104 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【1】[sage] :2005/09/22(木) 19:21:03 ID:OBPFMlNU

 思春期の男の子なんて、いつもいつもエロいことを考えているもんだなんて話を聞いたことがある。
 確かにそれは間違っていないかも。何より僕みたいに変わった体を持っていると、余計にそんなところはあるかもしれない。
 でもさ、だからって言って本当にいつもいつもってわけじゃない。普段はきちんと高校生活なんてものを営んでいたりするんだ。このやりすぎのTOO MOREこと、滝野智(たきの さとし)が言うんだから、間違いない!
 特に楽しそうな学校行事なんかは、とりわけ気合が入るってもんよ!

 文化祭。

 体育祭で大活躍した我が一年三組は、ノリにノってこの学校行事にも挑もうとしていた。
「いやいやいや、ついに完成しましたなあ」
 僕の言葉に、集まっていたみんながうなづいた。予定通りですね、とうれしそうなのは美浜千代。
「早朝登校して作っていたカイがありました」
「これで後は展示するだけだね」
 カオリンが笑って付け加えた。カオリンは天文部の手伝いもあるはずなのに、はりきってクラスの手伝いに参加している。
 そして出来あがったのが、この大きな棚だ。
 教室の後ろのスペースを埋め尽くさんばかりに作られた棚は、一週間の早朝を通い詰めた努力の結晶である。ここに展示物を飾ることが、クラス発表のメインである。
「でも、こんなに簡単に棚が組みあがるんだったら、別に明日の準備の日に組んじゃってもよかったよなー」
「バカだろ、お前」
 呆れたように僕に突込みを入れてくるのは、本読みのヨミこと水原暦(みずはら れき)。
「明日組んだら、その間借りてきた展示品どこに置くんだよ。それにまだ個人作業も残ってるだろ」
「わかってるって、もう。ヨミったら。言ってみただけじゃないかぁ」
 そう言いながら僕は、ヨミの胸元に頭をぐりぐり押付けた。黒い詰襟の制服の下に、たくましいヨミの胸板の感触。それはあっけなく、ぐい、と脇に追いやられた。うぬぬ、このやろう! せっかくの人のスキンシップを!!
「女子の方も順調だって大山さんが言ってたし、このままだと明日は純粋に仕上げにかかれそうだ。――って、やめろ、トモ、何暴れてるんだよ!! 」
 押さえ込もうとするヨミに対抗するべく、じたばたしながら僕は言い返す。
「うるさーい!! このヨミぃ!! オレがどれだけ偉大な役割をしたか、ちっとも分かってないだろ!! 」
「何言ってんだ! 」
 お前何もしてねーだろ!! 予想した通りの答えが返ってきたので、僕はじたばたするのを止めて、人差し指を、ちちち、と左右に振った。
「甘いな、ヨミ君」
「何い? 」


 

105 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【2】[sage] :2005/09/22(木) 19:21:40 ID:OBPFMlNU

「オレが何もしなかったおかげで、この棚は予定通り完成したのだ!! もしTOO MOREのおれが余計なことをしていたら、きっとやりすぎていたに違いない!! 」
「あー、そりゃ大活躍だ」
「それだけじゃありませんよ」
 僕とヨミとの腐れ縁漫才の最中に、千代がぽっと割り込んできた。男の癖に、家訓で結っているというトレードマークのおさげが、ふわんと揺れた。
「あの滝野さえ早朝登校しているってことで、女子も男子も積極的に協力してるんですから、トモちゃんは存在しているだけで価値があります」
「わっはっは! その通り!! 誰だって存在しているだけで価値がある!! 」
「……それでいいのか、お前」
「僕はもう少し考えた方がいいと思う」
 ヨミとカオリンが真顔で言う。いや、ほらさ、別にきちんとやることあるじゃん、オレ。
「やること? 」
「ほら、陳列物を借りてくるの」
 ああ、とヨミが声を出す。そりゃ確かに重要だ、と。

 僕らのクラスの出し物は、ぬいぐるみ展覧会。喫茶店とお化け屋敷っていう提案が、担任の谷崎から駄目出しされて、目安箱設置で出てきた意見である。投書はたった一つだけだったけど、この提案が思った以上にクラスで、ウケた。
「全校生徒からぬいぐるみを集めるのって、どうだろ? 」
「もしかしたらアンティークドールとかも集まるかも! 」
「あ、あたしユーフォーキャッチャーで取ったぬいぐるみ持ってる! 」
 そんなやりとりの後、全学年の全クラスに、協力者求むのビラが配られたわけ。

――あなたの家のぬいぐるみさん達に
  お友達をたくさんつくってみませんか? ――

 このビラも好評! そのビラのコピーを作ったのが――。
「へへへ、ボクは、目安箱の文章をまとめただけやー」
「いやいや、大阪はずっとがんばってたからな」
「もう、ヨミちゃん、そんなに誉めんといて」
 ヨミに頭を撫でられて、幸せそうに大阪が笑った。天然ボケの固まりみたいな大阪は、一日ずっとそのことに没頭して(たまに居眠りしながら)ようやくこのコピーをひねり出したのだ。それは誉められれば、確かに嬉しくなるだろう。
「あの文章は、誰が考えたものなんやろなー」
 榊ちゃん、どう思う?
 大阪が僕に向かって声をかける。
 でも、もちろん僕は榊じゃない。


 

106 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【3】[sage] :2005/09/22(木) 19:22:14 ID:OBPFMlNU

