860 名前:放課後のたかのつめ 1 [sage] :2006/05/28(日) 22:23:22 ID:lsD25lt3


「神楽」

―― 二人で帰ることは、何遍も経験しているのではあるが。
いつもの道で、彼女の方から喋りかけることは珍しかった。


「ん?」
「今日、私の家に」
「え、ちょっと待て。 親はどうしてるんだ?」
「大丈夫。 少しだけ、話したい事が」
「あ、ああ」

予想もしなかった突然の誘いに、つい素気ない返答をしてしまう神楽。
胸に、何かが引っかかって、出てこられないでいる。

―― きっと、期待しているんだ。 でも、…… 何に?

悪い印象を与えないよう、再び言葉を紡ぐ。
「行くよ。榊の部屋がどんな所か見たいし」

榊の顔が、思い出したように紅く染まる。
自分の部屋の内装がどんなに特殊であるかは、彼女自身が最もよく分かっているのだ。


861 名前:放課後のたかのつめ 2[猟奇展開に進むかもしれないので注意sage] :2006/05/28(日) 22:25:38 ID:lsD25lt3


「え、それは……。 ごめん、やっぱり」
「良いだろ? たまには、たくさん話をしないと、な」
「ん、まあ、そうだな……」

他方、誘ったのも彼女自身である。ここで勝手に退くことはできない。
「で、どっちだっけ? 家」
「ここは直進して、向こう側で左に ――」

結局、半ば神楽に引っ張られる形で、榊は家路をたどった。



「お邪魔しまーす。 結構広いな、ここ」
「別に、そんなことは」
「で、榊の部屋はどこなんだ?」
「すぐそこだけど……
 あの、普通は応接間で」

猫部屋の主が持つ端正な顔立ちは、羞恥心に崩れかかっている。
そして、自らの感情に気づきかかっている客人もまた、頬を赤らめる。



862 名前:放課後のたかのつめ 3[sage] :2006/05/28(日) 22:26:28 ID:lsD25lt3

「いや、勘違いするなよ!? おまえと私の仲なんだから、別に、な?」
一歩間違えば誤解させかねない発言である。
しかし、目の前にいる「彼女」には、さすがに早かったようだ。
「まあ、確かにそうだ。 分かった」
渋々ながらも、主は承知した。
そして、忌まわしいほどにあの写真で満たされた部屋の扉が開く。


ドアの標示が、しっかりと予感を漂わせていたのだが。
猫にまつわる品々に「まみれている」といった表現が、あまりにも的確であった。

「へぇ。
 やっぱり、榊って猫が好きなんだな」
「何を今さら」
「まあ、良いんじゃないか?こういう息抜きも」
幸いか否か、返答は素気ないものであった。
「驚かないのか?」
「いや、私が人の趣味に何か言えるってわけでもないし。
それに、だいす」

気づく。そして、ふいに口ごもる。
自身の愚かなほどの正直さを呪う神楽であった。


863 名前:放課後のたかのつめ 4[sage] :2006/05/28(日) 22:27:18 ID:lsD25lt3

「ダイス? …… サイコロが、何か」
好敵手を愛してしまった少女は、早く本題に移らねばならなくなった。
「いっ、いやぁ、別に。

 ところでさ、話したいことってなんだ?」

「……昼休みの、春日」
「は?春日って、大阪?」
「そうも呼ばれているな。 しゃっくりの話」
予想もしない発言に、鈍い頭の回転をなんとか早めようとする。

「えーと、それってさ。 みぞおちを、殴ったヤツ、かな。
 もしかして、怒ってる?」
神楽はまだ油断していた。
ベッドに座り込んだ榊は、更に想定外の行動を起こすのである。


864 名前:名無しさん@ピンキー[sage] :2006/05/28(日) 22:28:37 ID:lsD25lt3

「違う、違うんだ。あの……」
そう言いながら、あろうことか ――
自らの胸に手をかけ、制服を脱ぎだす。

「あ、あのぉ、榊? さ、榊さん? 何やってるんですかぁ」
動揺と混乱のあまり、呼び方や口調まで他人行儀になってしまう。

「あの時みたいに」
「いえ、どういうことですか!?分かりません、えーと」

―― これは夢なんだ。 「友達である」榊が、こんなことをしてくれるはずがない。
私ってば、なんてことを考えてるんだろう――

しかし、目の前の「友人」は止まらない。下着まで剥がし、上半身をさらけ出す。
そして、狼狽する水泳少女の左手首を掴み、引き寄せる。
「うわっ!? ちょ、ちょっと、さかきっ!」



「君の、この拳を…… 私にくれないか」

つい先程までの、はにかみに緩んだ顔から一転。
奇妙な猫好きは、不敵な笑みを浮かべていた。

(続)

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