思春期の男の子なんて、いつもいつもエロいことを考えているもんだなんて話を聞いたことがある。
確かにそれは間違っていないかも。何より僕みたいに変わった体を持っていると、余計にそんなところはあるかもしれない。
でもさ、だからって言って本当にいつもいつもってわけじゃない。普段はきちんと高校生活なんてものを営んでいたりするんだ。このやりすぎのTOO MOREこと、滝野智(たきの さとし)が言うんだから、間違いない!
特に楽しそうな学校行事なんかは、とりわけ気合が入るってもんよ!
文化祭。
体育祭で大活躍した我が一年三組は、ノリにノってこの学校行事にも挑もうとしていた。
「いやいやいや、ついに完成しましたなあ」
僕の言葉に、集まっていたみんながうなづいた。予定通りですね、とうれしそうなのは美浜千代。
「早朝登校して作っていたカイがありました」
「これで後は展示するだけだね」
カオリンが笑って付け加えた。カオリンは天文部の手伝いもあるはずなのに、はりきってクラスの手伝いに参加している。
そして出来あがったのが、この大きな棚だ。
教室の後ろのスペースを埋め尽くさんばかりに作られた棚は、一週間の早朝を通い詰めた努力の結晶である。ここに展示物を飾ることが、クラス発表のメインである。
「でも、こんなに簡単に棚が組みあがるんだったら、別に明日の準備の日に組んじゃってもよかったよなー」
「バカだろ、お前」
呆れたように僕に突込みを入れてくるのは、本読みのヨミこと水原暦(みずはら れき)。
「明日組んだら、その間借りてきた展示品どこに置くんだよ。それにまだ個人作業も残ってるだろ」
「わかってるって、もう。ヨミったら。言ってみただけじゃないかぁ」
そう言いながら僕は、ヨミの胸元に頭をぐりぐり押付けた。黒い詰襟の制服の下に、たくましいヨミの胸板の感触。それはあっけなく、ぐい、と脇に追いやられた。うぬぬ、このやろう! せっかくの人のスキンシップを!!
「女子の方も順調だって大山さんが言ってたし、このままだと明日は純粋に仕上げにかかれそうだ。――って、やめろ、トモ、何暴れてるんだよ!! 」
押さえ込もうとするヨミに対抗するべく、じたばたしながら僕は言い返す。
「うるさーい!! このヨミぃ!! オレがどれだけ偉大な役割をしたか、ちっとも分かってないだろ!! 」
「何言ってんだ! 」
お前何もしてねーだろ!! 予想した通りの答えが返ってきたので、僕はじたばたするのを止めて、人差し指を、ちちち、と左右に振った。
「甘いな、ヨミ君」
「何い? 」
「オレが何もしなかったおかげで、この棚は予定通り完成したのだ!! もしTOO MOREのおれが余計なことをしていたら、きっとやりすぎていたに違いない!! 」
「あー、そりゃ大活躍だ」
「それだけじゃありませんよ」
僕とヨミとの腐れ縁漫才の最中に、千代がぽっと割り込んできた。男の癖に、家訓で結っているというトレードマークのおさげが、ふわんと揺れた。
「あの滝野さえ早朝登校しているってことで、女子も男子も積極的に協力してるんですから、トモちゃんは存在しているだけで価値があります」
「わっはっは! その通り!! 誰だって存在しているだけで価値がある!! 」
「……それでいいのか、お前」
「僕はもう少し考えた方がいいと思う」
ヨミとカオリンが真顔で言う。いや、ほらさ、別にきちんとやることあるじゃん、オレ。
「やること? 」
「ほら、陳列物を借りてくるの」
ああ、とヨミが声を出す。そりゃ確かに重要だ、と。
僕らのクラスの出し物は、ぬいぐるみ展覧会。喫茶店とお化け屋敷っていう提案が、担任の谷崎から駄目出しされて、目安箱設置で出てきた意見である。投書はたった一つだけだったけど、この提案が思った以上にクラスで、ウケた。
「全校生徒からぬいぐるみを集めるのって、どうだろ? 」
「もしかしたらアンティークドールとかも集まるかも! 」
「あ、あたしユーフォーキャッチャーで取ったぬいぐるみ持ってる! 」
そんなやりとりの後、全学年の全クラスに、協力者求むのビラが配られたわけ。
――あなたの家のぬいぐるみさん達に
お友達をたくさんつくってみませんか? ――
このビラも好評! そのビラのコピーを作ったのが――。
「へへへ、ボクは、目安箱の文章をまとめただけやー」
「いやいや、大阪はずっとがんばってたからな」
「もう、ヨミちゃん、そんなに誉めんといて」
ヨミに頭を撫でられて、幸せそうに大阪が笑った。天然ボケの固まりみたいな大阪は、一日ずっとそのことに没頭して(たまに居眠りしながら)ようやくこのコピーをひねり出したのだ。それは誉められれば、確かに嬉しくなるだろう。
「あの文章は、誰が考えたものなんやろなー」
榊ちゃん、どう思う?