大阪の視線だって、僕より頭一つ上の辺りに向かって投げかけられていて――。
「誰だろうね」
 抑揚のない声が僕の後ろから聞こえてきたから、おもわずふりかえると、そこに。
 榊が立っていた。
 高い身長に、さらさらで腰のあるストレートヘア。切れ長な目が似合う、シャープな顔立ち。運動神経抜群で、頭脳明晰で。――そして、僕と同じ秘密を持っている男。
 ――男?
 ……まあ、それは置いておいて。
 普段は平気だけれど、この美形が気配もなく突然真後ろに立っていたら、誰だってビビる。僕もその例外ではなく、辛うじて動揺を隠して。
「おはよう」
 って言うのが精一杯。そんな僕を押しのけて、カオリンが榊の前に飛び出した。
「さ、ささささかきさん! おはようございます!! 」
「おはよう。ごめん、遅れちゃって」
 これまとめてて遅くなった、と学生鞄の中から一冊のノートを取り出して、カオリンに渡す。
「ああ、展示物一覧ですね。きれいにまとまっています」
 横から覗きこむと、丁寧できれいにまとまった、人形の貸出人の名前、クラス、大体の大きさがきれいに表になっている。やがてそのノートは、へえ、これはこれは、何て言われながら、周りの仲間達に回されていった。
 その間も、カオリンの榊への賛辞は止まらない。カオリンは男の癖に、榊への愛情表現を隠そうとしない。もしかしたら本人は隠しているつもりかもしれないけれど、周囲から見たらばればれだ。
 そりゃ榊はかっこいいし、何でも出来るけどさ――。だからってそのはしゃぎ方は、何かなあ、って思う。お前は榊の何をわかっているんだよって――。
 ん。
 何考えてるんだ、僕は。
「さすが榊さんですね! 尊敬します!! 」
「ありがとう」
「榊さん、ぬいぐるみなんて女の子っぽいものに興味なんてないはずなのに――。仕事には決して手を抜かない! 僕も榊さんを見習いたいです! 」
 こらこら。ってことは、カオリンは仕事で手を抜きまくってるってことか? 思わずそんな毒舌が喉元までこみ上げてくる。どうしてかわかんないけど、胸の奥からムカムカが湧き上がってきてしまう。
 榊に話し掛けて、楽しそうなカオリン。
 その姿を見てるだけで、胸が苦しくなってくる。
 そんな僕の気持ちなんか気づくこともなく、カオリンは一向にしゃべるのを止めない。ノートを見終わったみんなも、カオリンの話題に参加し始めた。
「そやったら、男の子で、誰が似合うん? 」
「例えば、大阪。あんたなら似合うって言ってもいいんじゃん? 」
 女の子みたいな顔して、男っぽくないし。そう言われて、うわー、と大阪が大きな声を出す。
「僕かて、榊ちゃんみたいな、男の大人を目指しとるんよ? 」
「――大阪、それを言うなら、大人の男じゃないか? 」


 

107 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【4】[sage] :2005/09/22(木) 19:22:57 ID:OBPFMlNU

「あ、ヨミちゃんありがとう、確かにそうやんな、大人の男、大人の男――」
 ぶつぶつ呟く大阪を尻目に、後は千代ちゃんとか、とカオリン。
「なぜですか? 」
「だって、やっぱり小さいじゃない? 本当は千代ちゃん、小学生だし。ぬいぐるみとたわむれる男の子って絵は、中々そそるんだよ」
「はあ、そんなものですか」
「でも、榊さんみたいな大人の男の人は、やっぱりついていけないですよね? 」
「――そんなこと、ないんじゃないかな」
 僕の言葉がカオリンの声を遮ったから、周囲がぱっと僕を見た。
「似合うとか似合わないとかよりさ、好きって気持ちの方が重要だと思う。だからオレは、この投書をした人が男だったとしても、驚かないよ」
「え? トモ、男がした投書だったら、ちょっと引かない? 」ってカオリン。
 僕だってそう思う。男が人形なんて似合わないよ。だからきっとこれはムキになって言ってるだけ。ムキになってるって、何に? その理由を突き止めたくなくて、僕は無理矢理言葉をつなげる。
「引かれても好きだから、それには理由なんてないじゃん。それとも今回の展示って、キモいとか思いながらやるの? それはさ、なんか違うんじゃない?
 第一、男が人形似合わないって理論は、さっきの話を聞いてたら、見た目の問題じゃん。世の中には、色んな人がいるんだよ? 男の肉体で女性のハートを持っている人とか、女の肉体で男性のハートを持っている人とか――」
 その両方を持っている人とか、って言いかけて、その言葉を飲みこむ。おっと危ない。TOO MORE、TOO MORE! だからちょっと矛先を変えてみる。
「それとか、男なのに男のことが好きな人だっているしね」って。
 カオリンに向けて放った皮肉なのに、何故か全く想像から外れた奴が極端に反応する。
「そ、そそそそうだよ! 好きになった人の性別が関係ないみたいに、ぬいぐるみ好きな男もいるよな? な? 」
「……ヨミ、何慌ててんの? 」
 顔を真っ赤にした竹馬の友に、クエスチョンマークを投げかけると、ヨミはあからさまに反省した顔をして僕を見た。ごめん、おまえを気遣うのすっかり忘れてたって顔で。
 僕の隠された性別を思い出したのだろう。全く、気にし過ぎだって言うの!! これだから何でも知ってる幼馴染ってのは困る。
 なんとなく周囲に変な雰囲気が立ちこめた瞬間、HR開始のベルが鳴った。それと同時に、さっきまでのもやもやがなかったみたいに、みんな一斉に席に着く。珍しくHRに遅れて来なかった谷崎先生が。
「お、棚、出来たな」
 と言って、クラスが爆笑した。
 理由がわかった先生は、顔を真っ赤にして。
「ばかやろー! 俺はそんなセンスないギャグいわねーぞ!! 」
 いやいや、しょうがないじゃないですか。
 たまたまツボに入ったんですって。


                                *

 

108 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【5】[sage] :2005/09/22(木) 19:24:16 ID:OBPFMlNU

 昼休みに朝のことを思い出しながら裏庭を歩いてみる。
 11月ともなれば、そこらいったいは枯葉の海になっている。掃除をしても掃除をしても、ここいらはすぐに枯葉がたまってしまう。
 住宅地に隣接して立てられているとはいえ、学校に緑は豊富だ。容易に外から中が伺えないような工夫なのだと、過去に誰かから聞いたことがある。
「さむ……! 」
 今日はうすぼんやり曇っていて、風が冷たい。明日辺りから晴れ間が混じって、明後日には晴れるそうな。文化祭の支度をこの昼休みから本格的に始めたクラスも多いようで、わざわざ裏庭になんかくる物好きはいない。一人になるにはもってこいの場所だった。
「男なのに、男を好きになる人、か――」
 さっきから考えているのは、そのことである。カオリンに当てつけて言ったつもりの言葉だったけど(結果としては無関係のヨミを慌てさせるに留まったのだが)もしかしてそれは自分の本音だったんじゃないか、って思ってしまったから。
「僕は、榊が、好きなのかなあ」
 そう思うと、ぼんやりと胸の奥が熱くなってくる。同時に股間も。
 ヤバ。
 ここで前かがみになるのは、誰の目がなかったとしてもかっこわるいから、側の木にもたれかかるふりをして、勃起したアソコが痛まないように調節した。木の皮のにおいがする。そのまま木の幹をぎゅっと抱きしめてみる。
「――抱きしめたいなあ」
 呟いた本音。強く瞼を閉じた。
 もうあれから二ヶ月半経つんだなあ。そう思ったら、抱きしめずにはいられなかった。他の人から見たら、バカみたいだよね。こんなの。でもそうしたいからそうなっちゃうってこと、この年齢にはよくあることなのだ。
 二ヶ月半前。

