510 よみのバイブレーション sage 2012/07/23(月) 23:55:41.78 ID:kdnPQy4T

「ねえ、ねえよみコレ入れて次の授業出てくれない?」

 空が高く日差しの強い夏の日、夏休み前でご機嫌の智は満面の笑みで暦にソレを差し出した。

「………何よ、ソレ?」

 そんな智とは対照的にこめかみにうっすらと青筋を立てた不機嫌な表情で暦はソレを見つめた。
 智の手の上に置かれた真っ直ぐに雄々しく横たわるピンク色のソレを。

「え?まさか知らないの?もうよみってば、カマトトぶってんの?勉強しすぎてこんなもの
見たことも聞いたこともありませーんってやつ?ぷぷ!うっそくせ!まあいいや。じゃあ
私の口から言いましょう!バイブでーーーーーっす!!!」

 爽やかに晴れた青空を映す窓を背に、智はそれに負けないくらい爽やかに言い放った。
…15歳の乙女真っ盛りの女子高生が大声でバイブ言うのはどうよ?
 と、つっこみを脳裏に掠めつつ、暦のは体は智が台詞を言う前に反射的に腰を沈めており、
 彼女のつっこみ(?)では最も攻撃力の高いアッパーが智の顎に炸裂していた。

「ぐはぁ!!!」

「失せろ変態!!そしてさっさと捨てろ!」

 派手に吹っ飛んで背中を廊下に強打する智。のた打ち回る親友…というか一応恋人?を背に
暦はその場を立ち去ろうとする。

「ぐ…い、息が!!…っ、あ、ちょ、ちょ待てよ!!」

 某人気アイドルの物真似をする芸人を意識する口調で智は必死に飛び掛かって暦の足を掴んだ。

「触るな!!変態!変態!変態が!!」

「3回も!?」

あ、でもよみにそんな鳥の死骸を見るような目で見下されて罵倒されるのって…結構有りかも……。
え、え、私ってそれじゃあ…?

「変態です!!」

「…マジで気持ち悪いから放してくれない?放して下さい怖いです」

「今度は敬語!?」

 新たな自分の性癖に目覚めつつ、智はどうどうと暦を宥めながら彼女を落ち着かせるようきちんと説明を
することにした。


511 よみのバイブレーション sage 2012/07/23(月) 23:57:07.49 ID:kdnPQy4T

「いやさ、こないだ大阪と帰る途中公園でちょっと亀で遊んでたのよ。こう裏返したりして」

「子供か!暇か!てか亀可哀そうだろ!」

「そしたら大阪が急に何かを見つけて茂みにダッシュしてさ。これ見つけてきて、智ちゃんあげるって」

智はそのバイブをあらためて暦の前に見せつける。

「前に大阪とHなビデオそこで拾って見たんだけど、そん時の内容がこんなバイブ女の人に入れたまま外に連れてってたわ」

何か思い出したのか智はちょっと恥ずかしそうに頬を掻いた。

「ビデオとこのバイブ、同じ人物が落としたと思わない?ていうか、亀の前にあるのが何かやらしくない?ぷっ!」

自分の言葉で吹き出しそうになる智。
それまで耐えに耐えて聞いていた暦もついにプツンと頭で何かが切れてしまった。

「知らねぇよ!ぷっじゃねーよ!全然上手くねーだろ!!おっさんか!つか、何だよその公園!卑猥な物の捨て場に
なってんじゃねーか!子供見つけたらどうするんだよ!それと大阪あいつマジいらない事ばっかしてんじゃねーよ!
原因ほぼあいつのせいじゃん!!いや待て待て、何でその流れで私にためすの?しかも落ちてたって…」

「汚ねーだろ!!」

「?洗ったよ?」

「そういうこと言ってんじゃねーよ!!」

暦はぜぇぜぇと肩で息をし始めた。流石に短時間であれほど突っ込んだのは久しぶりだ。消耗が激しい。
対照的にキョトンとしている智。まったく悪びれないこの馬鹿の相手をいつまでも仕方ない。

「没収」

「あん!」

暦はすかさず智の手からバイブを奪い取るとスタスタと教室に向かい始めた。

「ちょちょ、どうするつもりだ!?」

「私が預かる。そして後で捨てとく」

「うわーん、泥棒ケチ変態!!」

「変態はお前だ!!!授業始まるからお前も戻れ!!」

ギャーギャー騒ぐ智を無視して暦はさっさと教室に戻ることにした。


512 よみのバイブレーション sage 2012/07/23(月) 23:58:46.10 ID:kdnPQy4T

授業開始のベルが鳴る。次は英語の授業だ。

…ったく、あの馬鹿。こんな物拾ってきやがって…。

とりあえず暦はバイブを机の引き出しに隠しておいた。後で粉々に粉砕して焼却炉に叩き込むつもりだ。

こんな物持ってたら落ち着かないわね。私が変態みたいじゃん、たく、こんなの持ってるの見つかったら…。

「はーい、お待たせお待たせ、授業やるわよー。教科書出してー」

ゆかりがベルからやや遅れて教室に入って来た。

バイブの事で思案してた暦は机の上に教科書が出てないことに気づき、英語の教科書を出そうと机の中に手を入れる。
と、その時、カチリと指先が何かを押し込んだ。

「?」

ヴィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン

振動音と共に小刻みに揺れ動く机。

「なにいぃ!!!!!!??」

驚きで立ち上がり、絶叫する暦。ざわつくクラスの皆。

「うわっ!ちょっと何何!?よみぃ、あんた机に何入れてんの!?出しなさい!」

「え?え!!?いや、その…」

激しい振動音。揺れ続ける机。迫り来るゆかり。呆然と見つめてくるクラスメート。

目まぐるしく視界が移る、動揺のあまり意識が飛びそうな暦の目の端に移ったのは…一人だけ机に突っ伏してぷるぷる震えてる智。


………笑ってやがる。


薄れていきそうな意識の中、こいつは後でバイブと共に消してやる、そう決意したのだった。


(はっぴーえんど☆)

inserted by FC2 system