19 :名無しさん@ピンキー :2010/07/14(水) 05:56:51 ID:CsdrmAUe

今日は、待ちに待った日だ。
榊さんが日本から私に会いに来る日が、ついに来たのだ。

私はもう1週間も前から、うきうきを隠せずにいた。
ホストファミリーの皆にも、ゼミの皆にも随分冷やかされた。
来るのは実はチヨの初恋の男の子だろ、と何度も言われ、その度に、そんなんじゃありませんのだ、とごまかしたけど、だけど、私は心のどこかにただの友達以上の榊さんへの感情を、何か心がむずがゆくなる感じを、否定できなかった。

私は、いつもの赤いシビックで、はやる気持ちを抑えながら早朝の空港へと走る。
カーステからはパワーFMが、窓の外のフリーウェイの騒音をかき消すように、ヒットチューンで私の身体を揺らす。

こんなに会いたいのに、私には榊さんに言えない秘密があった。
あれはそう、高3の夏だ。
私は、榊さんのあんな顔、いつもと全く違うメスそのものの顔を、物陰から見てしまったのだ。
校舎の片隅、誰も来ない体育用具室で、あんな、野生そのものの声を、聞いてしまったのだ。

あの頃は子供すぎてわからなかったけど、今は違う。
榊さんは誰かと、学校でセックスしてたんだ。
でもその相手は、思い出せなかった。
それが、どこか気がかりだった。

22 :>13の続き :2010/07/14(水) 13:59:48 ID:CsdrmAUe
あの日、もう下校時刻に近い時間、ゆかり先生に言われて私は、体育科準備室に書類を持ってったんだっけ。
にゃも先生に紙を渡した後、なぜか私はいつもの渡り廊下から帰らずに、裏手の体育用具室の方を回って帰った。
多分それは、夕日がよく見えるから、とかそんな他愛もない理由だったんだろう。

ともかく体育用具室の前に通りかかった時、私は少し開いたドアの隙間から、発情期のメス猫のような、そんな声を耳にした。
肉と肉のぶつかる、乾いたパンパンという規則的な音を、耳にした。
そっと覗いた私の目に入ってきたのは、乱れた制服のまま四つん這いになり、苦しそうに男の人に押さえ込まれている榊さんだった。

「ああああッ…あッ…あン…あ…ッ…!」

何、しているの…私は、ドキドキしながら、それをつい見入ってしまった。
こぼれるような榊さんの両胸を、地面に付いたのと反対の手で榊さんが隠そうとするのを、男の人が無理矢理横から鷲掴みにして、ぴんと立った胸の先を指先で摘んでいるのを、私は見てしまった。
逆光で男の人の顔は見えなかったけれど、榊さんの真っ赤な顔を、汗と唾液でぐちゃぐちゃになった顔を、私は見てしまった。
私は、息を呑んだ。
25 :>22の続き :2010/07/14(水) 22:41:39 ID:W4b4ySKx
「うあッ…あッ…あッ…あああああッ…!」

榊さんの、動物のような声。
二人の、荒い息。
むせ返りそうなほど濃い、生臭い匂い。
パンパンパンと、子気味よく繰り返される、肉が肉を打つ音。
榊さんの胸に、しっかりと赤く刻まれた、男の人が手を触れた跡。
その胸の、男の人が腰を振るたびに激しくぶるんぶるんと震える、その動き。

「はァッ…あッ…あン…あッ…ああああッ…アっ…!」

何、この気持ち?
どうして、内股がこんなにむずむずするの?
どうして、身体の芯がこんなに熱くなるの?

私は、初めての感覚に、戸惑っていた。
さっき行ったばかりなのに、なんだかすごくトイレに行きたいような感じに、私は襲われていた。
けれど、この光景を見るのをやめることはできなかった。
どうしても、どうしても見てしまった。
目が、釘付けになっていた。
切なくて、切なくて仕方なかった。

「ああああッ…んァッ…あッ…あ…ンッ…!」

どうしよう、なんだかすごくショーツの中が蒸れている。
自分でもわかるくらい、びっちょり汗が染み込んでいる。
その汗が冷えて、藍色のスカートの下に、太股の部分まで、垂れてしまっている。

「んンッ…うあッ…アっ…あッ…はッあッ…ンあッ…!」

ドアの隙間から見える榊さんの顔は、ひどく赤いその顔は、快楽に溺れ、口の端からは唾液が体操マットにだらしなく垂れてしまっている。
男の人ががっしり掴む榊さんの腰にも、体育の着替えのときとかに見てはいたけれど、豊かな胸と見合わぬくらいすごく細い腰にも、男の人の手の跡がくっきりとついてしまっている。