大阪が僕に向かって声をかける。
でも、もちろん僕は榊じゃない。
大阪の視線だって、僕より頭一つ上の辺りに向かって投げかけられていて――。
「誰だろうね」
抑揚のない声が僕の後ろから聞こえてきたから、おもわずふりかえると、そこに。
榊が立っていた。
高い身長に、さらさらで腰のあるストレートヘア。切れ長な目が似合う、シャープな顔立ち。運動神経抜群で、頭脳明晰で。――そして、僕と同じ秘密を持っている男。
――男?
……まあ、それは置いておいて。
普段は平気だけれど、この美形が気配もなく突然真後ろに立っていたら、誰だってビビる。僕もその例外ではなく、辛うじて動揺を隠して。
「おはよう」
って言うのが精一杯。そんな僕を押しのけて、カオリンが榊の前に飛び出した。
「さ、ささささかきさん! おはようございます!! 」
「おはよう。ごめん、遅れちゃって」
これまとめてて遅くなった、と学生鞄の中から一冊のノートを取り出して、カオリンに渡す。
「ああ、展示物一覧ですね。きれいにまとまっています」
横から覗きこむと、丁寧できれいにまとまった、人形の貸出人の名前、クラス、大体の大きさがきれいに表になっている。やがてそのノートは、へえ、これはこれは、何て言われながら、周りの仲間達に回されていった。
その間も、カオリンの榊への賛辞は止まらない。カオリンは男の癖に、榊への愛情表現を隠そうとしない。もしかしたら本人は隠しているつもりかもしれないけれど、周囲から見たらばればれだ。
そりゃ榊はかっこいいし、何でも出来るけどさ――。だからってそのはしゃぎ方は、何かなあ、って思う。お前は榊の何をわかっているんだよって――。
ん。
何考えてるんだ、僕は。
「さすが榊さんですね! 尊敬します!! 」
「ありがとう」
「榊さん、ぬいぐるみなんて女の子っぽいものに興味なんてないはずなのに――。仕事には決して手を抜かない! 僕も榊さんを見習いたいです! 」
こらこら。ってことは、カオリンは仕事で手を抜きまくってるってことか? 思わずそんな毒舌が喉元までこみ上げてくる。どうしてかわかんないけど、胸の奥からムカムカが湧き上がってきてしまう。
榊に話し掛けて、楽しそうなカオリン。
その姿を見てるだけで、胸が苦しくなってくる。
そんな僕の気持ちなんか気づくこともなく、カオリンは一向にしゃべるのを止めない。ノートを見終わったみんなも、カオリンの話題に参加し始めた。
「そやったら、男の子で、誰が似合うん? 」
「例えば、大阪。あんたなら似合うって言ってもいいんじゃん? 」
女の子みたいな顔して、男っぽくないし。そう言われて、うわー、と大阪が大きな声を出す。
「僕かて、榊ちゃんみたいな、男の大人を目指しとるんよ? 」
「――大阪、それを言うなら、大人の男じゃないか? 」
「あ、ヨミちゃんありがとう、確かにそうやんな、大人の男、大人の男――」
ぶつぶつ呟く大阪を尻目に、後は千代ちゃんとか、とカオリン。
「なぜですか? 」
「だって、やっぱり小さいじゃない? 本当は千代ちゃん、小学生だし。ぬいぐるみとたわむれる男の子って絵は、中々そそるんだよ」
「はあ、そんなものですか」
「でも、榊さんみたいな大人の男の人は、やっぱりついていけないですよね? 」
「――そんなこと、ないんじゃないかな」
僕の言葉がカオリンの声を遮ったから、周囲がぱっと僕を見た。
「似合うとか似合わないとかよりさ、好きって気持ちの方が重要だと思う。だからオレは、この投書をした人が男だったとしても、驚かないよ」
「え? トモ、男がした投書だったら、ちょっと引かない? 」ってカオリン。
僕だってそう思う。男が人形なんて似合わないよ。だからきっとこれはムキになって言ってるだけ。ムキになってるって、何に? その理由を突き止めたくなくて、僕は無理矢理言葉をつなげる。
「引かれても好きだから、それには理由なんてないじゃん。それとも今回の展示って、キモいとか思いながらやるの? それはさ、なんか違うんじゃない?
