初の木枯らしが吹いた晩秋の夜。
大阪の家に遊びに行った智は、出されたばっかりのこたつに
くるまりながら、テレビをつけっぱなしにして、みかんを食べている。
しばらくは他愛のない雑談に興じた後 ――
「へへー」
とても嬉しそうな顔で、大阪はきちんと割れた割り箸をみせびらかした。
「ともちゃーん。どや? 」
「あのなー 」
少女はあきれたように、食べ終わったみかんの皮をつまみながら両肩を
すくめてみせる。
「おまえ。ほんとに子供だなー 」
「ちゃうねん」
もともとふっくらした頬を、もう少しだけ膨らませて反論する。
「私はこどもちゃうよ」
「いーや。こどもだね」
からかうような表情を浮かべて、くりくりした瞳を数度瞬かせる。
「ふーじこちゃんのような大人の智ちゃんからみたら、大阪なんて
ほんとお子様」
「ともちゃんの方が幼いと思うけどな〜 」
のんびりした普段の表情とは少しだけ違う表情を見せながら、
ゆっくりと近づいていく。
「へへー 」
「なに? なに? 」
いきなり、睫のふれあうような距離に近づかれて、智は瞬きを
しながら半歩後ずさる。
「お、おおさか? 」
しかし驚きながらずり下がる少女の両肩を掴んで、再び距離を
零に近づける。
「私がどんなに大人なんか、ともちゃんだけに見せてあげるで」
黒々とした髪の先でクラスメイトの頬をなでながら、小さめの
唇を近づけて、躊躇なく重ね合わせた。
「なっ…… 」
親友のいきなりの行為に身体を動かすことすらできない。
「んんっ…… 」
テレビから流れるやや無機質な笑い声と、時折行き交う
車の音の他に、二人の少女の小さな息遣いと、華奢な身体が
触れ合うことによって生ずる衣擦れの音が聞こえるだけである。
時計の秒針が一周した時、ようやく大阪は、ショートカットの
同級生の唇からゆっくりと身体を離した。そして、驚きで何も言う
ことができない、いつもはかしましい少女に向かって悪戯そうな
笑みを浮かべて囁いてみせる。
「どや。おとなのおんなになってるねんで」