552 名前:前ふり[sage] :2005/12/28(水) 04:31:53 ID:PcHqoVOv

私と神楽は真夜中こっそりと別荘を抜け出して、二人で散歩に出かけていた。
遠くでさざめく波音を耳にいれ、吹いてくる冷たい潮風に身を当てるのは夏の夜には心地良い。
他愛のない会話をしながら歩いていると、ふと数メートル先の草陰から私達を覗く一匹の猫に目が
奪われた。悪い癖が出る。神楽を置いて一人フラフラと猫の方へと吸い寄せられた。
その途中、すれ違った一本の木から突き出た枝に着ていたTシャツが引っ掛かり、ビリリと左の脇
あたりの生地を5、6センチほど横に裂いたのだが気にもとめずに猫へと向かう。
近づいてしゃがみ込み、手を伸ばせばその猫は弾かれたように林の奥へと逃げ出していった。

「榊!いきなり変な方向へ歩き出すなよ!びっくりするだろうが!」
「うん…」
マヤーに触れたからもしかしてと思ったけど……。
「あれ?榊…あんた、シャツ破れてるぞ。…あ〜あ、こんなとこ歩くから」
「うん…」
やっぱり、マヤーが特別だったんだな…。
「…ふぅ、しょうがねぇなぁ。…よし、そのままだとみっともないし、私が直してやるよ」
「うん…」
マヤー……元気にしてるかな…。
「よし…そうと決まればもう帰ろうぜ?…榊?……お〜い?」
「うん…」
マヤー…会いたいな……マヤー。
「…榊ぃ!!聞いてんのか!?」
「あ、う、うん。分かった。帰ろう」

そうして私達はちよちゃんの別荘へと引き返す。…もちろん、このとき神楽が言っていたことなんて
ろくに耳に入ってなんていなかった。


 

553 名前:美浜家別荘珍夜話 (side榊)[sage] :2005/12/28(水) 04:35:20 ID:PcHqoVOv

別荘に戻り階段を上がってみると大小様々な寝息が聞こえてくる。
部屋に入ってみると案の定皆ぐっすりと眠り込んでいた。昼間は遊び、夜間は勉強。
当然、皆疲れているのだろう。私も、かなり眠たい。
「それじゃあ…神楽、お休み」
寝る前の定番の挨拶を告げて自分も布団へ向かおうとしたのだが、神楽に腕を掴まれた。
「おいおい榊。まさかそのまんま寝るつもりかよ?」
振り向くと、ちょっと慌てた様子の神楽。
「寝る前にやることがあるだろ。忘れたのか?」
「?」

寝る前に…すること?これは、もしかして…。

そう思ってハッとした。そりゃそうだ、このまま寝るのはいくら何でも味気なさすぎる。
せっかく都会じゃ見れない綺麗な星々がひしめきあう、こんなにもロマンチックな夜空の下を
二人きりで散歩してきたのだ。恋人同士なら、これで何もなかったという方が確かにおかしい。
私も女の子だ。率先して神楽を最後まで導いてあげるべきだった。
それにしても神楽…自分からなんて、よっぽど期待してくれてたんだ…。
薄い膜が張っていたような不透明な意識が一気に覚醒する。
私はゆるみそうになる顔を引き締めて、さあらぬ体でゆっくりと神楽に向き直った。
「すまなかった神楽。迂闊だったよ」
「思い出したか?」
「あぁ…大事なことだもの。…でも、どこで?」
神楽はしばらく考えこみ、やがてポツリと言い放った。

「ここでいいや」

「……………え?」

「ここでしよ」

何?ここ?ここって…?

神楽のとんでもない発言に耳を疑った。神楽を見下ろす。真顔だ。
「何だよ?いちいち移動するの面倒だし、終わったらここですぐ寝れるし、別にいいだろ」
平然と言い放つ神楽に私は愕然とした。
有り得ない。
部屋の中は薄暗いとはいえ、月明かりで誰がどこで寝てるかくらいの判別はつくのだ。
皆が寝ているこの別荘で神楽とすること自体私にとってかなりの冒険なのだが、よりにもよって
同じ部屋でことに及ぶだなんて冒険を通り越して無謀に感じる。
辺りを見回す。皆、確かに深く眠っている。ちょっとやそっとじゃ起きそうにはない。ないけれど…。
智さんに顔を足蹴にされてる水原さんが低く呻いた。
私の名を呼びながらかおりんが枕を強く抱きしめた。
そして、天使のような寝顔をしたちよちゃんが布団の中でコロリと可愛く寝返りをうった。

…ここでする、の?

