346 :さかよみで保守SS :2010/11/02(火) 23:26:43 ID:bmT0Jqt3 )
「暦って将来夢とかあるの?」
突然浴びせられた質問に私は鉛筆を走らせる手の動きを止め、振り返った。
私のベッドに寄りかかっている榊は、さっきまで読んでいた雑誌を膝に置いてじっとこっちを見つめている。
「…唐突だな。何だよ急に」
「いや、いつも勉強熱心だから…。何か成りたいものでもあるのかなって」
お前も十分勉強熱心だろ…というツッコミはグッと抑える。こいつはただの義務だけでなく獣医という夢を
抱いて日々の学業を専念しているからだ。それに比べると私は…。
「夢か…言われてみればないな」
「ないのか」
「まぁ、勉強はしといて損はないからな。選択肢は増えるし、いずれ夢持ったら叶えやすいじゃん」
榊はそれに応えない。いや、無口な奴だから別に返答が来ないのは珍しい事ではないんだけど、
こんな事言った後で黙られたら何か私ってすっげえ冷めた奴みたいじゃん。
「あ、そうそう!夢なら一つあった!ほら、あれだ、お嫁さん…ってやつ?」
ちょっとおどけた感じで言ってみる。榊は相変わらず無言。おいおい、滑ったかこりゃ。
恥ずかしくなって机に向かい宿題の続きをやろうとする。と、後ろで何やら動く気配がしたかと
思えば榊に背中からぎゅっと抱きしめられた。
「それなら…叶う。私が養ってあげるから…」
耳元でそっと囁かれる榊の甘い声。ぐっと体温が上がるのを感じる。
「さか…」
言葉を返そうとする私の口は、優しく榊のそれに捕らえられてしまった。
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