 ――僕は榊と、セックスしたんだ。

 犯して欲しい。
 お腹の裏側まで、榊のオチンチンで。
 欲情が満ち溢れて、タマタマまできゅうって締めつけられるような破裂しそうな、矛盾した感触。カチカチになった自分のペニスの感覚。
 榊――。
 その鍛えられた、けれど形のいい身体が、汗をたらたらさせながら動くたびに、僕の筋肉の到る所が、カタカタ反応する。
 お腹なんか撫でられると。
「あぁン」
 なんて甘い声が出る。
 泣きそうになる。

 榊の舌。よだれでトロトロ。唇でオチンチン、なぶる。
 腰、ひくん、てなる。
 下から、横向きに、ぱくんって咥えられるのも、好きぃ。
 本当はカリの部分が感じるけれど、そのもどかしさと、舐めしゃぶる榊のエッチ臭い顔が好き。


 

109 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【6】[sage] :2005/09/22(木) 19:24:52 ID:OBPFMlNU

 舐めるのも好き。大好き。
「くっ」
 って、榊、言うの。
 お口に一杯で、入りきらないよ。榊のペニス。
 熱くて、大きくて……。

「あはぁ……」
 ――ん。
 いけないいけない。よだれ垂れてきちゃった。
 気がつけば、木に向かって腰をひくひくさせちゃってた。バカだろ、それ――。赤面しながら、急いで木から離れる。けれど外の寒さも、ぽかぽかして何とか乗りきれそうだから、フィフティフィフティってことで、よしにしておこう。うん!
 僕と榊の秘密――。
 それは二人が、両性具有だってこと。いわゆる、ふたなりってやつだ。男のものも、女のものもついている、奇形の身体。
 ひょんなことでお互いそれを知って、ノリみたいにセックスしちゃって――。でもそれだけ。だってお互い男同士だし、男同士で恋人になんかなれないし。性別が同じってだけじゃなくて、何だか罪悪感が付きまとって離れない。
 だって、何か、手ごろなところで間に合わせたって言うか。榊は運動神経もプロポーションも完璧で、しかも超美形! 誰だって、いい身体してるって思うはず。でもそれにくらべてこの僕は――。
 元気なら誰にも負けない自身があるけど、容姿だってプロポーションだって人並みだと思う。ヨミはなんだかんだ言って、眼鏡だけど整った顔立ちをしている。ヨミが何人もの女の子に告白されて断ったのを、僕は知っている。あいつは僕に隠しているけどさ。
 僕は、男か女かよくわかんないって言われる。僕もそう思う。どちらかと言えば、男の子って感じ。でも前に街を歩いていたら、女の子に間違えられた。しかも中学校の――。だから単に、がきっぽい顔ってことなのかもしれない。
 悔しいなあ。
 榊と並んでも、全然釣り合いそうにないや。
 でもそう考えていると、まるで自分が榊の恋人になりたいみたいで、やっぱり嫌な気持ちになる。だって僕も榊も、男として生活していて、男同士で。なのに、なのに――。
 僕は榊の男の部分が、欲しい。
 そんなことを考えて歩いていて、僕はぎょっとして立ち止まった。
 目の前に、榊がいたからだ。



110 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【7】[sage] :2005/09/22(木) 19:25:21 ID:OBPFMlNU

目の前に居たと言っても、榊は僕の方を向いていたわけではない。しゃがんで木々の間にじっと視線を注いでいただけだ。そのままじっと動かない。その姿を見て、僕も動けなくなった。
 感じるのは、殺気。
 この秋の風よりも冷たく凄みのある空気が、榊の周りに集まっているのが判る。例えるなら、真冬の風だ。触れたら身体を切り裂かれそうな、そんな空気。瞬間、それが膨れ上がって、カサカサって言う何かが動く音とともに、消えた。
「ど、どうしたの――? 榊ちゃん」
「あ、滝野君」
 呼びかけに答えた榊は、もういつも通りの顔をして、すっくと立ち上がる。
「――何でもないよ」
「考え事? 」
「まあ、そんなとこ」
 あんな顔をして考えることって、一体何だろう? それに悩むより先に、尋ねなきゃいけないことを思い出した。
「あ、あの、いつからここにいるの? 」
 僕の質問に怪訝な顔をして、昼休み始まってからかな、と榊が答えた。よかった――ってことは、僕が木に腰をこすりつけているって変態的な仕草は見られてなかったって事だ。
 あれ? じゃあ、ご飯食べてないの? ううん、今日はパンだから、ここで軽く食べた。へえ、そうなんだ。
「……」
「……」
 それからお互い黙った。きっと二人一緒に、目を反らしたんだと思う。何か言いたいんだけど、言えない。そんな雰囲気。考えたら、こうやって二人っきりになったのは、あの別荘以来かもしれない。だから。
「体育祭、榊ちゃんすごかったねー」
 と、わざと別荘のことを反らして口にした。本当は一番その話をしたいのに、だからなおさらなんだけど。
「トモも、はりきってたね」
 榊がにこっと笑って言ったから、僕の心臓がドキってした。――見てたんだ、榊、僕のこと――。
「わはは、そーだろ? そーだろー!? 」
 トモって呼ばれた心臓のドキドキをごまかすために、榊の身体をバンバン叩く。ばしばし、照れ隠しの右手が、突然宙で止まった。
「痛いよ」
 榊が、僕の手を握ったからだった。行く事も戻る事もできない、僕の右手。宙ぶらりん。
僕の気持ちみたいに。
 そのかわり榊の息がかかるくらい近くに、僕は側にいた。
「さ、かき、もしかして」
「ん? 」
「気にしてる? あの、別荘のこと」
「気にしてるのは、トモの方でしょ」
 ふって手が軽くなって、榊が手を離したのが分かった。それが何だか突き放されたみたいな気がして、寂しい気持ちになる。


