かるく立てた膝の上に、榊がのっている。恥毛のこすれる感触がする。微妙に膝を動かす。んんっとうめく声。
女がアクメを感じるときは、高い声はあまり出ない。イク、という状態に近くなるほど、低い音に近くなる。
「おおう、おう、おおお」
こんなふうにだ。
「あああ、かぐら、いきそう、いきそうだよ」
「へえ――そうなんだ」
私は膝をわずかずつグライドさせる。ああああ、あいい、あ、イイ。榊の声。
誰もこれが、あの榊だなんて思わないだろう。汗でべったり濡れている。びりびりがくがく震えながら腰を振る。涎が出てる。それを、んっ、と、ときたますすりあげる。
「発情した犬みたいだぞ……榊。みっともねえなあ、乳首こんなに突っ立てて」
「ああ、らって、だって。おひざきもちいい。いいいいい。おっぱいああ」
「犬がさ、マーキングでさ、人に、腰、おしつけるみたい。犬だな、ほんとに」
「あああああああ、うう」
「ほら、いぬだったら、わんっていってごらん? わん。わん」
「わぁん、わんわんあんわああんあああ、あ、あ」
ぶるぶるっと、榊の腰が震える。堪えきれなくなった涎が、私の乳房にぽたぽたと落ちる。ずっずっとすすりあげる音。堪えきれない涎、ぽたぽた。
「わんわんわんわんわん……」
私の耳元で囁く榊。舌がべろべろと耳をなめ、首筋をなめ。
「わん、わん、わん、ふうふ……んわん」
手探りで榊の乳首にたどり着いた私の指先が、すりすりと撫でると、私の乳首に吸い付いていた榊が、思わず強くかんでしまう。ごめんん……と、いって、またわん、わんと榊。
今度は高く膝をあげて、榊のワギナにすりつけると、んぐぅ、とうなって再び腰を擦り付け始めた。そして負けじと、私の秘所にも指を伸ばす。
「うう、かぐらぁ。いい。かぐらいいい。おまんこいい。かぐらのおまんこいいのおぉぉ、お、お」
感じきっている時の榊は、おしゃべりだ。私の方がかえって寡黙なくらいだ。特に喘ぎ声がすごい。全身で感じきっているのがわかるくらい、ダメな声だ。ちょうどこんな。
「お、ああああああ、おあ! …あ! s……かき、…ゆびぃ、っゆび! はげ、し……ぎ……って、って!! あ、だめだええあらめらめああえああ。あ! ア!! 」
ごめん。私嘘ついた。
今のは私の声。
私たちはセックスをしている。
高校時代、ある時から、二人きりで会っている時は、いつもセックスだ。
きっかけは、私の家に、榊が遊びに来て、なりゆきみたいにこういう関係になった。
始めのうちは互いに抑えていたが、エスカレートするのに時間はかからなかった。獣のように、した。
榊が好きなのは、お膝。
私が好きなのは、お口。
榊が言うに、お口ではイけないのだという。お膝か、指がいいのだそうだ。指の場合は、アヌスも攻めて欲しいという。
私はお膝ではダメ。あれで中々コントロールが難しいのだ。お指は二本入れてもらうのがいい。アヌスはだめ。苦手。でもお口は好き。榊の舌は長い。
普通の生活でも、手を握り合うだけで私たちにとっては一つのセックスプレイだ。じっとりと汗ばんでくる。榊の足がもつれる。私のアソコはびっしょりと濡れている。
とはいえ、恋愛感情はないらしい。ずいぶん腹を割って話せるようになったけれど、恋愛とは違う気がする。
以前榊のお兄さん(お姉さん? )と会ったことがある。榊のことを「よろしく」されてしまったこともある。けれど、それでも、やっぱり私たちは恋人とは少し違う位置にいるのだ。
大学進学が決まって、もうこの関係は止めよう、と榊が言った。