第一、男が人形似合わないって理論は、さっきの話を聞いてたら、見た目の問題じゃん。世の中には、色んな人がいるんだよ? 男の肉体で女性のハートを持っている人とか、女の肉体で男性のハートを持っている人とか――」
その両方を持っている人とか、って言いかけて、その言葉を飲みこむ。おっと危ない。TOO MORE、TOO MORE! だからちょっと矛先を変えてみる。
「それとか、男なのに男のことが好きな人だっているしね」って。
カオリンに向けて放った皮肉なのに、何故か全く想像から外れた奴が極端に反応する。
「そ、そそそそうだよ! 好きになった人の性別が関係ないみたいに、ぬいぐるみ好きな男もいるよな? な? 」
「……ヨミ、何慌ててんの? 」
顔を真っ赤にした竹馬の友に、クエスチョンマークを投げかけると、ヨミはあからさまに反省した顔をして僕を見た。ごめん、おまえを気遣うのすっかり忘れてたって顔で。
僕の隠された性別を思い出したのだろう。全く、気にし過ぎだって言うの!! これだから何でも知ってる幼馴染ってのは困る。
なんとなく周囲に変な雰囲気が立ちこめた瞬間、HR開始のベルが鳴った。それと同時に、さっきまでのもやもやがなかったみたいに、みんな一斉に席に着く。珍しくHRに遅れて来なかった谷崎先生が。
「お、棚、出来たな」
と言って、クラスが爆笑した。
理由がわかった先生は、顔を真っ赤にして。
「ばかやろー! 俺はそんなセンスないギャグいわねーぞ!! 」
いやいや、しょうがないじゃないですか。
たまたまツボに入ったんですって。
*
昼休みに朝のことを思い出しながら裏庭を歩いてみる。
11月ともなれば、そこらいったいは枯葉の海になっている。掃除をしても掃除をしても、ここいらはすぐに枯葉がたまってしまう。
住宅地に隣接して立てられているとはいえ、学校に緑は豊富だ。容易に外から中が伺えないような工夫なのだと、過去に誰かから聞いたことがある。
「さむ……! 」
今日はうすぼんやり曇っていて、風が冷たい。明日辺りから晴れ間が混じって、明後日には晴れるそうな。文化祭の支度をこの昼休みから本格的に始めたクラスも多いようで、わざわざ裏庭になんかくる物好きはいない。一人になるにはもってこいの場所だった。
「男なのに、男を好きになる人、か――」
さっきから考えているのは、そのことである。カオリンに当てつけて言ったつもりの言葉だったけど(結果としては無関係のヨミを慌てさせるに留まったのだが)もしかしてそれは自分の本音だったんじゃないか、って思ってしまったから。
「僕は、榊が、好きなのかなあ」
そう思うと、ぼんやりと胸の奥が熱くなってくる。同時に股間も。
ヤバ。
ここで前かがみになるのは、誰の目がなかったとしてもかっこわるいから、側の木にもたれかかるふりをして、勃起したアソコが痛まないように調節した。木の皮のにおいがする。そのまま木の幹をぎゅっと抱きしめてみる。
「――抱きしめたいなあ」
呟いた本音。強く瞼を閉じた。
もうあれから二ヶ月半経つんだなあ。そう思ったら、抱きしめずにはいられなかった。他の人から見たら、バカみたいだよね。こんなの。でもそうしたいからそうなっちゃうってこと、この年齢にはよくあることなのだ。
二ヶ月半前。
――僕は榊と、セックスしたんだ。
犯して欲しい。
お腹の裏側まで、榊のオチンチンで。
欲情が満ち溢れて、タマタマまできゅうって締めつけられるような破裂しそうな、矛盾した感触。カチカチになった自分のペニスの感覚。
榊――。
その鍛えられた、けれど形のいい身体が、汗をたらたらさせながら動くたびに、僕の筋肉の到る所が、カタカタ反応する。
お腹なんか撫でられると。
「あぁン」
なんて甘い声が出る。
泣きそうになる。
榊の舌。よだれでトロトロ。唇でオチンチン、なぶる。
腰、ひくん、てなる。
下から、横向きに、ぱくんって咥えられるのも、好きぃ。
本当はカリの部分が感じるけれど、そのもどかしさと、舐めしゃぶる榊のエッチ臭い顔が好き。