 

111 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【8】[sage] :2005/09/22(木) 19:26:03 ID:OBPFMlNU

「もしかして、榊、僕のこと怒ってる? 」
「怒ってないよ」
「じゃあ何でさっきまで怖い顔してたの? 」
「……滝野君には関係ないよ」
 どうせ俺には届かないものだからさ。
 小さな声で、吐き捨てるみたいに出た榊の独り言を、僕はしっかり聞いてしまった。もしかしたら、それは空耳かもしれないけど、それくらい小さな声だったけれど、聞こえてしまった以上聞かなかったふりなんて出来ない言葉だったから。
 きっと榊はきょとんとしているだろうと思う。
 それを僕が見れないのは、僕が榊を抱きしめているから。
「どうして? 」
 聞こえてきた榊の声からも、榊がきょとんってしてるのが分かった。でも、だからこそ、僕はこの両手が離せなかった。手を離したら、榊が逃げて行きそうで。
「関係なくなんか、ないよ」
 精一杯出せた声が、それだけ。11月の木々のにおいが、榊のにおいに混じった。風が吹いた。でも僕も榊も、今は寒くない。大きく呼吸して、もう一度、口に出す。
「届くよ。絶対」
「――トモ」
 そっと僕の頭に、柔らかい何かが触れた。それはきっと榊の手なんだろう。いたいよ、って声が聞こえた。強く、抱きしめすぎたのかもしれない。力をゆるめる。それでも榊は逃げなかった。
 今、榊の胸元には、硬くさらしが巻かれているに違いない。榊の胸は、女の子みたいな膨らみがある。きつめのスポーツブラの下に、巻かれたさらし。そのスポーツブラを隠すための厚手のシャツ。
 その方が、ペニスを隠すより楽なんだって、榊は言っていた。発育のよくない女の子みたいな身体をしている僕なんかより、榊は自分の身体の特徴を隠すのに苦労しているんだ。僕にはその苦労が、榊ほどには分からない。
 それと同じで、僕は、榊が言っていた、届かないものが一体何かなんて分からない。榊が、関係ないって言っているのは、きっと本当に僕には関係ないものなんだと思う。それでも、僕はやっぱりがまんできなかった。だって榊は。
「僕達、友達だろ? 」
「ともだち? 」
「うん、ヨミも、大阪も、千代も、カオリンも、みんな榊の友達だろ? 」
 僕の言葉にようやく榊が、ああ、そうかも、って言った。だから。
「そうかも、じゃなくて、友達なの! 」
「――そうなのか」
 言いきった僕に、榊が笑った。顔を上げると、素直に笑顔を浮かべている榊がいて、また伏せてしまった。赤面しちゃったからだ。
「トモはいいね」
「なんでよ」
「素直で、元気で、いいよ」
「単純で、バカってことじゃないのか!? 」
 榊の誉め言葉に照れて、顔が上げられない僕に、榊は。
「ねえ、さとしって呼んでもいい? 」
 なんて、見当違いのことを言ってくる。

「――ポケモンマスターみたいだからヤダ」
「そ、そうか」

 それからしばらく抱き合って、何事もないみたいに一緒にクラスに帰った。いくら思春期の、ヤリたい盛りの男の子だって、昼休みにしちゃうような事は早々ない。何より、榊とは友達だしね。
 でも。

「うぅぅ……、はぁっ! はぁ――ああ」

 家に帰ってから、もう禁断じゃなくなっちゃった、禁断の一人エッチにずっぷり漬かるはめになっちゃうんだけど。

「奥ぅ……! もっと、えぐって、よお」

 ほんとにTOO MOREなんだから。オレは……。
 ――バカになりそう。


 ……やりすぎで。

 

112 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【9】[sage] :2005/09/22(木) 19:27:10 ID:OBPFMlNU
                              *


「おはようございまーす! 1年3組の者でーす! お友達を受け取りに参りました!! 」
 最上級生のクラスでも、臆せず突っ込めるのが僕のいいところだと思う。早朝の、まだHRも始まっていない時間だけど、今日は本番一日前の、準備の日。クラスメンバーのほとんどがそろっているだろうと言う、千代の読みは見事にあたった。
「ああ、ごめん、ちょっと待ってね」
 眼鏡をかけた女の人が、立ちあがって、大きな包みを持って僕のところにやって来た。
「お待たせしました」
 彼女が持ってきたのは、一メートル近くある、紅い服を着た陶磁の男の子のお人形。袋に入っているのは身体だけで、頭はちょこんと外に覗いている。見るからに高価そうなドールだ。
「ほら、お兄さん達が迎えに来ましたよ。いい子でいるんだよー」
 廊下に出て人形に言い聞かせると、はい、と一緒に来ていた榊に人形の入った袋を手渡した。僕がお礼を言う前に、榊が、名前は? と尋ねた。
「トゥーレって言うのよ」
「トゥーレ……いい名前ですね」
「ありがとう」
 この子が自分で名乗ったから、いい名前なのよ。他にもお友達いるんですか? ええ、誰が行くかでその子達、昨日まで大喧嘩してたんだから。
 人形が喧嘩?
 そんなバカな、って僕なんかは思うけれど、榊は当然みたいな口ぶりで話をしている。水を得た魚みたいで、ちょっとムッとする。そんな僕の顔を見て、彼女はにっこり笑って。
「ごめんなさいね、長話しちゃって」
 と言った。変な人に見えるわよね、人形とおしゃべりしてるなんて。
「変ですね」
 きっぱり言い返すと、彼女はころころ笑って、素直なのはいいわね、だって。うう、大人の余裕だ。その上。
「私もね、中学校の頃、そう言ってからかわれたことがあるのよ。それで一時期登校拒否になったことがある」
 なんてさらりと言われたら、それ以上突っ込めないじゃないか! あらやだ、驚かせるために言ったわけじゃないわよ、なんて、それは無いですよオネエサマ。
「好きなものは好きなんだから、好きって言えばよかったのにね。だって、私にとってこの子達は、ただの人形じゃないの」
「人間以上ってことですか? 」
 僕の質問に彼女はまた豪快に笑う。
「嫌だわ、人形は人形よ。ただ、好きって気持ちは偽れないってことを教えてくれた、――そうね――仲間みたいな人形ね」
 クラスに配られたビラのコピーが、本当に人形好きな人の書いた物だって分かったから、この人形を貸し出す気になったんだって。
「だからあなた達も、好きなものは好きって言える勇気を持たなきゃ駄目よ」
 言われて思わず榊と、お互い顔を見合わせた。そんな僕らに、にんまり笑って彼女は、がんばってね、うちのクラスに、あなた達のファンって多いのよ、なんて言った。
「え? 」
「二人とも、体育祭ですごく目立ってたじゃない。あなたは運動能力で、あなたははしゃぎっぷりで」
 楽しませてもらったよ、なんて言われて、ぽかんとしている榊を尻目に、僕は思わず。ぜひ見に来てくださいね、なんて声をかけていた。
「我ら二人が魅惑的な姿でお迎えいたしますから! 」
「魅惑的な姿? 」
「そう! なんと人形展覧会と一緒に……」
「トモ! 」
 榊に肩を掴まれて、ふとやりすぎになりそうな自分に気がついた。あぶないあぶない。そんな僕らの様子を見て、彼女は。
「なんか企みがあるのね」
 とにやりと笑った。
「楽しみにしてるわ、一年生」