同じ事を考えていたことにびっくりしながら、私も、そうしようと言った。何より榊は北海道に行ってしまう。北大の、獣医学科にいくのだ。
「だったらさ」
私は提案した。
「卒業旅行しようぜ」
「卒業旅行? 」
「そう。学校と、この関係を卒業するための旅行」
そうだ。卒業しなければならない。この大きな乳房から。感じやすい乳首から。もの欲しそうなアヌスから。幾度も指を抜き差ししたワギナから。
同じ事を考えていたのだろう。榊の頬がうっすらと赤くなった。目は、濡れていた。そっと榊の制服のスカートに手を差し込むと、下着の中にあてたナプキンがずるずる動いた。テープが濡れてはがれるほど、濡れていた。
「そうぎょう、りょこうか――」
ああ、と軽くうめいて、榊がささやいた。
「いいよ。それ、いい。いくよ。いこう――」
榊の腰がひくひくと動きだす。
私たちは、すぐ側の公衆トイレを探して、その中で軽く気をやった。トイレでしたのも、制服でしたのも、今回はこれが初めてだった。
そうして、私たちは旅を始めた。
といっても、行った場所は箱根である。それと、東京各所である。
とにかくセックスさえできればどこでも構わなかった。
観光? 買い物? 食事?
それらしいことをするときは、なんらかしらの理由があるからだった。腹が減ったら、コンビニのおにぎりを貪り食った。二人とも黙ってもくもく食べた。わざとお米を頬につけた。榊が、舌で舐め取った。何度も何度も舐め取った。公園の木の陰で。
観光や買い物は、それ自体が目的ではなかった。もっと別な目的があった。
「うううう、うう」
「どうした? 神楽? 具合でも悪いのか? 」
「ん、ん、んんん」
「ほら、みんな変な顔して見てるぞ? 秘宝館に女の子二人で来てるって」
榊が多弁になるときは、感じているときだ。
私が寡黙になるときも、かんじているときだ。
「ほら、みんな気づいてるよ? あからさまにおっぱいとおしりの大きい女の子が喘いでいるのみて」
「んな、こといっちゃ、だめえ……! 」
私の尻がぶるぶる震える。まくられたミニスカートから差し込まれた榊の指が、汗まみれになったアヌスに侵入してきたからだ。
「ら、めえ。ためえ。そんなんしたら、ためへぇ」
「ほら。めくれちゃうよ。中身、見えちゃう」
「ためへ……ためえ…………ぇ」
「あ、後ろで見てるお兄さんがいる。お兄さん、ちょっとはめてみませんか? 」
「だ、めえ! それはほんとにダメ!! 」
振り向いた私の目には、秘宝館のグロテスクな展示物以外には何もない。まんまとはめられたのだ、榊に。榊はたんねんに、自分の指を舐めている。
長い長いキスをする。
そう。観光地には、バイブレーターを仕掛けてか、下着をつけないか、またはその両方で行った。買い物もそうした。そして隙あらばさっきみたいな遊びをするのだ。
きっと大半の人は、私たちのそんな異常な行為に気づいていただろう。薄々感づく、と言ったレベルであるが。そしてそんなところまで、自分達を追い込むことに、今回の旅行の目的があるのだ。
旅の恥はかきすて。
今までの全てからの、卒業旅行。
旅館に泊まったのは、一度きりだった。
どうしても声が外に漏れてしまうことを恐れてのことだった。何より人の出入りもあるし。
とはいえ、夕食のとき、仲居さんの給仕は断って、二人で食べた。
榊がすき焼き用の生卵を、私の股間に落とすのはやりすぎかな、と思ったけれど、私だってそのぬるぬるを榊の胸に塗ったくったのだから、お相子というやつかもしれない。
後、刺身は冷えているから旨いのだということも分かった。人肌の刺身は旨くない。
温泉に入っても、した。