目の前に居たと言っても、榊は僕の方を向いていたわけではない。しゃがんで木々の間にじっと視線を注いでいただけだ。そのままじっと動かない。その姿を見て、僕も動けなくなった。
感じるのは、殺気。
この秋の風よりも冷たく凄みのある空気が、榊の周りに集まっているのが判る。例えるなら、真冬の風だ。触れたら身体を切り裂かれそうな、そんな空気。瞬間、それが膨れ上がって、カサカサって言う何かが動く音とともに、消えた。
「ど、どうしたの――? 榊ちゃん」
「あ、滝野君」
呼びかけに答えた榊は、もういつも通りの顔をして、すっくと立ち上がる。
「――何でもないよ」
「考え事? 」
「まあ、そんなとこ」
あんな顔をして考えることって、一体何だろう? それに悩むより先に、尋ねなきゃいけないことを思い出した。
「あ、あの、いつからここにいるの? 」
僕の質問に怪訝な顔をして、昼休み始まってからかな、と榊が答えた。よかった――ってことは、僕が木に腰をこすりつけているって変態的な仕草は見られてなかったって事だ。
あれ? じゃあ、ご飯食べてないの? ううん、今日はパンだから、ここで軽く食べた。へえ、そうなんだ。
「……」
「……」
それからお互い黙った。きっと二人一緒に、目を反らしたんだと思う。何か言いたいんだけど、言えない。そんな雰囲気。考えたら、こうやって二人っきりになったのは、あの別荘以来かもしれない。だから。
「体育祭、榊ちゃんすごかったねー」
と、わざと別荘のことを反らして口にした。本当は一番その話をしたいのに、だからなおさらなんだけど。
「トモも、はりきってたね」
榊がにこっと笑って言ったから、僕の心臓がドキってした。――見てたんだ、榊、僕のこと――。
「わはは、そーだろ? そーだろー!? 」
トモって呼ばれた心臓のドキドキをごまかすために、榊の身体をバンバン叩く。ばしばし、照れ隠しの右手が、突然宙で止まった。
「痛いよ」
榊が、僕の手を握ったからだった。行く事も戻る事もできない、僕の右手。宙ぶらりん。
僕の気持ちみたいに。
そのかわり榊の息がかかるくらい近くに、僕は側にいた。
「さ、かき、もしかして」
「ん? 」
「気にしてる? あの、別荘のこと」
「気にしてるのは、トモの方でしょ」
ふって手が軽くなって、榊が手を離したのが分かった。それが何だか突き放されたみたいな気がして、寂しい気持ちになる。
「もしかして、榊、僕のこと怒ってる? 」
「怒ってないよ」
「じゃあ何でさっきまで怖い顔してたの? 」
「……滝野君には関係ないよ」
どうせ俺には届かないものだからさ。
小さな声で、吐き捨てるみたいに出た榊の独り言を、僕はしっかり聞いてしまった。もしかしたら、それは空耳かもしれないけど、それくらい小さな声だったけれど、聞こえてしまった以上聞かなかったふりなんて出来ない言葉だったから。
きっと榊はきょとんとしているだろうと思う。
それを僕が見れないのは、僕が榊を抱きしめているから。
「どうして? 」
聞こえてきた榊の声からも、榊がきょとんってしてるのが分かった。でも、だからこそ、僕はこの両手が離せなかった。手を離したら、榊が逃げて行きそうで。
「関係なくなんか、ないよ」
精一杯出せた声が、それだけ。11月の木々のにおいが、榊のにおいに混じった。風が吹いた。でも僕も榊も、今は寒くない。大きく呼吸して、もう一度、口に出す。
「届くよ。絶対」
「――トモ」
そっと僕の頭に、柔らかい何かが触れた。それはきっと榊の手なんだろう。いたいよ、って声が聞こえた。強く、抱きしめすぎたのかもしれない。力をゆるめる。それでも榊は逃げなかった。
今、榊の胸元には、硬くさらしが巻かれているに違いない。榊の胸は、女の子みたいな膨らみがある。きつめのスポーツブラの下に、巻かれたさらし。そのスポーツブラを隠すための厚手のシャツ。
