海の臭いがする。
臭い。生臭い。
「海の臭いがする」
すうっと息を吸い込んだら、榊の鎖骨の辺りから、海の臭いがする。
まずいよ。
まずいよね?
だって、そっと僕の頭に大きな手が置かれてるんだよ? もちろん、榊の――。
どうしよう、これって。だってここ、僕の家じゃないんだよ? 榊の家でも無いし、学校でもないし。あ! でも学校だったら、もっと大変だよね。見つかっちゃったら大事だもん。
「滝野君、ドキドキしてる――」
耳元で囁かれて、またキュンってしちゃった。榊の声って落ち着いてて低いいい声で、囁かれるだけで、何かダメ。だめだよ、こんなところで、って僕の声も囁き声だ。
「わかってる。だから、今は、こうしてるだけで――」
何いってんの榊ちゃん! こうしてるだけって!?
このまま二人で水着一枚で抱きあってるだけなの?
「……まん、…きないょ――」
「――何? 」
なん、でもねーよ、榊。
あ――。
よだれ、たれてきちゃった。
*
夏休み!!
今僕たちは、千代助の別荘に来ている。千代のやつ、どうやら大変な金持ちらしくって、設備の整った別荘があるんだ。
すっごい金持ちなのは、初めて家に遊びに行ったときに分かった。だってデケーんだもん!! 庭! 家! そのときに、誘われたんだよね、別荘に。
場所は海が側の、きれいなとこなんだ! 砂浜なんかもキラキラしちゃってさー。
「この辺りは穴場ですから、あんまり人が来ないんですよー」
と、自慢げに千代がいってた通り、ほんとにここは人が少ないでやんの!!
もー、こんな風景がよくて、海が近くて、しかも夏なのに、遊ばない手はないねー! わーっはっはっはー!
「こら、そりゃいーけど、宿題やってるのか? 」
そんなの千代ちゃんに見せてもらえばいいじゃーん!!
「ほほう。それはいいアイデアだな」
ぱかっ。
朝っぱらから、頭に固い一撃! いってー――。頭を撫でながら振り返ると、呆れた顔の男が立っている。鼻筋が通った勝気な目をした人。夏休み前までは、毎日教壇に立っていた人。
「……わ! 谷崎先生!! 」
「滝野、お前、教師の前でそんなこと言って、無事でいられると思ってるのか? 」
「いやいや、これはその、言葉のあやで」
「言葉のあやはいいけどよー。こんなでっかい独り言を呟くやつが自分の教え子かと思うと、頭が痛い」
そこまで言うと、一度大きなあくびをして頭をぼりぼりかいた。この人は谷崎遊里(たにざき ゆうり)先生。英語の教師で、僕らの担任だ。顔とスタイルはいいんだけど、奇矯な行動と発言で、ある意味生徒から一目置かれている。
何日か一緒に暮らして分かったのだが、どうやら先生は低血圧らしい。まいっちゃったなあ。機嫌の悪いときにぶつかっちゃったよー。
これから本格的なお説教が始まることを覚悟したときに、助けの手が入ってくれた。
「何やってんの? 二人共」
声をかけてくれたのは、黒澤みなも先生。女の人みたいに見えるけど、やっぱり男の先生で体育教師。こちらは本当に生徒の信頼厚い先生で、運動能力は抜群! 谷崎先生とはもう高校時代からの腐れ縁らしい。
「もう車だすよー」
おっとそうだった! 今日は少し離れた繁華街まで遊びに行くって言ってたな。食料調達と、ちょっとした観光も兼ねて、車で色々回りながら、一日がかりで回ってくるらしい。
「あ、オレ、今日はやめときます」
「おや、滝野、どうしたの? 」
「いやー。せっかくだから、今日は一日ほかに誰もいないから、邪魔されないで勉強したいかなー、とか思ってさ」
これは半分本当。だって宿題なんて、夏休みはいって全然手もつけてないもん。ここらで少しまじめにやっとかないと、家に帰ったとき大変だ。だって家には――。
そこまで考えたときに、後ろから突然現れた誰かさんが、僕の頭に拳を二つ押し当てた。
「誰が誰の勉強をじゃましたんだ――」
ゴリゴリ。
「イタタタタタ! って、ヨミ!? いきなり人の頭をごりごりするなー!! 」
「誰もお前が勉強するのを邪魔なんかしないよ」
「えー? 」
「どーせ、家には、千代ちゃんはいないもんな? でも宿題写すのに先生がいたら困るから、残るんだろ? 」
う。するどい――。実はその通り。千代ちゃんからは、もう宿題のノートを借りてある。でも中々写す機会がなかったんだ。だからみんなが出かけている時がチャンスだって思ったのに。焦った僕の表情を見きったのか、皮肉っぽくヨミが笑う。
「おまえのことなら何でも知ってるんだから。お見通しなんだよ」
「なんだとー! この嫌味眼鏡―!! 」
むうー!