「あああッあッ…あッ…あッ…んッ…あッ…ああああッ…アアアぁッ…ああああアアアアアっ…アっ…!」

榊さんのお尻の隙間から、男の人の茂みが、そしてその間の…オ○ンチンが、ちらちらと見えて。
赤く充血して、すごく大きくなったそれは、血管の浮いたそれは、お風呂の中で見ていたお父さんのそれとは、ひどく様相が違っていて。
榊さんの股の間に、吸い込まれては戻るそれが、奥まで行ってまた戻るそれが、クチュクチュと淫らな音を立てて。
その動きに合わせて、いつしか私は自分の両脚の付け根に、そっと指を這わせていて。
すっかり湿ったショーツの間の、ぐちょ濡れのクロッチの中の、しこりのようなちょっと固い部分が、指に当たるたび、私も声が出そうになってしまって。
あの頃、まだ茂みも生え揃っていなかった、そんな頃なのに、お風呂で洗うときとトイレで拭くときくらいしか触ったことのないその部分を、今も自分以外には触らせたことのないその部分を、私は、つい触ってしまって。
脈打つように自分の奥底から湧き出る、トロトロした液体を、自分のその部分に、グチョグチョと染み込ませて。
背筋がビクンと震えそうになるくらいの快感が、そのたびに自分を襲って。
それでも、その行為を、やめることはどうしてもできなくって。
私の上履きの間の床に、小さな水溜りが、いつしかできてしまっていて。

「はアッ…アっ…んッ…あッ…ああああッ…はあああッ…ンッ…!」

だめ、こんなのは、だめ。
自分にそう言い聞かせようとするけれど、私は指の動きを止めることができない。
どうしても私の指は、私の脳からの命令を、受け付けてくれない。
頭の中が、真っ白になりそうだ。
もうダメッ…だめッ…!

私は、ハッと我に返った。
目の前に、フロントガラスのほんの少し先に、"CHEVROLET"と大きく書かれたピックアップのテールゲートが、迫っていた。
ぶつかるッ!!
私は、無我夢中でブレーキペダルを、力任せに踏んだ。
派手なスキール音とともに、ピックアップのリアが、遠くに飛んでいった。
助手席に置きっぱなしになっていた"Scientific American"のバックナンバーが宙を舞い、私はシートベルトに激しく身体を押し付けられる感じに、息が詰まるような感じに、襲われた。
30 :>25の続き :2010/07/17(土) 01:19:47 ID:l99I0DmV
ホーンを鳴らしながら、レーンに斜めに静止した私のクルマのミラーを掠めて走り去っていく、何台ものクルマたち。
開け放たれた窓から流れ込む、排気ガスとタイヤの焼ける匂い、それに、プルメリアだろうか、道端の花の甘い香り。
ラジオのスピーカーから相変わらずがなりたてる、DJの声。

よかった…ぶつからないで済んだ…。
私は息をつくと、震える胸を撫で下ろした。

それにしても、あんなことを思い出して運転に頭が回らなくなるなんて…。
理性的な自分には、考えられないことだった。
それだけ、あの出来事は自分にとって大きな出来事だったに違いなかった。

いくら榊さんだって、セックスくらいするだろう。
それはわかる。
自分にはまだそんな経験はないけれど、だけど、好きになった相手とそういうことをするのは、自然なことだと思う。

でも、あのときの榊さんの相手は、一体誰だったんだろう。
普段そんな素振りを周囲に見せなかった榊さんが誰かと付き合ってたなんて、なんか不思議だった。
榊さんは異性よりずっと、猫に興味があると思っていたから。

私はキーを捻りエンジンをかけ直して、ギアを入れ、シビックを発進させた。
空港までは、あと少しだった。
33 :>30の続き :2010/07/19(月) 01:02:59 ID:0KWHKMms
早朝の空港、到着ゲート前。
私はシビックをDollarやHertzといったレンタカー会社のバンの間に停め、クルマの脇でわらわら出てくる人波に榊さんを探す。
日本便はこの時間に固まるから、日本人だらけだ。

あ、あの白いサファリシャツにカプリパンツの人、そうかな?
真っ黒に焼けて、髪も縛ってるけど…?
私は、少し迷って声をかけてみる。

「榊さーん!」

「…ちよちゃん!」

やっぱり!
榊さんだ!

榊さんは、トランクを引っ張り駆け寄ってくる。
その肘や膝は青アザだらけだ…獣医学部って色々大変なのかな?