その方が、ペニスを隠すより楽なんだって、榊は言っていた。発育のよくない女の子みたいな身体をしている僕なんかより、榊は自分の身体の特徴を隠すのに苦労しているんだ。僕にはその苦労が、榊ほどには分からない。
それと同じで、僕は、榊が言っていた、届かないものが一体何かなんて分からない。榊が、関係ないって言っているのは、きっと本当に僕には関係ないものなんだと思う。それでも、僕はやっぱりがまんできなかった。だって榊は。
「僕達、友達だろ? 」
「ともだち? 」
「うん、ヨミも、大阪も、千代も、カオリンも、みんな榊の友達だろ? 」
僕の言葉にようやく榊が、ああ、そうかも、って言った。だから。
「そうかも、じゃなくて、友達なの! 」
「――そうなのか」
言いきった僕に、榊が笑った。顔を上げると、素直に笑顔を浮かべている榊がいて、また伏せてしまった。赤面しちゃったからだ。
「トモはいいね」
「なんでよ」
「素直で、元気で、いいよ」
「単純で、バカってことじゃないのか!? 」
榊の誉め言葉に照れて、顔が上げられない僕に、榊は。
「ねえ、さとしって呼んでもいい? 」
なんて、見当違いのことを言ってくる。
「――ポケモンマスターみたいだからヤダ」
「そ、そうか」
それからしばらく抱き合って、何事もないみたいに一緒にクラスに帰った。いくら思春期の、ヤリたい盛りの男の子だって、昼休みにしちゃうような事は早々ない。何より、榊とは友達だしね。
でも。
「うぅぅ……、はぁっ! はぁ――ああ」
家に帰ってから、もう禁断じゃなくなっちゃった、禁断の一人エッチにずっぷり漬かるはめになっちゃうんだけど。
「奥ぅ……! もっと、えぐって、よお」
ほんとにTOO MOREなんだから。オレは……。
――バカになりそう。
……やりすぎで。
「ただいまー」
玄関を上がって明かりをつけると、振りかえって、いいよ入って、と言った。
「お、おじゃまします」
そろりそろりと大きな身体をくぐらせて、榊が入ってきた。玄関にある空っぽの犬小屋を見たんだろう。榊が。
「犬、飼ってるの? 」と尋ねた。
「うん。でも今は叔父さんのところにいる。文化祭でばたばたするからって言って、預かってもらったんだ」
とりあえずどうぞどうぞって招き入れて、そのまま二階の部屋につれていく。ヨミが時々ここに来るときには、みしみし勢いよく階段を上がるけど、榊は慎重に慎重に階段を上っている。緊張しているみたいだ。
「何びくびくしてるの? 」
「いや、寄り道なんて、そんなに、したことないから――」
「大丈夫だって、赤頭巾ちゃんじゃないんだから」
悪い狼サンに食べられることなんてないって言って笑いながら、二階の突き当たりの部屋に榊を通す。
ひんやりとした空気。見なれた僕の部屋。最近の寒さに堪えて出したストーブ、壁にかかった大きな姿見と本棚、それから勉強机が明かりをつけると見える。とりあえず僕は置いてあったストーブの火をつけた。かちかちかちって音を立てた後、石油ストーブが、ボッて言った。
「とりあえず、ここが僕の部屋」
「意外と、片付いているんだね」
「ん? いや、だって家のことしないと、親一人子一人の生活だからね」
「え? 」
「父さんは小さい頃死んじゃったんだ。母さんは今日は出張で帰ってこないし。きちんとしておかないと、すごい怒られるんだよ」
僕にとってはしごく当たり前のことだったんだけれど、榊はびっくりした顔をしてこっちを見ている。
「ああ、ごめんね。びっくりさせようと思って言ったわけじゃなかったんだ」
とは言ってみたものの、確かに言われた方はぎょっとするだろうな。なんかこんなやりとりをこの前したような気がする。どこでだろう。
「とりあえず、お茶入れるね。その間に、着替えて見せてよ」
余計なことを言ったって焦りから、僕は榊を置いて、下の階の台所に向かった。とりあえず軽くお腹に何か入れて、それから一仕事だ、なんて思いながら。
だから密室で、榊と二人きりなんてことには、一向に気がつかなかった。だって、これから制服を縫い直すことで頭が一杯だったから――。
二人きり。
二人きり?