二人で激しい睨み合い。先生二人は、やれやれって顔をして僕達を見てる。な、なんだよ! その、なーんだまたやってらって目はー!
「おはようございます」
第三者の到来に、僕もヨミもそろって声の方向に顔を向ける。
「おはよう榊」
にっこり笑って挨拶するヨミ。あ! こいつなんだかまるで大人みたいなことしてる!! 許せん! 僕だって挨拶するぞ!
「おっひゃよう! 榊ちゃん!! 」
ぼふ!
ぴょん、ってジャンプして、榊ちゃんの胸元に僕は飛び込む。今回の旅行では、たまたま千代ちゃんが図書館で会ったってことで、榊さんも参加していたのだ。前も言ったけど、榊ちゃんはすごい奴で、僕ももっと親しくなりたかったから、正直来てくれて嬉しかった。
後は――。
「おはよー、榊ちゃん」
「榊さん、おはようございます」
大阪と、勿論千代の二人で、計7人。さあ、行きましょう、って千代ちゃんが言うから、僕は行かないむねを告げた。
「えー? トモちゃん行かないの? 」
「うん。今日は一人で勉強でもしようと思ってねー」
そう言うが早いが、谷崎先生から、駄目出しが入る。
「駄目だ」
「ど、どうしてだよ、先生? 」
「お前のことだ。一人きりにしたら、一人で海に遊びに行っちまうに決まってる。ここの砂浜はタダでさえ貸しきり状態なんだ。もしお前に何かあったら、俺達の責任になっちゃうもんな」
「えー! もっと自分の生徒を信用しようよ!! せんせぇ!! 」
「信用できんぞ」
「何ー! うるさいヨミ!! お前が言うな!! 」
再び睨み合いが始まろうとした瞬間、榊がぽつん、と口を開いた。
「あの――。私も今日は」
「え? 榊さんも行かないんですか? 」
「はい。今日は勉強したいから」
「へえ。別荘に遊びに来ているのに、偉いこった」
「そう言うことなら仕方ないですね――」
榊の言葉に、みんなでこくこくうなづいている。ちょ、ちょっと待ってくれよ!!