                               *

113 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【10】[sage] :2005/09/22(木) 19:27:57 ID:OBPFMlNU

 ぬいぐるみ・人形展覧会『おとぎの組』。
 それに隠されたもう一つの企画、それは――。
「うわ! 大阪、似合う」
「えー? ほんま? そら困ったわ」
 夏服に着替えさせられた大阪が、ほんのりと頬を染めて言った。
 夏服は夏服でも、女子の制服である。
「いいでしょ? これ」
 大山さんが、にやりと笑った。彼女は前クラス委員長である。一学期の頃、眼鏡が委員長の特徴なんて言われて、強引にクラス委員にさせられたのだ。
 それにしても、なんかこんな笑顔をさっき見た気がする。それとも女の子って言うのは、みんなこんなふうに笑うんだろうか? 僕のささやかな疑問は置いておいて、大山さんは話しつづける。
「どうせうちは棚を作るだけだから、何着かなんちゃって制服を作るだけの布地は手に入れられたからね」
「でも何で夏服なんだよ」
「冬服を作れるだけの、なでしこ色の布は手にはいらなんだ。その代わり、青は安く買えた。5、6人の制服ならなんとか、ね」
 かわいいぬいぐるみを飾るだけだったら、いまいちパンチに欠ける、と女子組みが提案したのが、クラスの有志を女装させる、と言うものだった。勢いで通ったクラス企画。どうせ着るのは大阪だろう、と無責任に賛成した結果。
「なんでオレ達も着なきゃなんないんだよ」
「え? まさか滝野君は、大阪君にだけ女装させようと思ってたん? そんなん無理無理」
 ファンの多い二人にもがんばってもらわなくっちゃ、なんてこれまたどこかで聞いたような事を。
「それ、マジ? 」
 榊ちゃんならわかるけどさ、と言った僕に、大山はマジもマジ、大マジ、と断言。
「なんか小動物みたいって意見が多いのよ。かわいいって、猿みたいで」
「さ、猿!? 」
「うんうん、トモにはぴったりの言葉だな」
「何言ってるの、ヨミ。あなたも着るのよ、制服」
 そのために持ってきたんだから、かつら。
 はい、とかつらを渡されて、硬直するヨミ。おーおー、いい気味だ。
「な、なんで俺が」
「あ? 私の、趣味。あ、千代ちゃんも着てみてね。後は榊さんと、はい、カオリン」
 戸惑っていたみんなも、大山の迫力に押されるままに用意された制服を身につけていく。でも僕と榊は、身につけることができない。だってこれは、男の人を意識して作った制服のはずだから。
「あれ? なんで二人とも着替えないの? 」
 真っ先に僕が着替え始めると思ったらしい大山さんは、意外そうな顔で僕を見る。
「ん? いや、僕と榊ちゃんは、後で自分達で直すから」
「何言ってるの? 今ここで着てもらって、私達が直すのよ。さてはこれ着るのが嫌で、逃げようって言うんじゃないでしょうね? 」
「ち、違うよ。オレはちょっと事情があって――。榊ちゃんには、いたずらしてみたいなって言うのがあってさ」
「いたずら? 」
 大山さんとヨミの声が、同時にはもる。仲いいな、眼鏡二人。
「そー! それでいいよな? 榊ちゃん! 」
 僕の言葉にハテナ顔で榊がうなづく。トモって、縫い物なんて出来たっけ? と首をかしげる大山さんに、ヨミが、こいつそういうのは器用なんだ、と言った後、僕の側に近づいてきた。
 ドキ。
 何か気づかれた気がして、思わず息を呑む。
「――榊にあんまり迷惑かけんなよ」
 あきれたみたいなヨミの声に、僕はほっと安堵の息をつく。
 あれ? なんでほっとしてるんだろう?
 その疑問は、着替え終わったカオリンの第一声であっと言う間に消えうせた。
「――明日は、ブリーフの方がいいみたいだね」
 とってもぎりぎりな仕立てのミニスカート。そこのふちからはみ出るみたいなトランクス。
「あと、肌色のパンストも用意しなくちゃね」
 大山さんがため息混じりに言った。
 目立ち過ぎだわ、そのすね毛。


                             *

114 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【11】[sage] :2005/09/22(木) 19:28:47 ID:OBPFMlNU