そう、今家の中で二人きりになっているんだったのだ。
「家のことさえやっていたら放任主義だから、それほど苦労もしてないんだよ」
「ふーん、うらやましいな」
ちくちくちくちく。
「この身体はお母さんの遺伝でさ。お父さんは小学校のころ、病気で死んじゃって」
「それでお母さん働いているんだ」
ちくちくちくちく。
「オナニーのときさ」
「ん? 」
「アレ以来、あそこでするのが癖になっちゃいました」
「うんうん」
ちくちくちくちくちくちくちくちく。
クッキーと紅茶をお腹に収めてから、僕と榊は制服の縫い直しに励んでいる。やっぱり微妙な調整をしないと、肩幅とか胸元とかがおかしな具合になってしまうのだ。
僕みたいなほとんど胸の出てないのはいいけど、きちんと胸がある榊みたいなのは、辛いかもしれない。と言うより、せっかく女の子向けの服を着るんだから、榊に女の子として服を着て欲しいなって思ったんだ。窮屈なさらしで巻くこと無しに。
「大丈夫かな? 」
「大丈夫だよ、胸を剥き出しにすることはないんだから」
榊は始めのうちは赤面したけど、でも結局はうなづいて僕の提案に乗ってきた。それから二人でちくちくちくちく。時折ストーブの上に置かれた薬缶のお湯でお茶を飲んで、ペットボトルに汲んでおいた水を中に注いだ。
ようやく作業が終わったのは、夜も9時を過ぎてからだ。大きく二人で伸びをして。
「それじゃあ、着てみますか」
すっぽりパンツ一枚になって、着心地を試す。
「うんうん、中々中々♪ 」
緩やかに作った胸元もぴったり。
「ただちょっと、股間がすーすーするね」
そう言って微笑んで見せて、驚いた。そりゃ、布の具合なんかからいって、胸元の盛り上がりを考えたらそうなることは薄々予想できてたけれど――。
「うん――。
すーすーする」
と言って赤面している榊は、上に着た布地が胸の厚みに盛り上がって、すらりとしたお腹と形のいいおへそを剥き出しにしてしまっていた。
こうやって女性の格好をさせてみると、本当に女性に見えてしまうのが、榊のすごいところだ。さっきまで黒い詰襟の制服を着ていたときは、かっこいい男にしか見えなかったのに。
「い、いいんじゃない? 榊はファンが多いらしいし」
ふと、心の中で何かがぐるぐる渦巻き出して、思わず言葉が出ちゃう。榊から背を向けて。明るい調子で。
「その、チラリズムって言うの? 微エロって言うの? きっとそれでまたファンが出来るだろうしさ。
ね? 榊だったら、エッチしたいって人、きっとたくさんいるよ」
何を言ってるんだろう、突然?
不意に今朝会った三年生の人の言葉がよみがえる。好きだったら好きって、素直に。
でも出来ないよ、そんなこと。
だって、僕も榊も、男だし。
榊はかっこよくて、きれいで、運動神経抜群で。僕なんか、目立ってたって言っても、猿なんだし。そんなの、榊が。
好きって言ってくれるはずがない。
「ね、榊、入れたい方? 入れられたい方? 」
「どっちも――」
榊の言葉に、今度は目の前が真っ暗になる。
そっかー、そうだよね。複数か。さすが榊ちゃんだ。
ははは、って思わず笑いが出て。
そしたら、ぐっ、て肩を掴まれて振りかえらされて。
「どっちも」
低いいい声がして。
「あ」
榊に、キスされた。
すっぽり腕の中に抱かれてる。
「だめだよ」
「どうして」
「本気になっちゃうよ」
「なっちゃだめなの? 」
「だって僕たち、男の子だよ」
「今だけならいいんじゃない」
「どうして」
「だって今二人とも――」
女の子じゃないか。
青い制服。夏の制服。
つい数ヶ月前に見たばかりの空みたいな、青い制服。
「ふふふ」
「トモ? 」
「榊ちゃんのその提案、乗った! 」
抱き着いて、今度は僕の方からキスをする。腰に、榊ちゃんの勃起したペニスの固さを感じる。たまらず僕も、布越しにオチンチンをすりつけた。
「榊ちゃん、かわいい」
「――え? 」
「本当に、女の子みたい」
キスの雨を降らせながら、僕は榊の身体に手を伸ばす。そっと耳を噛むと、くひゃん、てかわいい声で、榊が鳴いた。くぅ――――っ! かわいい! かわいいかわいい。連呼したら、榊が、恥ずかしいよって言うから、なおさら興奮した。
「だって本当にかわいいんだもん、さかき」
「――ぇ? 」
「かわいいもんをかわいいって言わないのは、重大な罪なんだぞ!! わかる? 榊サン――」
言葉だけで、榊が喘いだのが分かった。そっと薄手の偽制服の上から胸を撫でると、はー、はー、と呼吸がより深く早くなってきた。ふふふ。何か悪い狼サンになった気分。ほら、榊ちゃん、寄り道をしたら食べられちゃうんだよ?