硬直している私の肩を神楽はポンと叩く。
「別に脱がなくていいからな。そこの椅子に座って待ってて。準備するから」
神楽はそう言って、部屋の隅に置いてあるバッグの山から自分のを見つけ出し、何やらごそごそ
と探り出した。
取り残された私はただただ目をしばたかせる他なかった。


 

554 名前:美浜家別荘珍夜話[sage] :2005/12/28(水) 04:45:13 ID:PcHqoVOv

壁際に合った背もたれの無い木製の丸椅子に腰掛けながら、呆然と神楽の背中を見つめていた。
何てことだ。まさかこんな状況に陥るなんて…。
いったい、今夜の神楽は何でこんなにも大胆なんだろう?自然に囲まれて開放的になっているのか?
それにしたって、誰かが起きたらどうするんだ?見つかったら、きっとパニックになるに決まってる。
ゆかり先生は分からないけど、黒沢先生に私達の関係がバレたら問題になってしまうだろうし。
いや、それ以上に一番まずいのはちよちゃんに見られたりすることで…。
あんなとこ…ちよちゃんが見ちゃったら新たなトラウマを作ってしまうかもしれない。
とは心配しながらも、素直に神楽を待っている私って一体…。
私は頭を抱えた。

「…神楽、本気でするつもりなのか?」
「当たり前だろ。榊は嫌なの?」
「いやじゃない…けど、ここでするのは、その、危ないよ…」
「まぁだそんな事気にしてんのか?大丈夫だって、静かにやるからさ」
「………静かにって…君にできるのか?いつも声、お…大きいじゃないか」
「えぇ?そうかなぁ…でもそりゃ、あんたがいつも静かすぎるからだろ?」
「そ、それは…」
私が"する"側だから仕方がない、とは恥ずかしくて口には出せなかった。
代わりに小さく頷くと、神楽はふっと笑った。
「ま、心配すんな。やってる間は黙ってるし、なるべくすぐ終わらすから」
それはそれで嫌だな。…ん?終わ“らす”?
「すぐ…って。……というか、え?……まさか、今日は君がするの?」
驚いて問いかけると神楽がハアーッと盛大な溜息を吐いた。
「あんた、今更何言ってんだよ。何のために私が今こうして準備してると思ってんだ?
そりゃあ、あんたの方が上手にできるんだろうけど今回は私がやるって約束なんだから」
約束?何だ?まさか、いつの間にか今度は神楽に"させる"約束なんてしてしまっていたんだろうか?
だとしたら、とんでもない事だ。よりにもよって今日それを実行してくるなんて。
今回は是非断わりたい。けど、神楽は約束を破られるのを嫌う。怒らせてしまうのはもっと嫌だ。
うぅ…や、やっぱり…神楽にされるしか、ないのか…。何故かやる気満々だし。
はぁ………声、我慢できるだろうか…。
「…不安だ…」
「何だよ、私の腕を信用してないのか?大丈夫、上手くやるって!」
「………上手にされては困るよ…」
神楽には聞き取れないくらい小さな声で私は呟いた。

 

555 名前:美浜家別荘珍夜話[sage] :2005/12/28(水) 04:50:01 ID:PcHqoVOv

さっきから神楽の突飛な言動に振り回されっぱなしで冷静な思考を保てないのだが、私に背を
向けしゃがみ込んでいる神楽が何をしているのかがふと気になり出した。
「ねぇ、神楽?」
「んー?」
振り向きもせず、神楽が生返事をする。
「…何、してるんだ?」
「だから準備だって。道具探してんだよ。っつかしーな…確かにこの中に入れておいたんだけど…」
「………?」

どうぐ?………ドウグ?……………ど、ど…道具!?
え?いや?…ま、まさか……あの、赤蝋燭とかバイブとかピンクなんとかっていう……あの道具か!?