「なんで榊ちゃんの言うことは信じて、オレのいうことは信じてくれないんだよー! 」
「お前と榊とじゃ、信用の度合いが違うんだよ」
うるさい! この突っ込み眼鏡!! ヨミに食って掛かろうとした瞬間、谷崎先生が口を開いた。
「よし! 榊!! お前、滝野見張ってろ」
「――え? 」
「お前と一緒なら、大丈夫だろ。あんまりこいつが無茶しないように見張っておけ」
谷崎先生の言葉に、ヨミが一瞬驚いた顔をする。
「え? 二人で残るのか? 」
「だめですよー! みんなで行くから楽しいんですよー? 」
すかさず反対の声を上げた千代ちゃんに、榊が千代ちゃん、と呼びかけた。
「もし私達が一緒に行ったら、七人だよ? 」
「そうですよ」
「そしたら、車を二台に分けて行かなくちゃ行けないんだ」
「あ! 」
とたんに千代ちゃんの顔が青ざめた。
今車を運転できるのは、谷崎先生と黒澤先生しかいない。黒澤先生はともかく、谷崎先生の運転はとても――危険だ。
千代ちゃんはその車に乗って、この別荘までやってきたのだ。七人だと二台に分乗して行かないといけないから。帰りもまた乗らなければならないのは目を瞑るとして、それまでは遊里先生の車になんて乗りたくないだろう。
「わわわわわかりました。五人だけで行きましょう五人だけで。ささ、ヨミさん行きますよ」
「ち、千代ちゃん! 」
「お、大阪さんも、はやく車に乗りましょう乗りましょう」
「わー、もしかしてボクの出番これで終わりー? 」
千代ちゃんに、物凄い勢いで引っ張られて行くヨミと大阪を見て、二人の教師も行くことに決めたようだ。
「それじゃあ、僕達も行くね」
「榊ぃ、しっかり見張ってろよぉ。なんかあったらお前のせいだからなー」
「うるせー! そっちこそ事故るなよ!! 」
僕の悪態に、谷崎先生が振り返って応えた。
「事故んね―よ。ばーか。俺の運転を舐めるなよ」
「遊里――。僕が運転するからね――」
車を見送って、榊ちゃんと二人きりになった。二人で遠ざかって行く車に向かってぶんぶん手をふる。やがてそれが豆粒みたいになってもう見えなくなってから、僕は大きく息をつく。
「さーて榊ちゃん」
「何? 」
「海に行こう!! 」
「え!? 」
僕の提案に榊ちゃんが目を白黒させる。
「だって――勉強するって――」
「あれは一人で残る場合! 榊ちゃんが残るのに、勉強なんか出来ないよー」
「滝野君が海に行くの、危ないって」
「榊ちゃんがいるんだから、大丈夫だって! 」
そう言って僕はパジャマ代わりに着ていたTシャツをぱっと脱ぎ捨てた。
「ほらほら! 榊ちゃんも脱いで脱いで!! 」
「じゃ、じゃあ水着――着るから」
「水着だったら、ちゃんと用意してあるもんねー」
ジャーン!
そう言って取り出したのは、僕が普段履いているのと同じ、競泳用パンツ。
「サイズ間違えちゃってさあ。大きいの買っちゃったんだよねー。だからさ、これと同じの持ってない人にあげようと思って」
「でも、私は、自分の水着持ってきてるし――」
「えー!? あの全身スーツゥ? せっかく海に遊びに来てるんだし、そう言うのやめようよー」
榊は今回の旅行にも、あの全身水着を持ってきた。そりゃ確かに似合うし、違和感もないんだけど、たまには違うかっこうが見たいじゃない?
だから、もっと開放的にさ、ね? と僕が言ったら、榊が僕を見て顔を赤らめた。
「あー! 今! 榊ちゃん、オレの胸見て、赤くなった!! 」
相手が隙を見せたらすかさず突っ込む! これが僕の楽しみ。真っ赤な顔をしている榊ちゃんに、どうして真っ赤なのかなー? と聞いてみる。
「ねえ。そんなにオレってセクシー? かわいい? それともかっこいい? 勃起しちゃいそう? やだなー。榊ちゃんってば、へんたーい! 」
その瞬間、榊ちゃんがとても傷ついたような怒ったような顔をした。
あ! やばい!!
やりすぎちゃったかな……。TOO MORE TOO MORE。
すたすたすた、と近づいてきた榊ちゃん。ただならぬ気迫に、僕は背中に冷や汗をかく。うわー! 一発殴られちゃうかな――!!
