」
ぼんやりとした雰囲気などは全く存在せず、華奢な身体からは仄かな色気が
漂い、思わず後ずさってしまう。
「ともちゃん、ずっと前から好きやったんや 」
「な、なにいってんだ、お前」
いきなりの告白に驚く暇も与えずに、『大阪』は私の両肩を掴んだ。
「わ、な、やめっ」
大きな黒色の瞳が目の前に迫ったかと思うと、いきなり口を塞がれて……
228 名前:ぱられる・ぱられる :04/12/18 15:21:06 ID:lHSlkVfp
「うわあっ」
目を覚ました。
思わず唇の辺りまで手を伸ばしたが、妙にリアルな感触が残っているような
気がして、思わず震えてしまう。
「なんちゅー夢だ」
女の子とキスをする夢をみるだけでも十分異常なのに、相手があの大阪だとは。
もしかして欲求不満という奴だろうか。
「ともー、学校遅れるわよ」
階下から母親の声が聞こえてくる。
「分からん」
短く切った髪を左右に振ると、温もりを帯びた布団から、無理矢理身体を
引き剥がした。
229 名前:ぱられる・ぱられる :04/12/18 15:22:09 ID:lHSlkVfp
「おっはー」
すっかり言語として絶滅した挨拶を敢えてしながら、いつもと同じ場所で
暦と顔をあわせる。
「どうした。元気ないな」
声量がいつもの半分くらいだったからか、怪訝そうな表情で眺めてくる。
「いやー、変な夢をみてさー」
「何だ。夢の中まで、馬鹿な事をやらかしたか」
皮肉っぽい口調はいつもと変わらない。
頭が良くて、運動もできるが、歌が下手で(ここ強調)、毒舌なところが玉に
傷だなと思いながら、聞いてみることにした。
「よみってさー。キスってしたことある? 」
「お前何考えてんだ」
顔を真っ赤にして背けたりするところが、ちょっと可愛らしい。
「だーかーらー、キスだよ。口付け。接吻ともいう」
「妙に古い言葉知ってるな」
一々細かいところまで突っ込んでくるな。それはさておき。
「で、どーなんだよ」
数十秒くらい気まずい沈黙の後、
「ねーよ」
と、微かに聞こえるような声が聞こえた。
230 名前:ぱられる・ぱられる :04/12/18 15:23:01 ID:lHSlkVfp
「何でそんな事を訊くんだ?」
「い、いやあ」
「まさか今日夢でキスしたからか? 分かりやすい奴だ」
呆れ果てたといったように肩を竦めている。
「うるさいなあ」
図星をさされるのはちょっとむかつく。
「で、お相手は誰だ。クラスの男子か? 」
「うっ」
まさか、大阪としていました。なんて言えない。言えるわけが無い。
腹を抱えて笑われるに決まっている。
「わかんねーよ」
「知らん相手としたりすんのか」
「うるさいなあ」
「おまえが言い出したんだが」
と、溜息混じりに言われてしまった時、ちよちゃんと榊さんが一緒に登校して
くる姿が見えた。
「おはようございまーす」
やたら元気で礼儀正しい声に、なんだか救われたような気がした。
231 名前:ぱられる・ぱられる :04/12/18 15:23:37 ID:lHSlkVfp
座席に着くまでは普段と変わりがなかった。
既に登校していた神楽は、いつもどおりがさつだった。
微妙な違和感は、あるクラスメイトが、やや遅れて教室に入ってきた時から、
生まれたように思う。
「おはようございます。大阪さん」
「おはようさん」
穏やかな口調とともに少女はゆっくりと歩み寄り…… 私と目があった。
「あっ 」
小さな呟きとともに、大阪はふっくらとした頬を桜色に染めて、何故か視線を
外してしまう。
「どうしたんですか。大阪さん」
ちよちゃんが、急に足を止めてしまった少女を、不思議そうに眺めながら、
見上げている。
「なんでもないで。ちよちゃん」
小春日和のような笑顔を向けながら、静かに腰を下ろす。
胸の奥にちいさな痛みが走った。