「神楽!!!」
思わず大声で叫んでしまい、慌てて自分の口を手で塞いだ。幸い、誰も起きなかったようだ。
「…何だよ、びっくりするな」
神楽が目を丸くしてくるりと振り向いた。
「だっだだだって、…道具?何で持ってるんだ?いや、それより何で持って来てるんだ!?」
「ははっ、確かに私が持ってるのは意外だよなぁ。…実はさ、こっそり練習しようと思って」
「こっそり?な、何で隠れて使おうとするんだ!私がいるじゃないか!」
「あ〜、実はお前には内緒にしときたかったんだけどな。でも仕方ないよな、この場合。
あんたをそのままにできないもん。ふぅ、せっかく夏休みからちよちゃんに教えてもらってたのに…」
「ちょっと待ってくれ」
話の途中だったが、どうしても引っ掛かる人物の名が出てきたので私は右手を前に出して神楽を制した。
「…誰に教わったって?」
「?だから、ちよちゃんだよ」
「ちよちゃんって……美浜ちよ…ちゃんのことか?」
「そうだよ。他にいるか」
「ちよちゃんが…」
アオーンと、遠くで野良犬の鳴き声がした。

 

556 名前:美浜家別荘珍夜話[sage] :2005/12/28(水) 04:58:44 ID:PcHqoVOv

「ちよちゃんも持ってるのか!!?」
再び大声を出して勢いよく立ち上がる。今度は周りを気遣う余裕は無かった。
「?持ってるよ?」
当たり前のように答える神楽。頭が真っ白になって気が遠くなった。
「なに驚いてんだよ?別に持ってても不思議じゃねぇだろ、女の子だしさ」
「でも…でも、ちよちゃんはまだ13歳だぞ?は、早過ぎないか?」
「そうかぁ?…ま、でもほら、ちよちゃん、天才だし。私より扱いは全然上手いんだぜ?」
あはは、と笑う神楽。この信じがたい現実に私はついにへなへなと体の力が抜け、両膝を床につけた。
最近、どんどん低年化している性行為が問題になっていると聞いたが、まさかよりにもよって
ちよちゃんが!!しかも、私の神楽に教える立場だって!?そんな…そんなことって…。うう嘘、だ。
「お、おい?どうした?具合悪いのか?」
「ちよちゃんが…ちよちゃんが…そんなことしてるなんて…」
「何だよ、別にいいじゃん。まさか中1の女の子に負けた〜とか思ってんじゃないよな?
はは、あんたに限ってそりゃないか。でも、そういや榊も私と大差なかったよな〜」
「……神楽と同じくらいって…?」
「もう忘れたのかよ。ほら、ちよちゃんの誕生日の前に一緒にしたじゃん」
「…神楽と道具を……?」
「そうそう、お互い慣れない手つきで四苦八苦してさぁ」

私が神楽と一緒に道具を………

「使ってない!!」
本気で思い出そうとしたが、そんなもの使った記憶はない。というかそんなモノを使ったことを
忘れるわけがない。そんなアブノーマルなこと…神楽としたことなんて、ない。
私はいつだって自分自身で、愛してきた。
…でも、でもそれじゃあ神楽は物足りなかったのだろうか…。
「ねぇ…神楽、私じゃ不満があるのか?あるならはっきり言ってくれ」
「はぁ?何だよ?不満なんてあるわけねぇだろ」
「じゃあ…何でだ?何で道具を使う?何で私と練習してくれなかったんだ?」
神楽は口ごもり、ちょっと困ったように頭を掻きはじめた。
「いや………上手くなって…完成させて、榊を驚かそうと思ったから…」
「そんなことしなくていいんだよ!ね、神楽、約束してくれ!これからは私の前でしか使わないって」
「へ?な、何で?」
「わ、私のこと、本当に好きなら、約束して!」
神楽はぽかんと口を開いて、今にも泣き出しそうになって懇願する私を見つめていた。
「…まぁ……榊がそこまで言うなら……。…にしても、そんな見たいものかなぁ…?」
「当たり前だ。神楽のことなら、何だって見ていたい」
「ふ〜ん、そ、そっか。…うん、そういうのって、ちょっと、嬉しいかもな」
照れたように頬をかきながら神楽は屈託なく笑った。