「ただいまー」
 玄関を上がって明かりをつけると、振りかえって、いいよ入って、と言った。
「お、おじゃまします」
 そろりそろりと大きな身体をくぐらせて、榊が入ってきた。玄関にある空っぽの犬小屋を見たんだろう。榊が。
「犬、飼ってるの? 」と尋ねた。
「うん。でも今は叔父さんのところにいる。文化祭でばたばたするからって言って、預かってもらったんだ」
 とりあえずどうぞどうぞって招き入れて、そのまま二階の部屋につれていく。ヨミが時々ここに来るときには、みしみし勢いよく階段を上がるけど、榊は慎重に慎重に階段を上っている。緊張しているみたいだ。
「何びくびくしてるの? 」
「いや、寄り道なんて、そんなに、したことないから――」
「大丈夫だって、赤頭巾ちゃんじゃないんだから」
 悪い狼サンに食べられることなんてないって言って笑いながら、二階の突き当たりの部屋に榊を通す。
 ひんやりとした空気。見なれた僕の部屋。最近の寒さに堪えて出したストーブ、壁にかかった大きな姿見と本棚、それから勉強机が明かりをつけると見える。とりあえず僕は置いてあったストーブの火をつけた。かちかちかちって音を立てた後、石油ストーブが、ボッて言った。
「とりあえず、ここが僕の部屋」
「意外と、片付いているんだね」
「ん? いや、だって家のことしないと、親一人子一人の生活だからね」
「え? 」
「父さんは小さい頃死んじゃったんだ。母さんは今日は出張で帰ってこないし。きちんとしておかないと、すごい怒られるんだよ」
 僕にとってはしごく当たり前のことだったんだけれど、榊はびっくりした顔をしてこっちを見ている。
「ああ、ごめんね。びっくりさせようと思って言ったわけじゃなかったんだ」
 とは言ってみたものの、確かに言われた方はぎょっとするだろうな。なんかこんなやりとりをこの前したような気がする。どこでだろう。
「とりあえず、お茶入れるね。その間に、着替えて見せてよ」
 余計なことを言ったって焦りから、僕は榊を置いて、下の階の台所に向かった。とりあえず軽くお腹に何か入れて、それから一仕事だ、なんて思いながら。
 だから密室で、榊と二人きりなんてことには、一向に気がつかなかった。だって、これから制服を縫い直すことで頭が一杯だったから――。
 二人きり。
 二人きり?
 そう、今家の中で二人きりになっているんだったのだ。

「家のことさえやっていたら放任主義だから、それほど苦労もしてないんだよ」
「ふーん、うらやましいな」
 ちくちくちくちく。
「この身体はお母さんの遺伝でさ。お父さんは小学校のころ、病気で死んじゃって」
「それでお母さん働いているんだ」
 ちくちくちくちく。
「オナニーのときさ」
「ん? 」
「アレ以来、あそこでするのが癖になっちゃいました」
「うんうん」
 ちくちくちくちくちくちくちくちく。
 クッキーと紅茶をお腹に収めてから、僕と榊は制服の縫い直しに励んでいる。やっぱり微妙な調整をしないと、肩幅とか胸元とかがおかしな具合になってしまうのだ。
 僕みたいなほとんど胸の出てないのはいいけど、きちんと胸がある榊みたいなのは、辛いかもしれない。と言うより、せっかく女の子向けの服を着るんだから、榊に女の子として服を着て欲しいなって思ったんだ。窮屈なさらしで巻くこと無しに。
「大丈夫かな? 」
「大丈夫だよ、胸を剥き出しにすることはないんだから」
 榊は始めのうちは赤面したけど、でも結局はうなづいて僕の提案に乗ってきた。それから二人でちくちくちくちく。時折ストーブの上に置かれた薬缶のお湯でお茶を飲んで、ペットボトルに汲んでおいた水を中に注いだ。
 ようやく作業が終わったのは、夜も9時を過ぎてからだ。大きく二人で伸びをして。
「それじゃあ、着てみますか」
 すっぽりパンツ一枚になって、着心地を試す。
「うんうん、中々中々♪ 」
 緩やかに作った胸元もぴったり。
「ただちょっと、股間がすーすーするね」
 そう言って微笑んで見せて、驚いた。そりゃ、布の具合なんかからいって、胸元の盛り上がりを考えたらそうなることは薄々予想できてたけれど――。
「うん――。
 すーすーする」


 

115 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【12】[sage] :2005/09/22(木) 19:29:22 ID:OBPFMlNU

と言って赤面している榊は、上に着た布地が胸の厚みに盛り上がって、すらりとしたお腹と形のいいおへそを剥き出しにしてしまっていた。
 こうやって女性の格好をさせてみると、本当に女性に見えてしまうのが、榊のすごいところだ。さっきまで黒い詰襟の制服を着ていたときは、かっこいい男にしか見えなかったのに。
「い、いいんじゃない? 榊はファンが多いらしいし」
 ふと、心の中で何かがぐるぐる渦巻き出して、思わず言葉が出ちゃう。榊から背を向けて。明るい調子で。
「その、チラリズムって言うの? 微エロって言うの? きっとそれでまたファンが出来るだろうしさ。
 ね? 榊だったら、エッチしたいって人、きっとたくさんいるよ」
 何を言ってるんだろう、突然?
 不意に今朝会った三年生の人の言葉がよみがえる。好きだったら好きって、素直に。
 でも出来ないよ、そんなこと。
 だって、僕も榊も、男だし。
 榊はかっこよくて、きれいで、運動神経抜群で。僕なんか、目立ってたって言っても、猿なんだし。そんなの、榊が。
 好きって言ってくれるはずがない。
「ね、榊、入れたい方? 入れられたい方? 」
「どっちも――」
 榊の言葉に、今度は目の前が真っ暗になる。
 そっかー、そうだよね。複数か。さすが榊ちゃんだ。
 ははは、って思わず笑いが出て。
 そしたら、ぐっ、て肩を掴まれて振りかえらされて。
「どっちも」
 低いいい声がして。

「あ」

 榊に、キスされた。

 すっぽり腕の中に抱かれてる。
「だめだよ」
「どうして」
「本気になっちゃうよ」
「なっちゃだめなの? 」
「だって僕たち、男の子だよ」
「今だけならいいんじゃない」
「どうして」
「だって今二人とも――」