榊の胸元が白くなったので、こすってみると、さっき卵だった。ふと気がついて、私も確認しようとしたら、榊がそっとそれを制して、私のソコに、そっとその長い指を伸ばした。ぽろぽりと湯に浮かぶ白身と黄身。毛に絡み付いていたらしい。
「うわ、大変だ」
「うん。神楽は大変」
榊がそっと囁く。
「お湯の中でわかるくらい、濡れてる」
涎が出た。
榊に舐めて、とってもらった。
部屋に入ると布団が敷いてある。並べて敷いてあって、初めてどぎまぎした。我慢が出来ない。浴衣の隙間から手を差し込む。榊の乳房はボリュームがあって、もう乳首は勃起していた。親指でぐりぐりする。
「ふふふ、かぐら」
舌を出して、榊がキスをする。唇がなぞられる。夕食に食べたすきやきの匂いが、かすかにする。唇を舐められただけで、私の腰がひける。そのままぐるりと円を描いてみせる。尻の奥が熱い。榊の舌は長い。
脇の下を舐められる。ひぐ、いい、ひぐう、いいい。私の目から涙が出る。私の顔を撫でてていた榊の指が、それに気づいて優しく私のまなじりをぬぐう。私は彼女の親指をあま噛みした。
「ひ、にゃあ……」
彼女の腰、びくんてした。
布団が汗でべそべそになった。二人とも肌が、唾液でぺかぺかしている。朝から温泉に漬かった。
「榊ったら、あううう、あうううう、って。あれじゃあざらしだよ」
「……うるさい」
「おひざいいの、いいのっていいながら何度もサ」
「いいんだ。そのために来たんだから――」
そういいながら、榊は恥ずかしそうに湯船に顔を沈めた。あああ、と息をつく。身体が軽い。
ビジネスホテルは、失敗だった。
「んく、ひく、んんう……」
「い、ひ、ひ、フー――っ」
お互いの手には、リモコンが握られている。バイブレーターのリモコンが握られている。
榊のは、私のに。私のは、榊のに。
どちらが早く達することが出来るか、その勝負だった。
リモコンはプラスチックで出来ている。バイブレーターもプラスチックで出来ている。それは細長いコードの先の、やっぱりプラスチックで出来たカプセルの、震えの強弱を調節するためだけのものだ。
弱く、強く。強く、弱く。
「ううっく……。びりびりびりびりびりい。ひ、はぁ」
「さ、か、き」
「かぐらのびりびり、うう、はあ、はあはあ。強くするよ――」
「ひいい! いい! いいいいい!! あ! 」
腰が跳ねる。榊ったら、ずっとじわじわ震わせてきて、途端に振動の強さをあげる。切なくなってきているときだから、感じすぎてしまう。ぶ、とおならが出た。どちらも笑わない。親指の先まで快感に震えて、笑えるわけがない。
「あ」
榊も笑えない。あまり強くひかれたせいで、自分の中のバイブレーターが、落ちてしまったからだ。でもこれで勝負は決したわけだ。
「ほら、犬。おなめ」
「……くうん」
私は犬のようにひざまづき、榊の足の先から丹念に舐める。クリトリスの皮を剥いて舐める。以前言ったように、榊は舐めてでは達しない。アヌスにローターを、ワギナに指を入れて、丹念に舐める。
「うううぅ。くうぅ。ふーっふ――――っ」
深い深い呼吸を榊が始める。
「ぎふぅ! っう!! 」
軽くクリトリスに歯を立てて、アヌスをこきざみに刺激するのが、榊は大好きだ。逃れようとして、また押し寄せる榊の尻。波のようにざわざわ。
「いひ! いひぃ! い、いいいい!! あ」
榊が上り詰めていく。わんわん。私は鳴く。榊は哭く。
「あ! いいのお!! か、ぐらのお! いひい! うふ、いひ。いんのおおぉ」
あぐあぐ、あぐう!! あ、あああん。一際高い声。その時。
ドン!!