「榊さん、お久しぶりです。」

「ちよちゃん、すごく背、伸びたね。
 それに、綺麗になった。
 髪も、おさげやめたんだ?」

「えへへ、もう18ですし、子供っぽいのは卒業です。
 榊さんこそ日に焼けて、昔の神楽さんみたい。」

榊さんと電話やメール、facebookで話すといつも、私は高校時代に戻った気になっていた。
でも、あの頃の榊さんの白い肌と今の小麦色のそれは、本当に別人だ。
あの日見た、下着の下の榊さんの上気した薄桜色の肌は、汗の染みた肌は、とても綺麗だった。
さっきの記憶がまた蘇ってくるのを、私は止められなかった。
36 :>33の続き :2010/07/19(月) 23:28:46 ID:0KWHKMms
いま私の隣のシートに座っている、榊さんのセックス。
垣間見てしまった、友達のセックス。

この整った顔が快楽に溺れぐちゃぐちゃになるところを、だらしなく唾液を唇の端から垂らしながら僑声を漏らすところを、私は見てしまったのだ。
相手の男の人は判らなかったけれど、見てしまったのだ。

それは私に、複雑な感情を抱かせていた。
私の知らなかった榊さんのそんな顔を、それもおそらく何度も見ていた人がいたのだ。
他の誰にも見せないだろうそんな顔を、榊さんはその人に見せていたのだ。
その人に榊さんは、そんな顔を晒してしまうほどの快感を与えられていたのだ。

それは、女同士であっても、どこか嫉妬に近い気持ちだったのかもしれない。
それは、思春期特有のどこか同性愛的な心理状態の意識下での発現、なのかもしれない。
若しくは、横並びの社会経験共有による共通アイデンティティーの確立を成員に強いる、極めてホモソーシャルな日本人の民族心理から私が脱しきれていないことの証明かもしれない。

フリーウェイを55mphで飛ばしながら、私はそんな思索を巡らせていた。
私を追い抜いて、左側のレーンをブルーのフォーカスが勢いよく走り去っていくのが見えた。
38 :>36の続き :2010/07/22(木) 05:30:09 ID:bCCujDZy
「…榊さん、今、お付き合いしてる男の人って、居るんですか?」

私は少し迷って、そう訊いた。

「…勉強で手一杯だから、そんな余裕、ないよ。
 それに、マヤーもいるし。」

榊さんの、少し目を伏せた微笑。
大阪さんが、「みんな彼氏居てへんの?」と言ったときと、同じ笑顔。

「でも、高校の頃とかは、居たんですよね?」

「ちよちゃんも知ってるだろ、高校のときは?
 だとしたら、あんなにちよちゃんたちと一緒には居られなかったよ。」

嘘だ。
榊さんは嘘をつくとき、少し鼻の穴が広がる。
だから、わかった。
あの人とのことを、榊さんは私に知られるのを恐れている。
でも、どうして?

私は、違う方向で攻めることにした。
そういえば神楽さんのメールに、こんなことが書いてあったっけ。

「付き合うといえば神楽さん、後藤君とお付き合いしてるそうですね。」

「神楽が!?」

「なんか、在学中からこっそり付き合ってたそうで。
 二人とも社会人になったから、近いうちに式上げたいって言ってましたよ、神楽さん。」

「そう…なんだ?」

榊さんの動揺は、隣の席の私には手に取るようにわかった。
私は、最強のカードを引いたらしかった。
40 :>38の続き :2010/07/22(木) 21:42:32 ID:OlQmbGLh
後藤…君。
そう、私の、初めての人。
あの夏を、一緒に過ごした人。

その名前が、今ちよちゃんの口から、それも最悪の形で出てくるとは、思っていなかった。
あれを、はっきり『付き合っている』とは言えなかったとは思うけれど、だけど、まさか、神楽とも…。

それは、あの夏。
私たちが高3の、夏。
生理前はひどく身体がうずいて仕方なくって、家に帰るまで我慢できなくって、それで、学校で、一人でしてしまった日。
それを、後藤君に見られた日。

あの日、私たちは、初めて身体を重ねた。
後藤君の、部屋で。
セミの声の聞こえる、西日の暑い、あの部屋で。

「ハァ…ハァ…榊ッ…榊ッ…!」

「うああああッ…あああっ…後藤君ッ…後藤ッ…君ッ…!」

後藤君の指が、私のそこを優しく、優しくかき回して。
後藤君のひどく熱く硬くなったそれを、私は指で扱いて。
生きの悪い魚のような生臭い匂いが、部屋に充満して。

「榊ッ…榊ッ…!」

「んッ…後藤ッ…君ッ…きてッ…きてッ…!」

四つんばいのまま、私は後藤君を誘う。
くぱ、と音がしそうなくらい、私のそこは蜜にまみれて、だらしなく広がっているのがわかる。
後藤君は、おっかなびっくり、私のそこに自分のそれをあてがう。