「榊サン、学校中の男の子が、榊さんの身体、犯したいって思ってるのよ」
「いやあ」
「ブルマー姿の榊さんを見て、あのおっぱい揉みてえな、とか、おまんこの中にぶちこみてえな、って噂」
念のために言っておくけれど、榊はブルマなんてはいたことはないと思う。ただ、今二人は女の子だから、ブルマってことにしておいた方が感じが出ると思ったのだ。
「やめ……てぇ――」
でもこうやって脅える榊は、本当に女の子にしか見えなくて。ねっとりと身体中にキスをしながら、そっと制服の中に手を伸ばす。柔らかいおっぱい。お椀くらいの大きさのおっぱいをゆっくり揉むと、興奮した胸はすっかり固くなっていた。
捲り上げて、やっぱりねっとり唇をつける。
「は……ひゃん!! 」
「かわいいよ。榊ちゃん」
ふーっ、ふーって、息が漏れてる榊ちゃん。キスする僕の頭に、覆いかぶせるみたいに手のひらを乗せて、髪を優しく漉きはじめた。
気持ちいい。
だから、さわさわさわってさわりながら、太股から下着に手をやって、ブリーフの隙間から指をさしこんだ。
「っ! 」
「榊ちゃんの下のお口は、どうしてこんなに大きいの? 」
「それ、は、トモちゃんが、いじるから――」
榊ちゃんの女の子のところが、とろりと僕の指を締めつける。ヒクヒクした感触に満足しながら、僕は今度は軽く乳首を噛んだ。
「あァん! ヤン! 」
「榊ちゃんの乳首は、どうしてこんなにとがってるのぉ? 」
「それは、トモちゃんが、いじる、からぁ――はー……はーっ」
びくん、って榊の身体が跳ねる。にじみ出るみたいな汗。そのまま僕の手は、榊の下着を下ろして、ぶるん、って飛び出してきた固くて大きいものをそっと握る。
「榊ちゃんは女の子なのに、どうしてこんなところが大きくなってるのぉ? 」
尋ねた途端、不意に視線が逆転した。
抱きかかえられたみたいな感触。それから、ふわって、床の上に軟着陸している、不思議な感覚。いつのまにか覆い被さっている榊の姿に、僕は目をぱちくりさせる。
え?
どういうこと?
たしかさっきまで、僕は榊のオチンチンを弄っていて、ただ尋ねただけなのに。
どうしてこんなところが大きくなっているの?
「それはお前を食べちゃうためさ」
快感に弾む、榊の低い低い声が、さっきの僕の質問に答えた。
「あふぅ――くぅ……」
それから僕はずっと、もだえてばかりいる。榊ちゃんの舌が、僕の男の子のところと女の子の所を、交互に交互に舐めるから。
「ひぃ! くうん!! 」
時折、榊の指が、僕のかちかちになった乳首を弾く。そのたびに全身に快感が走ってわけがわからなくなってしまう。
「かわいいよ、トモ」
身体中をキスしながら這い上がって来て、榊が僕の耳元で囁いた。
「いにゃぁ……、そんなこと、いわない、てぇ――」
「かわいいものをかわいいって言わないのは、罪なんでしょう? 」
「ても、ぼく、かわいくないよ」
そんなことないよ、トモは、かわいい、かわいいかわいいかわいい。
かわいいって言うたびに、榊がキスするから、泣きたくなってきて、くうって声が出た。
「トモのブルマみて、みんな犯したいって思ってるよ」
そう囁かれて、思わず、イヤって声が出た。それを聞いて、含み笑いをしながら、意地悪な声で、榊。
「ほんとだって。トモの勃起した乳首を噛んで、マンコにぶち込みたいって噂してる。学校中の男が、トモとやりたがってるんだよ? 」
「やだ! 」
そんなのやだやだやだやだ!