覚悟を決めて身体を硬直させている僕の目の前で、榊ちゃんは自分のシャツにぱっと手をかけた。そしてためらいなく脱ぎ捨てる! 脱いだ瞬間に、榊の長い髪が、花びらみたいに宙に舞った。
「あー! 」
僕が驚いた理由。それは勿論びっくりするような物を見たからで――。びっくりするような物って言うのは、普段目にすることが無いもので。
「お、おっぱい」
そう。榊のTシャツの中にあったもの。それはまごう事無きおっぱいだった。大きくは無いけれど、普通の女性くらいはあるみたい。どうやら布みたいなもので巧みに押さえてたみたいだけれど、Tシャツを脱ぐときに一緒に外してしまったのだろう。
ぷるんとした弾力のある形。太ってる男の人も、胸元がおっぱいみたいに大きくなる。でもこれはそれとは違って、ほっそりと鍛えられた体に丸いおっぱいがあるのだ。
僕がぽかんとしていると、榊ちゃんは僕の手にある水着を受け取って、そのままズボンとパンツを脱いで、素っ裸になった。一瞬女の子かと思ったけれど、何もかも脱ぎ捨てた下半身には、僕と同じ物が……ついてる。
「さ、さかきちゃん、ひょっとして――」
「――もっと開放的に、なんだろ? 」
僕の質問に応えず榊は、早く下も脱ぎなよ、と言った。
「え? 」
「滝野君、もう水泳パンツはいてるんでしょ? 」
それだけ言うと、背中を向けて榊はすたすた歩いて行ってしまう。た、確かにもう水着は履いてるけど。確かに家の周りには誰もいないけど――。
大胆過ぎる榊の行動に、僕の方が目を回しそうだ。
「待ってよ、榊ちゃん! 家に鍵かけるからさー! 」
大きな声で叫んで、僕はポケットをまさぐる。
ああ、もう! 鍵はどこにやったっけ!
「ねえ、滝野君」
「んー? 」
なんとなくお腹が張って、気持ちよくなってきたときに、榊が尋ねた。
「確認するけど、君もなんでしょ? 」
「何が? 」
「半陰陽――しかも真性の」
しようかすまいか迷っていた質問をされて、僕はごくんって唾を飲んだ。でもここまできて隠すことも無い。だから、そうだよって答えた。
「ちんちんもおまんこも、両方ついてる。榊さんは? 」
「私も」
そこからまた、二人で黙ってしまった。何だろ。同類だって感覚なんだろうか。それとももっと別の何かなんだろうか。さっきからどきどきする。この変な感じをどうにかしたくて、僕はとりあえず自分のことを話してみた。
「オレは父系の遺伝みたいで、でも両方きちんとついてるのは、オレだけ」
「私は母方だな――」
「なんか変な感じだね」
「そうだね」
なんだろう、会話を重ねれば重ねるほど、空気が重くなってく。怒ってるとかそんなんじゃなくて、何かもっとどろっとした感じ。頭の芯がゆらゆらするみたいな不思議な感触。
そのとき初めて、僕は自分がどんな状況にいるのか分かった。
今、僕、エッチな気持ちになってるんだ――!
こ、こんなのよくないよね? 男二人でいるのに、エッチな気持ちになるなんて。そうだ、もっと笑っちゃうような話題にしよう。えーっと、えーっと。
「ねえ、榊さん」
「何? 」
「オナニーしたことある? 」
僕の言葉に、一瞬ハテナマークが浮かんだ榊さん。次にはまた顔が真っ赤になってきた。わー! 僕は何を聞いているんだ!! は、早く話題をそらさなきゃ! あー、でもいきなり反らすと不自然だし。そうだ! 自然に話の流れを変えれば何にも問題は無いぞ!!
茹った頭で僕は必死に言い訳を考える。今回ばかりはやりすぎないように、やりすぎないように、と。
「お、オレは、したことあるんだよね。って言うか、毎日してる。あ! この旅行中はしてないかな? でも、半陰陽だからかしらないけど、すごいたくさんしちゃうんだよね。まあオレは男だから、おちんちんしかしごかないけど」
何を言ってるんだ、僕は――――――――!!
自分でしゃべってることがわけわからなくなって、頭真っ白な状態で僕はそのまま言葉を続ける。TOO MORE! だめだめ、やりすぎやりすぎ!!
「でもやっぱりたまにはさ、乳首とか、弄っちゃうんだよね。すごい感じてるとき。そうすると、一杯出ちゃったり、その、しない――? 」
「…………」
こ、この沈黙は肯定の沈黙だ。
それが感覚で分かって、僕は自分の愚かさに頭を抱える。これじゃあまるで僕がエッチなことしか考えてないやつみたいじゃないか! 榊ちゃんは真っ赤になってうつむいている。こ、こうなったら、この事態を変えるには方法は一つしかない!!