「榊ッ!」

「あああッ…あアっ…あああああああっ…!」

刹那、後藤君のそれが、私のそこを、一気に貫く。
ごりごりとしたものが私の奥の、タンポンすら入らないような奥を、突いている。
後藤君のそれの形を、覚えようとしている。
何に隔てられることもなく、濡れた粘膜と粘膜を、触れ合わせている。

痛い。
すごく痛い…けれど、嫌ではなかった。
自分の指でひとりでするのじゃない、ホンモノのセックスを、私はしていたのだから。
後藤君とのはじめてのセックスを、していたのだから。

私の細い腰をつかむ後藤君の両手から、そして、二人の接合部から、体温がすごく伝わってくる。
熱い…二人の接合部は、すごく熱い。
私のそこから出血しているからだけではなく、きっと後藤君の熱いそれを迎え入れているからだ。

「榊…ハァっ…ハァっ…ごめんッ…痛い…よな?」

「ちょっと…ッ…痛い…けどッ…大丈夫ッ…後藤君のッ…だからッ…私をずっと見ててくれたッ…後藤君のッ…だからっ!」

それは、嘘ではなかった。
入口のあたりが、後藤君の呼吸に合わせて少しずつ摩られる粘膜が、何か電気が走るように、私の脊髄に快感を伝えていた。
背筋が、何もしなくても、どうかなりそうだった。
身体の震えが、止まらなかった。
優しく私の髪を梳いてくれる、後藤君の手が、愛おしかった。
そのとき確かに、私たちはひとつになっていた。
42 :>40の続き :2010/07/24(土) 00:21:44 ID:sfQr3K53 (1 回発言)
身体の震えでさわさわ擦り合わせられる、二人の茂み。
異物を押し戻そうとする、まっさらの自分のそこ。

「ン…っ!」

急に後藤君は、腰を動かす。
快感と痛みのないまぜになった刺激が、脊髄に走る。

「榊ッ…榊ッ…!」

「あァあッ…あッ…ああああッ…!」

胸を、いきなり捕まれる。
その先…もう硬く、長くなってしまっている先を、強く摘ままれる。
指先で、弄ばれる。
下から胸全体を、押し上げられる。

「うァああッ…ああああッ…んァッ…!」

全身を襲う、あまりにも鋭い快感。
首筋に当たる、後藤君の荒い息。
腰をかき回される度に広がる、生臭い匂い。
脳内に快楽物質がジャブジャブ分泌されるのが分かる、狂おしさ。

「榊ッ…榊ッ…榊ッ…榊ッ…!」

「あ…後藤君ッ…ン…っ後藤君ッ…はッん…!」

未だ一人では到達できなかったほどの、高揚感と快感。
肉と肉のぶつかるパンパンという乾いた音の、反響。
だめだ…頭が真っ白になる。

刹那、後藤君のそれの先から勢いよく熱い波が、私の中になだれ込んできた。
私の中をいっぱいに、後藤君の遺伝子が、満たした。
私たちは、くたっと湿ったシーツに崩れ落ちた。
それは少し…冷たかった。
43 :>42の続き :2010/07/25(日) 01:36:26 ID:l9Wna9qP (1 回発言)
「…さん、榊さん!」

ちよちゃんの声で、私は我に帰った。
クルマはもう、一般道を走っている。

「機内食のデニッシュだけじゃ、足りないですよね?
 そこのサブウェイでサンドイッチでも食べます?
 それとも、ドーナツとコーヒーとかのがいいですか?」

「あ…ああ、じゃ、サンドイッチで。」

変に、思われたかな?
だけど、後藤君と私のことは、ちよちゃんは知らないはずだ。
それに、こっそり話した神楽以外のみんなに気づかれるようなことは、してないと思う。

けれど、その神楽と後藤君が結婚するなんて。
もしかして神楽、私へのあてつけのつもりか?
これも私との『勝負』の一環なのか?