首を激しく左右に振ってじれると、榊が甘い声で。
「どうして? エッチなトモは、みんなに一杯一杯犯されたいんだろう? 」
「……ぁ、だの――。や――たの」
「――? 」
「やたの」
「何が、やなの? 」
「さかきたけに、いっぱい、おかされたいの
ほかのひとじゃ、ためなの」
目尻から、ぽろぽろって、涙がこぼれる。
どうしてなんだろう? 冷静な自分が心のどこかにいて、僕のことをじっとみている。
どうしてこんなことを言ったのか、分からない。でも涙が出て、涙が出て。
「――入れるよ」
少し間があって、榊の声がした。
たくし上げられるミニスカート。
下半身が剥き出しになった感触。
それからお腹の中が一杯になる。
「うぅぅ! くふぅ!! ああ、ああ、アンっ!! 」
滑らかな榊の身体の動き。腰が打ちつけられるたびに、深く浅く、深く浅く、肉の杭が僕の身体の奥に突き立てられる。
「すごいぃ、これ、すのいのぉ―――」
汗でぬるぬるの榊の身体に、勃起した僕のオチンチンが触れて、上下に擦られるたびに同時に刺激されてしまうのだ。おへその窪みにはまると、きゅん、って頭の奥から搾り取られるみたいになる。
「はっ、はっはっは――ぁ」
「ん、んん、ん、あ、あ」
「――ふう、ちゅ、ちゅっ。くふぅ」
「はふは、ふぅ。ん、ん――ちゅ」
腰の動きが休むときは、榊が僕にキスをする時。一回キスをするたびに、一回幸せになる。一回腰が動くたびに、また一回幸せになる。
たくさんたくさん、相手を感じる幸せ。
「ああ! あああん!! 」
いっぱい、一杯の幸せ。
女の子の制服を着て、女の子の制服を着た人に犯されて――。
ふふふ。
榊ちゃん、きれい。
「ねえ」
「ん? 」
「いき、そう――。もうイッていい? 」
榊の声に、にっこりして、いいよ、って言った。
「……くも、――きそう、から」
「なに? 」
「ぼ…も、いき、そう――たから」
優しい唇の感触の後で、榊の身体がのけぞった。途端、今まで打ちこまれつづけていた熱いものから、勢いよく精が注がれる感触!
―――――――っ!!
「はっ、はっ。――は、あ。はあ」
一瞬真っ白になって、身体がびくびくってして、それから、自分が荒い息をしてるんだなぁ、ってことが、ゆっくりと分かってきた。
「――トモ」
「――ん」
優しいキスをして、ああ、榊もすっごくイっちゃったんだなあ、って分かった。お腹の中で、まだ榊のがひくひくしてる。それでも榊が腰を引こうとするから、らーめ、って言って、足で腰を抑えこんだ。
「ほんとに小さくなっちゃうまで、ずっとこうしてるの」
それからしばらく、二人でキス。小さくなった榊のを引きぬいて、お口できれいにしてると、榊が僕の身体をひっくりかえして、まだ固い僕のペニスに舌を這わせた。もう制服は汗でぐしょぐしょで、胸元なんて乳首の形が透けて見えて。
「ねえ、滝野サン――」
「何? 榊サン」
「お願いがあるんだけれど」
「何? 」
「俺の、女の子のところ、舐めて
この、固いので、後ろから、犯してぇ――」
犬みたいに四つんばいになって、伏せする榊。ミニスカートがまくれて、いやらしいお尻が丸出しになっていて。そこの女の子のところは、確かに潤んでいて。
トロン、とした目のまま、僕は榊の後ろに舌を這わせた。
とっくにストーブは止めている。
だって、二人の温度で、すごくこの部屋、熱い。
*