 女の子じゃないか。

 青い制服。夏の制服。
 つい数ヶ月前に見たばかりの空みたいな、青い制服。
「ふふふ」
「トモ? 」
「榊ちゃんのその提案、乗った! 」
 抱き着いて、今度は僕の方からキスをする。腰に、榊ちゃんの勃起したペニスの固さを感じる。たまらず僕も、布越しにオチンチンをすりつけた。
「榊ちゃん、かわいい」
「――え? 」
「本当に、女の子みたい」
 キスの雨を降らせながら、僕は榊の身体に手を伸ばす。そっと耳を噛むと、くひゃん、てかわいい声で、榊が鳴いた。くぅ――――っ! かわいい! かわいいかわいい。連呼したら、榊が、恥ずかしいよって言うから、なおさら興奮した。
「だって本当にかわいいんだもん、さかき」
「――ぇ? 」
「かわいいもんをかわいいって言わないのは、重大な罪なんだぞ!! わかる? 榊サン――」
 言葉だけで、榊が喘いだのが分かった。そっと薄手の偽制服の上から胸を撫でると、はー、はー、と呼吸がより深く早くなってきた。ふふふ。何か悪い狼サンになった気分。ほら、榊ちゃん、寄り道をしたら食べられちゃうんだよ?
「榊サン、学校中の男の子が、榊さんの身体、犯したいって思ってるのよ」

 

116 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【13】[sage] :2005/09/22(木) 19:30:17 ID:OBPFMlNU

「いやあ」
「ブルマー姿の榊さんを見て、あのおっぱい揉みてえな、とか、おまんこの中にぶちこみてえな、って噂」
 念のために言っておくけれど、榊はブルマなんてはいたことはないと思う。ただ、今二人は女の子だから、ブルマってことにしておいた方が感じが出ると思ったのだ。
「やめ……てぇ――」
 でもこうやって脅える榊は、本当に女の子にしか見えなくて。ねっとりと身体中にキスをしながら、そっと制服の中に手を伸ばす。柔らかいおっぱい。お椀くらいの大きさのおっぱいをゆっくり揉むと、興奮した胸はすっかり固くなっていた。
 捲り上げて、やっぱりねっとり唇をつける。
「は……ひゃん!! 」
「かわいいよ。榊ちゃん」
 ふーっ、ふーって、息が漏れてる榊ちゃん。キスする僕の頭に、覆いかぶせるみたいに手のひらを乗せて、髪を優しく漉きはじめた。
 気持ちいい。
 だから、さわさわさわってさわりながら、太股から下着に手をやって、ブリーフの隙間から指をさしこんだ。
「っ! 」
「榊ちゃんの下のお口は、どうしてこんなに大きいの? 」
「それ、は、トモちゃんが、いじるから――」
 榊ちゃんの女の子のところが、とろりと僕の指を締めつける。ヒクヒクした感触に満足しながら、僕は今度は軽く乳首を噛んだ。
「あァん! ヤン! 」
「榊ちゃんの乳首は、どうしてこんなにとがってるのぉ? 」
「それは、トモちゃんが、いじる、からぁ――はー……はーっ」
 びくん、って榊の身体が跳ねる。にじみ出るみたいな汗。そのまま僕の手は、榊の下着を下ろして、ぶるん、って飛び出してきた固くて大きいものをそっと握る。
「榊ちゃんは女の子なのに、どうしてこんなところが大きくなってるのぉ? 」
 尋ねた途端、不意に視線が逆転した。
 抱きかかえられたみたいな感触。それから、ふわって、床の上に軟着陸している、不思議な感覚。いつのまにか覆い被さっている榊の姿に、僕は目をぱちくりさせる。
 え?
 どういうこと?
 たしかさっきまで、僕は榊のオチンチンを弄っていて、ただ尋ねただけなのに。
 どうしてこんなところが大きくなっているの?

「それはお前を食べちゃうためさ」

 快感に弾む、榊の低い低い声が、さっきの僕の質問に答えた。

「あふぅ――くぅ……」
 それから僕はずっと、もだえてばかりいる。榊ちゃんの舌が、僕の男の子のところと女の子の所を、交互に交互に舐めるから。
「ひぃ! くうん!! 」
 時折、榊の指が、僕のかちかちになった乳首を弾く。そのたびに全身に快感が走ってわけがわからなくなってしまう。
「かわいいよ、トモ」
 身体中をキスしながら這い上がって来て、榊が僕の耳元で囁いた。
「いにゃぁ……、そんなこと、いわない、てぇ――」
「かわいいものをかわいいって言わないのは、罪なんでしょう? 」
「ても、ぼく、かわいくないよ」
 そんなことないよ、トモは、かわいい、かわいいかわいいかわいい。
 かわいいって言うたびに、榊がキスするから、泣きたくなってきて、くうって声が出た。
「トモのブルマみて、みんな犯したいって思ってるよ」
 そう囁かれて、思わず、イヤって声が出た。それを聞いて、含み笑いをしながら、意地悪な声で、榊。
「ほんとだって。トモの勃起した乳首を噛んで、マンコにぶち込みたいって噂してる。学校中の男が、トモとやりたがってるんだよ? 」
「やだ! 」
 そんなのやだやだやだやだ!
 首を激しく左右に振ってじれると、榊が甘い声で。
「どうして? エッチなトモは、みんなに一杯一杯犯されたいんだろう? 」
「……ぁ、だの――。や――たの」
「――? 」
「やたの」
「何が、やなの? 」
「さかきたけに、いっぱい、おかされたいの
 ほかのひとじゃ、ためなの」
 目尻から、ぽろぽろって、涙がこぼれる。
 どうしてなんだろう? 冷静な自分が心のどこかにいて、僕のことをじっとみている。
 どうしてこんなことを言ったのか、分からない。でも涙が出て、涙が出て。
「――入れるよ」


 

117 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【14】[sage] :2005/09/22(木) 19:30:50 ID:OBPFMlNU