榊の声が、止まった。途端、ドン! とまた鈍い壁を叩く音。荒い息をつきながら、また榊はびくっとした。
「やばいね――」
「お隣さんに聞こえてるよ――」
二人で囁いたときに、隣の部屋から怒り混じりの、あーあ、という声。
「うそ! やばいじゃん――。聞こえるよ、声――」
「どどどど、どうする? 」
尋ねる榊の顔は、多分蒼白だろう。私だって血がひいた。時計を見た。3時だった。これは、怒ってもっともだと思った。
「榊、とりあえずシャワー浴びよう――」
「うん――」
「そんで、朝早く出よう――」
「シャワー浴びたらね――」
二人で交代でシャワーを浴びて、夜明けを待ってホテルを出た。馬鹿丁寧なフロントマンが、何か知っていそうで怖かった。
そんな生活が一週間。
そして今夜が最後の最後だった。
時間延長して、昼にホテルを出てから、私は吉祥寺駅まで一緒に戻って、そのまま中央線で祖父母の家に向かうのだった。榊はそこで降りて、一度家に帰り、次の日には北海道まで行って、寮生活をはじめるのだった。
「お母さんは」
榊はベッドの端に座って話はじめた。ホテルの部屋に入ったら、すぐに交わっていた二人にとって、それはちょっと珍しかった。
「私がこんなことしてたって知ったら、きっとクレゾールで拭きまくるだろうな」
「なんで? 」
「きれい好きだから」
なんとなく、黙った。
早くセックスしたかった。
榊も同じだとわかっていた。
でも出来なかった。
榊が聞いた。
「セックスする? 」
「したい」
「私もだ」
「でもしたくない」
「私もだ」
そうだ。
本当はここにある、ペニスバンドをつけて、犬のように四つんばいになった榊に蝋をたらしながら犯すはずだったのだ。
どちらかだけなら、やったことがある。
ペニスバンドに本気でフェラチオをした榊。男がうらやましかった。
だからまけずにフェラしかえした。
「神楽。ボクのチンポはどうだい? 」
榊が尋ねる。私ははしたない顔で答える。
「榊様のチンポ、とっても大きいですう」
「舐め舐めしてるとどうだい? 」
「き、気ぃ狂いそう――。は、はめてぇ。はめてえです」
「女の子なのに、はめてえなんて、下品だね、神楽」
「う、嬉しいです。ぶちこんで、くら、さい」
蝋は熱いだけで、あまりよくなかった。むしろ手錠の方がよかった。あの身動きできないときに、身体中にローションを塗りたくられて、筆でいじられるのがいい。
榊は蝋も手錠も好きみたいだ。その上、アヌスにいつもの卵形のバイブレーターを突っ込まれて、腰をがくがくさせていた。
「いいの? 榊ぃ。これ」
「あ、あつひ! あついの!! いいです! いいですの! の! は、ひい! そ、それ!! え! あ! 」
手錠が、ぎ、ぎ、ときしむ。大きく広げられて固定された足。目隠しされて喘いでいる榊。乳首、ぴんと立ってる。
「どこに蝋落ちた? 」
「おっぱ、おっぱい! 」
「どっちの? 」
「…かんない! わ、かんない!! 」
おやおや悪い子だ。乳首の上にたらすと、み、み、みぎ、みぎみぎみぎみぎ、と榊。さすがにアソコには落とさなかったけれど、アソコに落とすよ、といってふとももや臍のそばにたらすと、不自由なはずなのにそれだけで腰が跳ねた。
手でぱっとはらうと、固まった赤い蝋が、ぱらぱらとはがれた。赤い跡が残るだけ。舌を這わせると、薄くなって敏感になった皮膚が感じて、涎をたらしながら榊がうめく。
そんなことを思い出して、榊の首筋をみると、私がうっかりつけてしまったキスマークが見えた。自分の膝に目を移すと、手錠の跡がうっすらと見えた。