「榊ちゃん! 」
「え? 」
顔を上げた榊ちゃんに、僕はぱっと飛び掛る。言葉に詰まったらまずアクション! これで、この硬直した空気も、柔らかく、なる、はず――。
むにょん。
何気ないアクションのつもりだったのに、その柔らかさで、僕は事態の異常さに気づいた。
しまった!
榊ちゃん、胸あったんじゃん!!
生のおっぱいに顔を埋めて、僕の両手は榊の背中に回されている。硬直した榊の身体。そりゃそうだよね。男なのに、いきなり男に抱きしめられたりしたら、ヒクよねー。
「あは……」
笑ってごまかして立ちあがろうと、身体を起こそうとしたら、なぜか身体が動かない。
あれ?
さかき?
筋肉の目立たない、けれど頑丈に鍛えられた榊の腕が、僕の身体を包み込んでいる。これじゃあ立てないよ、榊。
そしてそのまま顔を胸に押し付けられて――。
あ。
海の臭い。
だから海の臭いがする。
におい。生臭い。
榊も、海の臭いがするって言う。
すうっと息を吸い込む音。榊が僕の海の臭いを嗅ぐ音。
まずいよ。
まずいよね?
だって、僕の顔が膨らんだ胸に押し付けられてるんだよ? もちろん、榊の――。
どうしよう、これって。だって榊、女の子じゃないんだよ? まあ厳密に言えば女の子でも無いし、それ以前に恋人でもないし。あ! でも恋人だったら、もっと大変だよね。恋人同志だったら、ぜったいとまんないもん。
「榊ちゃんも、ドキドキしてる――」
囁いてみて、キュンってしちゃった。僕の声って高くて声変わりしてないみたいで、子供みたいで、何かダメ。そんなに、どきどきしてる?、って榊の声も囁き声だ。
「わかるよ。だって、今は、こうしてるから――」
何いってんだよ僕は! こうしてるからって!?
こんなふうにしてるから、おかしくなっちゃったのかな、僕?
「我慢できないんでしょ? 」
「――え? 」
さっきそう言ってたじゃない。滝野君。
あ――。
聞こえてたんだ、榊。
「ごめん、榊ちゃん」
「――どうして? 」
「い、いや、いきなり抱き着いちゃって――。きもち、わるいよね? 男同士で抱き合ったりして」
「別に」
そう言って榊は、ゆっくり腕に力を込める。うわ! 僕の身体から汗がどっと出てきたのが、密着した榊ちゃんの肌の感触で分かる。どうしてそんなのがわかるかって言うと――、僕の腕にもさらに力がこもっているからであって。
「わ! わわわ!! 」
ダメダメダメダメ! 絶対に駄目だって! 頭を振って、僕は榊の肌から身体をはがそうとする。柔らかいおっぱいにはひかれるけれど、しょうがない。ところが榊ちゃんは、ぐっと僕の頭を押さえつけ、もう一度抱きしめて、言った。
「滝野君は、嫌なの? 」
「うん。嫌だ」
僕はあっさりうなづいた。
だって、男同士だし、男同士は気持ち悪いよ。
そう言いながらも、僕はスウッて榊の匂いを嗅いでいる。生乾きの海の臭いと、鉄の溶けたみたいな匂い、する。反対に榊は大きな大きなため息をついた。
「私は嫌じゃない」
耳元で囁きながら、榊は静かに腕のいましめを解いていく。
「でも滝野君が嫌なら、我慢する」
それからゆっくり榊ちゃんが離れていく。額に感じてた、榊の鎖骨の感触、それから胸の感触。やっかいの無くなっちゃう。ダメダメ、そんなこと考えたら。また欲しくなっちゃうでしょ?