まったく呑気なものだ。どういった道具か知らないが、一言相談してくれればよかったのに。
しかし…道具、か。ひょっとして神楽なりの考えがあって用意してくれたのだろうか。
まぁ…とにかく持ってしまったのを今更どうこう言っても仕方ない。それに…。

 

557 名前:美浜家別荘珍夜話[sage] :2005/12/28(水) 05:05:53 ID:PcHqoVOv

「ね…神楽…」
「ん?何?」
「その…なんだ……。私も、ほんの少しくらいは…興味はあるんだ…ど、道具」
コホンと咳払いして告げる。今度は私が顔を赤く染める番だった。
そんな私の姿を見て神楽はおかしそうに吹き出した。
「あは、そんな恥ずかしそうにしなくてもいいじゃん。変な奴」
「い、いや…君が…開けすぎなんだ。もっとこう………恥らった方がいい」
「そうなもんかなぁ?まぁいいや。ん〜、にしてもサイズはもうちょっと大きい方がいいかなぁ」
「!?」
大き…何を言って!?椅子から滑り落ちそうになるのを片足でなんとか踏ん張った。
「さ…サイズまであるのか?」
「当たり前だろ?穴の大きさとか長さとか…用途によって使いわけるんだから。
種類がいっぱいあって覚えるの大変だったぜ。見た目はそんなに変わらないしさ」
穴…長さ…用途…種類…。頭痛がした。
神楽どうしちゃったんだ?そんなこと平気で言う人じゃなかったじゃないか…。
初めての頃、私もそうだったが神楽もそれ以上にそういう知識はなかった。
それが今は…道具を使うとまで言っている。こうまで変えたのは私のせいだろうか?
日頃神楽に色々しちゃったし…。神楽のためとはいえ…色々勉強したからな…。
頭の中で、付き合い始めた頃の純情な神楽との思い出が次々よみがえってきたが、すぐに打ち消した。
今は今、だ。それに、変わったにしろ神楽であることには変わりはない。

「神楽…初めては、み、短い方がいいと思うぞ」
爪が食い込むほどに拳を握り締め、ようやく声を絞り出す。
「いや、普通にしよう。そっちの方が扱いやすいしな」
「…」
神楽は取っ手の付いた長方形の木箱から何かを取り出してせわしく両手を動かした。
あの中に道具が…。
「よし、準備できたぞ。待たせたな、榊」
神楽は立ち上がって、私の方に振り向く。それに無言で頷いた。

正直、怖い。だけど、細かく考えるのはもう止めた。
今は神楽を信じよう。受け入れよう。そう…決めた。


 

558 名前:美浜家別荘珍夜話[sage] :2005/12/28(水) 05:12:43 ID:PcHqoVOv

神楽が私に歩み寄ってくる。
「それじゃ、始めるぜ。あんま動かないでな?怪我するかもしれないし」
「う…うん。大丈夫、信じてるから…」
「あぁ…、全て私にまかしとけ…榊…」
神楽は微笑んで、片膝をつき、木箱を置いた。そして木箱を開ける。
心臓がばくばくと激しく波打つ。
期待もあるし、不安もあるし、好奇もあるし、恐怖もある。
私の視線は神楽の右手に釘付け。
そして神楽が木箱の中からゆっくりと手を引き離す。
そこからでてきたものは
「………?」

針。糸の通された、どこにでもあるような針。だった。
神楽は膝まづいた姿勢のまま、私の左脇にその針を近づけた。
「………あの、神楽…何してるんだ?」
「は?見ての通りだろ。縫うんだよ」
「…縫う?」
「あんたのTシャツを縫ってやるって…散歩の帰りに言ったろ?」
…言ってたような。見ると確かにそこには裂け目できていて肌が露出している。
「じゃあ…道具って?サイズって?」
「?針だよ」
「………練習っていうのは……?ちよちゃんに教わってる…」
「裁縫だけど。さっきからそう言ってるだろ」
木箱の中には大小様々な針、そして赤、青、白と色とりどりの糸。そして布の切れ端。
「じゃあ…じゃあちよちゃんの誕生日に一緒にしたって…」
「だから、ぬいぐるみ作ったじゃん。本気で忘れてたの?」
「………」
私が黙り込むと、神楽が怪訝な顔をして尋ねた。