本当なら今、そこの榊を押し倒して、ペニスバンドを咥えさせ、手錠で拘束し、後ろから犯しながら、蝋をたらす予定なのだ。
「ぶーっぶーっ」
「ふふふ、榊は豚さんだな」
私は榊の鼻を押し上げて、そう嬲ったことがある。
「汚い豚だ。あーあ、また膝をそんなにこすりつけて……」
「ぶた、ぶたいい、わたし、ぶた、いい。いいの。お! あ!! 」
私は榊の鼻を更に押し上げる。
「豚は、ブー、だろ? ほら、ブーって鳴け! ブタッ!! 」
「ブー! ブー! ブヒ―――!! い、い、イヒイィィィ!! 」
ほら、ブタ。ブウ、ブヒイ。
榊は興奮し、果て、そして今度は私が責められる。榊のことを、ママ、と呼んで、折檻され、そして榊のペニスバンドに後ろから犯されるのだ。
とはいっても、ペニスバンドにばかりたよったセックスをしたわけでもないのは、今までのことでわかってもらえるだろう。
そして今日ここでそれをやりつくせば、私たちはこの関係が卒業できる。それを知っている。分かっている。
この最後のセックスで、未練も何もかも、消えて失せるだろう。そのための旅行だし、私たちは完璧だった。
「ねえ、榊」
「ん? 」
「しようか」
「ダメ」
「でも、それが目的だったろ? 」
「うん」
「これで、私たち、普通の友達に戻れるだろ? 」
「ううん。戻れない。これでしたら」
赤の他人になる。
榊がそう言った。
ぽつん、と言った。
奇遇だ。
私もそう考えていた。
理屈で説明しろ、と言われても、難しい。
けれどこれだけはわかっていた。今セックスをしたら、きっと永久に私たちの関係は途切れてしまう。今まで積んできた諸々でさえ、形を失ってしまうだろう。
それがわかっていても、なお私はうずいていた。
下品に言えば、おまんこがうずいていた。
本当はおまんこなんて呼び方は、羞恥の欠片も感じない。まんこ、まんこ。下品だと思うけれど、私の女のココを示すのに、わざわざそんな言葉使わなくてもいいと思ってた。かえっておまんこと言われたら、醒める。
けれど今は、ココのことを、おまんこと言ったほうがぴったり来ると思った。だからそう榊に言ったら、わたしもオマンコ感じてる、と言われた。興奮した。
「クリトリスもびんびんだしさ」
「うん」
「乳首も勃起してて」
「私なんか固くなってる。おっぱい全体」
「ほう、どれどれ? 」
そういいながら、私の手は彼女に伸びなかった。彼女の手もだった。
「ね」
「ん? 」
「さ……」
「ん……」
全てが、交われといっていた。全細胞が肉欲に満ちていた。淫らだった。でも私の指はゆっくりと死んでいって、ぽっかり心に穴があいたようになった。次第に穴は大きな孔になり、真っ白になった。
でも股は濡れていた。
「神楽」
「はい」
「私のこと、好き? 」
「好き」
「私も神楽のこと、好き」
「はい」
ありていの事実だった。
そんだけの話なのだ。そう、そんだけの話だったのだ。
私は榊が好き。
榊は私が好き。
それは他の高校の仲間が来たら、友情に変わり、二人きりになったら肉欲に変わる。そんな「好き」だったのだけれど。
「世界中の誰より神楽と寝たい」
「世界中の誰より榊と寝たい」
「ずっとしていたい」
「それは無理だ」
「うん、無理だ」
「しょうがないよね」
「しょうがないさ」
「だったら、友達にしようか」
「うん、友達にしよう」
「ここで止めとけば」
「うん、友達だ」
「そしたら別々に寝よう」
「私が床で寝るから、榊はベッドで」
「ううん。神楽が」
じゃんけんで決めた。ベッドには榊が寝た。変わりに私は、掛け布団をもらって床に寝た。予定通り昼過ぎまで眠った。ただただ、寝た。