少し間があって、榊の声がした。
 たくし上げられるミニスカート。
 下半身が剥き出しになった感触。
 それからお腹の中が一杯になる。
「うぅぅ! くふぅ!! ああ、ああ、アンっ!! 」
 滑らかな榊の身体の動き。腰が打ちつけられるたびに、深く浅く、深く浅く、肉の杭が僕の身体の奥に突き立てられる。
「すごいぃ、これ、すのいのぉ―――」
 汗でぬるぬるの榊の身体に、勃起した僕のオチンチンが触れて、上下に擦られるたびに同時に刺激されてしまうのだ。おへその窪みにはまると、きゅん、って頭の奥から搾り取られるみたいになる。
「はっ、はっはっは――ぁ」
「ん、んん、ん、あ、あ」
「――ふう、ちゅ、ちゅっ。くふぅ」
「はふは、ふぅ。ん、ん――ちゅ」
 腰の動きが休むときは、榊が僕にキスをする時。一回キスをするたびに、一回幸せになる。一回腰が動くたびに、また一回幸せになる。
 たくさんたくさん、相手を感じる幸せ。
「ああ! あああん!! 」
 いっぱい、一杯の幸せ。
 女の子の制服を着て、女の子の制服を着た人に犯されて――。
 ふふふ。
 榊ちゃん、きれい。
「ねえ」
「ん? 」
「いき、そう――。もうイッていい? 」
 榊の声に、にっこりして、いいよ、って言った。
「……くも、――きそう、から」
「なに? 」
「ぼ…も、いき、そう――たから」
 優しい唇の感触の後で、榊の身体がのけぞった。途端、今まで打ちこまれつづけていた熱いものから、勢いよく精が注がれる感触!
 ―――――――っ!!
「はっ、はっ。――は、あ。はあ」
 一瞬真っ白になって、身体がびくびくってして、それから、自分が荒い息をしてるんだなぁ、ってことが、ゆっくりと分かってきた。
「――トモ」
「――ん」
 優しいキスをして、ああ、榊もすっごくイっちゃったんだなあ、って分かった。お腹の中で、まだ榊のがひくひくしてる。それでも榊が腰を引こうとするから、らーめ、って言って、足で腰を抑えこんだ。
「ほんとに小さくなっちゃうまで、ずっとこうしてるの」
 それからしばらく、二人でキス。小さくなった榊のを引きぬいて、お口できれいにしてると、榊が僕の身体をひっくりかえして、まだ固い僕のペニスに舌を這わせた。もう制服は汗でぐしょぐしょで、胸元なんて乳首の形が透けて見えて。
「ねえ、滝野サン――」
「何? 榊サン」
「お願いがあるんだけれど」
「何? 」
「俺の、女の子のところ、舐めて
 この、固いので、後ろから、犯してぇ――」
 犬みたいに四つんばいになって、伏せする榊。ミニスカートがまくれて、いやらしいお尻が丸出しになっていて。そこの女の子のところは、確かに潤んでいて。
 トロン、とした目のまま、僕は榊の後ろに舌を這わせた。
 とっくにストーブは止めている。
 だって、二人の温度で、すごくこの部屋、熱い。


                                *

 

118 名前:『超・やりすぎ TOO☆MORE』【15】[sage] :2005/09/22(木) 19:31:53 ID:OBPFMlNU

「カンパーイ! 」
 千代ちゃんの音頭でクラス一同の乾杯が行われた。みんな着替えていない。制服を取り替えた人は、そのままの姿である。
「大盛況でしたね」
「ほんまやー」
 結局文化祭は大成功の内に幕を閉じた。女装した者は、似合いすぎて怖い、と言う喜ばしい(?)アンケートにうめ尽くされた。勿論展示も評価が高かった。
「この子も新しいお友達、出来たかしら? 」
 わざわざ迎えに着たトゥーレのご主人様は、いい展示だったわよ、と直々にお褒めの言葉を下さった。
「その女装もね、ちょっと、他の人のと比べて、布がよれてる気がするけど」
「いやー、慣れない手直しで、何度も直したから、生地がへたれちゃったんですよ」
 本当は、昨日のご乱行でぐちゃぐちゃになったコレを、どうやらようやくここまで復元したところなのである。においにも気をつかって消臭材を大量に散布した。その制服のにおいをくんくん嗅いで。
「あらあら。てっきりおイタのせいかと思ったわ」
 なんて先輩。
 そう言えば大山さんも同じようなこと言ってたな。女は怖い。当の大山さんは、男子の学生服を着てにこにこしていた。ヨミから強引に借りたらしい。他にも何人か男装している女子がいる。
「なんか、反対だね、うちのクラス」
「何が」
「制服は夏服で、男女も反対じゃん」
 これで年齢まで反対だったら、完全にあべこべだってヨミに耳打ちしたら。
「反対だろ」
「え? 」
「千代ちゃんの、年齢。本当は小学生なのに、高校生だ」
 なるほど、そういわれればそうだ。
「でもさ、あべこべも、いいよねー」
「何で? 」
「いや、だって、それでも何も変わらないよ。本質のところは、人間さ」
「よくない」
 憮然として言うヨミに、初めて友の機嫌がよろしくないことに気がついた。どうしたの? と尋ねると、どうしたもどうもこうも。
「人のことさ、誰が呼び出したかしらないけど、やよエな、なんて呼ぶんだよ。何のことだと思う? 」
「さあ」
「ヤバイ
 ようふくが
 エロい
 な
 の略なんだと、略になんかなってねーっての! 」
 確かに女物のかつらをかぶって女装している、なまじスタイルのいいヨミの格好は、見ようによってはこの中で一番エロくて思わず笑ってしまった。
 だったらかつらを取ればいいのに、と言ったら、そしたら、完全に頭と身体が浮くだろ、と言われた。なるほど。ヨミはヨミなりに、筋を通しているわけだ。
 でもきっとヨミが女の子だったとしても、きっとヨミは僕の幼馴染なんだろうな、って思った。きっと言ったら怒られるだろうから言わないけれど。
「それじゃあ、クラス副委員の滝野智こと、トモさんにも、一言いただきましょう! 」
 男装した大山さんが、にこにこしながら僕に声をかける。きっとあの制服はヨミのにおいが染み付いてるだろうに、何であんなにニコニコできるのか。それだけ男装が楽しいのかもしれない。確かに僕も女装はちょっと楽しかった。――恐らく榊も。きっと。
「えー、呼ばれて飛び出て参りました。トモちゃんでーす! 」
 拳を天にかかげると、みんなも一緒に拳をあげる。みんなノリノリだ。そんなノリを更に盛り上げるべく、大山さんがボールペンをマイクに見たてて、僕にインタビューのふりをした。
「トモちゃん、初めてのミニの経験、いかがでしたか? 」
 さり気なくきわどい質問に、堂々と答える。
「そうですねー。ミニはやっぱり興奮しますね。入りやすくて気持ちよくて」
 とたんに、ジュースを口に飲んでいた榊が、思いきり鼻と口から噴出した。
 始めて見る、クールな榊のムセっぷりに、教室中が注目する。
 カオリンが差し出したハンカチで、ゆっくり顔をぬぐった後、鋭い目つきをした榊が、とてもとても低い、いい声で言った
「滝野君、やりすぎ」

                          (了

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