「なぁ榊…あんた、何かと勘違いしてたんじゃないのか?」
「………………………………………………………………別に」
「あやしいな、おい」


 

559 名前:美浜家別荘珍夜話[sage] :2005/12/28(水) 05:20:49 ID:PcHqoVOv

結局その後、私は神楽により少々危なっかしい手つきだが、手厚くTシャツを縫われた。
真剣な表情で作業に没頭する神楽。そんな彼女を見下ろしていて、不意に素朴な疑問が頭に浮かんだ。
「ねぇ神楽。どうして急に裁縫なんて練習しだしたの?」
神楽は手を止めて、少しふてくされたような顔を私に向けた。
「…いつもな、あんたに弁当作ってもらってるから……その、何かお返しができないかなと…」
「お返し…?」
「だから…ほら、裁縫とかできりゃ、ぬいぐるみとか…マフラーとか編んであげれるだろ」
「…私に?そのためにずっと練習して?」
「ま………、そういうこと、かな。ほら、あと少しで縫い終わるからじっとしろよ」
私から目を逸らせて、怒ったような顔で針を動かす。頬が赤い。照れ隠しだろうか。
そんな神楽を見て、私の心には幸福感と罪悪感が同時に大きく膨れ上がった。

あぁ…神楽は本当に純粋に私のことを想ってくれている。なのに私は…私は…!!

「ごめん!ごめんなさい、神楽!!」
私は感極まって神楽を抱きしめた。
「おわっ!動くなっつたろ馬鹿!!何なんだよ急に!?」
「神楽がそれだけ私の事を真剣に想ってくれていたのに…私だけがやましい事考えて…!!」
「…やましい事?」
ピクリと神楽がの肩が震えた、が、今の私は気づかない。
「でも仕方なかったんだ!神楽がややこしい言い方するから…変な想像してしまうんだ!」
「榊…!あんた、やっぱりいやらしい事考えてやがったんだな!くっそ、人がせっかく…!!吐け!何を考えてた!?」
「君が…きちんと目的語を言わないから…!わ、悪い癖だぞ」
「人のせいにするか、卑怯者!!変態!ムッツリスケベ!!だいたいあんたは日頃っから…」
またこのパターン。神楽が説教を始め出す。が、その声が大きすぎた。
かおりんが目をこすりながら起き出してくる。
「んん〜何なのよ…うるっさいわね」
眠たそうな目をこちらに向けたが、私と目が合った瞬間、その瞳が大きく開かれた。
「さかきさぁん!!!…ってきゃあああああああああああ!!!!!ちょっとぉ神楽さん!!
何で榊さんを抱きしめてんのよ!私の榊さんから離れて、い ま す ぐ!!!」
「違っ!これは榊がいきなり…っていうか誰がお前の榊、だ!!言っとくけど榊は私の……えぇい!!
そうじゃくて……とにかく、かおりんは黙っててくれ!!これは二人の問題だ!!!」
「きぃ〜!!!何よ何よ!ちょっと仲が良いからって調子に乗らないでよね!!」
「実際そうなんだからしょうがねぇだろ!!」
「あ、あの…二人とも、落ち着いて…」

「「榊(さん)は黙って(下さい)!!!」」

「…はい」


 

560 名前:美浜家別荘珍夜話[sage] :2005/12/28(水) 05:23:25 ID:PcHqoVOv

神楽とかおりんの激しい言い争いに私がつけいる隙はなく、挙句にその怒声によって続々と起き出して来る
水原さんや智さん、ゆかり先生らの介入で騒ぎは何倍にも膨れ上がった。
私はどうしようもなく、荒れ狂う七人から少し離れた所で立ちすくんでいた。
元はといえば自分の勘違いが原因なので、ひどくいたたまれない。
皆の絶叫と怒号は窓から煌々と輝くあのお月様に届きそうなほど激しかったのだけれど、
ただ一人、そんな修羅場の中でも合いも変わらずに安らかな表情で眠る大坂さんがいた。
呆れるような羨ましいような複雑な気持ちで私が眺めていると、あかん、と口を開いた。

人の話はきちんと聞かなあかん。勘違いで大変な事になるかもしれんよ?

(終)
 

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