りょかん。
ビジネス。
こうこう。
でんしゃ。
かんこう。
かいもの。
りんじん。
止めて、止めて止めて止めて止めて。このことばのだくりゅうをだれかとめて。
目の前で榊が震えてた。濡れていた。
犬のよう。
猫のよう。
豚のよう。
男のよう。
女のよう。
獣のよう。
人のよう。
「かぐらあ、もっとぉ。してえ」
一日目。
二日目。
三日目。
四日目。
「さかき、こわい! こわいこわい。ぁああっ!! イキすぎて、こわいよう……」
五日目。
六日目。
「好きすきすキスキスキスきsk」
スキ。
あなたがだいすき。
そして七日目。
私たちにとって
手を握り合うだけで。
そう。
手を握り合うだけで、私たちにとっては一つのセックスプレイだ。
じっとりと汗ばんだ永遠。
しかしゆっくりと手を離す。
「じゃあ」
「また」
「うん、また」
「大丈夫だよね」
「大丈夫だよ」
だから公衆の面前でキスをした。おかげで二本電車を乗り逃した。三本目に乗った。オレンジ色の電車が榊からみるみるうちに遠ざかっていく。
ぽっかりした孔の中に、何かが急速に満たされてくるのを感じた。溢れそうな、叫びだしそうな、何か。何だろう――?
すぐにわかった。
涙だった。
*
「――ってわけなんらよ! わかうか! 友よ!! 」
「全然わからん」
飲み屋でくだまいて、相手に真顔で答えられると、情けない気持ちで一杯になる。
「ただ神楽がえろいってことは前から知ってたから、それほど驚かん」
「うるせーばーろー。なんかもんくあっか。さかきはどーなんらよ」
「榊ちゃんもえろいんだなあ」
滝野智はイカをくにくに噛みながら言った。親友の相談に、イカを噛んでるな。イカを。
「とも、てめえ、犯すぞぉ――」
「それは止めとけ」
「なんれらよ」
「どーせ、神楽は、榊ちゃんとしかセックスできないだろ? 」
女の子とは。そういわれて、返す言葉もない。実際そのとおりだ。
「でもさ、わたしがもし自分の女が嫌だったら、きっとさかきには惚れないね」
「何言い出すんだよ。とつぜん」
「おおさからよな。きっと。そんであのせーじゅんそーなかおの女にぃ、めちゃくちゃにされる! 」
「何でそんなに友人とくっつきたがるかなあ、おまえは」
「おまえらって、よみとあやしいらろ!! 」
「あやしくねーよ! キョーダイみたいなのに!! 気持ち悪い。あー気持ち悪い」
おどけて、それでも智はまたするめをくちゃくちゃ噛む。第一、今よみには彼氏いるもんね。らぶらぶらしいよ?
「じゃあ、おおさかとら! 」
「へ? 」
「ともとぉ、おおさかが、あやしい!! 」
私のつきつけた指に、智はにやりとして。さーて、どうかなあ?
「まあとにかく、神楽さんもずいぶん酒癖悪いってことわかったことですし♪ 」
「――榊は」
友達でいてくれるかな。思わず口に出る。
もう榊とは恋人にはなれない。そしてセックスよりも、ずっと友達でいたかった。これは諦めとか、そういうんじゃなくて、もっと違う何かなのだ。
そんな出会いもある。私は知っている。
私の呟きに、答えてくれる言葉はない。その代わり、智の掌が、そっと私の頭に触れた。彼女にこの話をするのは三回目になる。彼女はすぐに、しかしそれとなく榊と連絡をとってくれた。そしてこの夏、みんなで一緒に、北海道旅行をする計画が立っている。
あれから二ヶ月すぎた吉祥寺駅側の飲み屋で、友は優しく頭を撫でてくれる。
その手のひらに押し出されるように、また孔から溢れてくる何かがあって、私は。
そして
了)