女同士のへんてこな序列づけみたいなものに、私はうんざりしていた。
行動を互いに観察しあい、『分』を逸脱した部分をひそひそ噂しあう。
あいつは生意気だ何だと、影で言う。
学部以来やたらそんなのを目にして私は、女同士の粘着質な関係がすごく嫌いになった。

高校の頃の仲間とはそういうの抜きでつるめるからよかったのに、私は何か幻滅したような気がしていた。
みんな変わってしまうんだろうか。
昔のままではいられないんだろうか。
それが、悲しかった。
44 :>43の続き :2010/07/26(月) 23:44:17 ID:xmW+zjJ/
「ターキー・ブレスト・サンド2つ、どっちもパンはイタリアン・ホワイトで、トーストしてください。
 野菜は全部入れて、ひとつはオリーブ多めで、もう一つはタマネギ少な目で、あ、トッピングはナシでお願いします。
 あとダイエット・ペプシもレギュラーで2つ。」

私の注文で、店員さんがテキパキとサンドイッチを作り始める。
榊さんは、ずっと俯いたまま、私の後ろにいる。

神楽さんと後藤君の話をしてから、榊さんはずっとそんな様子だった。
いつも以上に無口な榊さんの、あまり感情を表に出さない榊さんの、でもときどき不思議な表情になっている榊さんの、心の動きはいつからか私にはけっこうわかるようになっていた。
だから、榊さんが少し辛い気持ちになっているだろうってことが、私にはわかった。

…やっぱり、後藤君と、何かあったのかな。
私が見た『アレ』の相手は、もしかしたら後藤君だったのかな。

でも、高校の頃の榊さんは、『あの』時以外、そんな様子は露ほども私たちには見せていなかった。
男の人の影なんて、あの頃の仲間は誰も見せていなかった。
あのクリスマスのときの大阪さんの、「みんな彼氏居てへんの?」って言葉も、誰もが流してしまっていた。

けれど、女子高でもないのに、全くそんな話がなかったなんて、どこか変だったようにも思える。
今こっちでも流行っている『moe(これは『モー』と読むのだと私はずっと思っていた)』な漫画でもないんだし、スクール・カーストから考えても、誰にも異性の影がなかったなんて、おかしすぎる。
『Lucky☆Star』や何かのような、女の子しかいない空間があるかのような話なんて、今の私からしてみればどう考えても変だ。

神楽さんと後藤君が学生の頃から付き合っていた、って話、それは大学での話として私は聞いていた。
けれど、高校の同級生と、大学に行ってから付き合って、社会人になった今も続いているって話、そんな漫画みたいな話があるのだろうか。

私にずっとそういう話がなかったのは、ううん、今もないのは、あからさまに周りより年下だから、仕方ないとは思う。
大学院に進んでからというもの、周りはいい年のオーバー・ドクターばっかりだから、それに、男女交際よりも学会発表だのCOEだの、そっちのほうが私にとっては楽しかったから、仕方ないとは思う。

…だから、かな。
だからみんな、私にそういうことを教えてくれなかったのかな。
あの頃は本当に子供だったから、そういう空気をみんな私に見せないようにしていたのかな。
にゃも先生が酔っ払って別れた彼氏さんのお話をしてくれたとき、あれも、べろべろに酔ってたから、だからなのかな。

なんだか、少しそれは疎外感だった。
みるちーもゆかちゃんも、なんだかいつの間にかすっかり『女の子』になっていて、メールの内容もだんだんそういう話になっていって、話が合わないような気持ちに、私はだんだんなっていっていた。
日本の流行り言葉の、『スイーツ(笑』というのはまさにああいうのを言うんだな、と、私には思えた。

それは、遅れてきた思春期、というやつなのかもしれない。
私が思春期に入るはずだった歳には、もう周りは思春期なんか卒業していて、本来私と同級生だったはずの歳のみんなの思春期はそれよりずっと遅くて、好きな男子の話とかみんなでするなんてことも、できなかった。
それに、私が日本を離れている間に、ティーン誌はなんだか私の経験なんかを軽く飛び越えた存在に、もうなってしまっていた。
下手に純粋培養されてしまった結果、教科書にないことを、私はずっと知ることができなかった。

それが、世の中の理なのに。
教科書なんて、ウソと建前ばかりなのに。

そういうことをぐるぐる考えてしまうようにいつしかなってしまった私が、カウンセリングを受けたり、プロザックを飲まなきゃいけなくなったのも、無理はない話だった。
処方量の関係で日本に長期帰国できないのも、そんな薬で生かされる体になってしまったからだった。

でも、それを私は榊さんにすら、言えずにいた。
こうして人は秘密を作っていくんだって、そんな気がしていた。

出来上がったサンドイッチを店員さんから受け取って、私は作った笑顔で、榊さんにそれを手渡す。
榊さんも、多分作った笑顔なんだろうな、そんな顔で、受け取る。

何でも話せたはずの友達、その友達との離れてしまった距離を、私は今、ひどく実感してしまっていた。
それは、太平洋よりもずっと広い、そんな距離のような気がしていた。


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