ゆっくりゆっくり、名残を惜しむように身体が離れて、ようやくほっと息をついた。これでよかったっていう気持ちと、残念な気持ちがぐしゃぐしゃになって、思わず榊ちゃんの顔を見たら、当の榊ちゃんもそんな顔をしてた。
お互いに同じ顔をしていたことに気づいて、一緒に笑った。切れ長な目が、困ったみたいな形の苦笑いになっていた。
「ごめんね、滝野君」
「ん、ん、そんなことないよ」
頭を掻きながら、何でもないことみたいに振舞って見せる。大丈夫、もう、大丈夫だから。
「抱きついたのは、僕の方だし」
す、と気楽になったせいか、僕の口は再びなめらかになっている。だから。
「見せっこしようか? 」
って言ったのだって、それほど意味のある言葉じゃなかった。
「え? 」
「お互いのがさ、どんなんなってるか、気になるじゃない? あ! でも榊ちゃんはいいよ。だってオレ、榊ちゃんの胸見せてもらったし、そのお詫びみたいなもんで」
「どうして? 」
榊の声が殺気を帯びた気がして、僕はどきんってする。ど、どうしてそんなに怒るのかな?
「だ、だって、男同士だし、同じ半陰陽じゃーん。どんなのか、榊ちゃんだって興味あるだろ? 」
「滝野君は、私のに興味あるの? 」
「そ、そりゃあ、あるよ、あるよ? うん。だって初めてだし。同じ半陰陽と会うなんて」
榊の奇妙な迫力に、僕の声は上ずってしまって、それで慌ててしまう。そんな動揺を打ち消すために、さっと片膝を上げて、紺の水着を引き抜いた。はらり、と落ちるバスタオル。
ぺたん。
すっかり硬くなった僕のオチンチンが、大きく跳ねて僕のお腹を打った。少し怖い顔になっていた榊が、それを見て顔を一瞬引きつらせ、それから黙って僕を見ている。熱心に、じっと、僕のオチンチンを。
「あそこはどうなってるの? 」
榊の声に僕は我に返る。なんだか少しボーっとしてたみたいだ。それなのに、自分の身体の変化にはとても敏感になっている。乳首が痛い。オチンチンが痛い。顔が熱い。身体の中、もっと、たぎってる。
「う、うん。ちょっとまってね」
女のことのところを見せるために、立ったまま股を開こうとしたら、腰が抜けてペタンって倒れこんじゃった。
あれれ?
ぼくどうしたんだろう?
そう思いながら僕は、膝の開いた体育座りの格好で、自分の隠された部分をさらけ出していた。
「見える? 」
「うん」
うなづいて榊は、僕の股間を覗きこんでいる。
「動いてるね」
「な、何が? 」
自分で尋ねて、何が動いているのかすぐにわかった。
オチンチンだ。
オチンチンが勃起して、ひくんひくんって動いている。え? マジ? だって全然そんな感触しなかった。それなのに動いているオチンチンが恥ずかしくて、僕は必死にオチンチンに号令をかけた。
止まれ。
止まれ!
でも止まらない。それどころか嬉しそうにブンブンブン。
うわぁん! さっきより大きく動いてるよお!!
榊の顔を見る。あの冷静な瞳が、そんな僕の身体の反応をじいっと見詰めている。うう。はずかしい。
「じゃあ滝野君。ここもよく見せてもらおうね」
榊はそう言うが否や、僕の女の子の部分に顔を近づけて四つん這いになった。形のよい榊のお尻が、きゅっと上がる。
「ふふ――ここも、ちゃんと女の子のところだ」
「み、見たことあるの? 」
「鏡で自分のを」
なるほど。
僕が納得していると、僕のその部分をちょん、とつついて、滝野君のここも、いれられるようになっているんだね、とすごいことをサラリと榊ちゃんが言った。わ、わかるの? 榊ちゃん?
「入れたことあるから」
このスポーツ万能で、クールで、そんなエッチなこと一度もしたことないような榊ちゃんの口からそんな言葉が出るだけで、僕の頭は真っ白になる。膝がかくかく震え出す。あれ? どうしたんだろう。僕。
「さ、さかきさんは、入れたとき、どうだった? 」
「よかった」
「だから、どんな感じ? 」
「だからよかったって」
あん!
榊の囁いた息がそこに触れて、僕の全身がぶるぶるって震えた。な、なにすんだよ。声、洩れちゃうじゃないか!
「どうしたの? 」
「な、なんでもない」
榊に尋ねられて僕は慌てて応じる。だって、榊に息を吹きかけられて、身体がひくひくするなんて言えないよ。
「ふ――――」
「あはぁん!! 」
うう。お尻がきゅって締まって、恥ずかしい声、でちゃった。もう、さかきの意地悪。
「ねえ、滝野くん」
うっとりした声が、股間から聞こえてくる。それは勿論榊の声。僕がひくんってしちゃう榊の声。
「ひろげて、もっとよく見せてよ」
そんなあ――。
昔お医者さんには見せてたけど、最近は検査でお医者さんに行かなくてすんでほっとしてるのに。やっぱり慣れても、他人にそう言うの見せるのは恥ずかしい。
そんな僕の心の中を読み取ったみたいに、榊が。
「滝野君だよね? 見せてあげるって言ったのは? 」だって。
ああ、そうだよ! もう!!
「はい」
そっと指先をアソコへ持っていって、なるべく事務的にぱっくり開いて見せる。
つん、って鉄の匂いがする。
「――かわいいね」
「グロいよ」
「どうして? 」
「だって、ナイゾーっぽいじゃん」
そう。女の子の部分って、肉のさやに包まれてて、ひろげて見せると、内側の中の部分がすぐに見える。それがいかにも生肉って感じなんだよね。ところが榊ちゃんは、それとは全く別の感想を持っているみたいだった。
「でもきれいだよ」
「え? 」
「赤い色が、ひくひくしてる。まるでピンクのサルビアみたい」
形のことを言ったのか、色のことなのか、それともその両方なのか。花からの例えだってことは分かったけれど、実物は頭に浮かんでこない。けど、そんな例えに僕は心臓を高鳴らせる。ずきずき。痛いくらい。
「ねえ、榊ちゃん」
「何? 」
「サルビアって、どんな花? 」
「夏の花。沿道なんかにけっこう植わってる。ほら、あの赤い花。花びらが細長く伸びてて、先が唇っぽくなってるの」
そこまで言われて、ようやく自分の中でサルビガがどんな花なのか分かった。
「あ! あの蜜吸ったら甘い奴か! 」
「そう――蜜、甘い」
その途端、僕の身体がびくんってした。大きな声が出ちゃう。だって、僕のアソコに、ぬるって何かが――。
「甘い」
僕のアソコにちょっかいを出したのは、当然榊。それでぬるってしたのは――その唇から出ている、赤い舌の先。
「滝野君の女の子のとこ、きれいにしてる? 」
「お、お風呂入ってるときは、洗ってるよ」
「でも恥垢がついてるよ」
え?!
心地よさでとろとろしていた意識が覚醒する。
「嘘!? そんなに汚い? 」
「少しついてるだけだよ」
大丈夫、取ってあげる。優しい声が聞こえた途端、僕のアソコを指が這った。ぐい、と人差し指が下の唇をぬぐう感触。
ひぃん!
だ、から――。声、洩れちゃうだろ――? さかきちゃあん。
「ほら、きれいになったよ」
僕の心の声が全く聞こえてない榊ちゃんは。
「もっときれいにしてあげる」
と言った。何を? どうやって? そんな疑問が来る前に、僕は自分の身体でその方法を知ることになる。例えば、唇と舌が、柔らかさでどう違うのかなんてことを。
「くふ―――ぅ……あ、あ」
「ふふ、いやらしい声、でてる」
「だって、榊ちゃん、がーぁ……」
ろれつが回らない。唇の微かな動きで、辛うじて言葉になっている僕の声。やわい刺激で、腰がくすぐったくて、浮いちゃって。ときおり訪れる強い刺激に、声が変になっちゃって。
あ!
さ、かきちゃん――。お毛々のことなんて、はみはみしたら、くすぐったいよぉ――。
「いたいでしょ? ここ」
アソコを舐めながら、そっと榊が手を触れたのは、僕のオチンチン。
剥けかけてるね、さっきまで皮かぶってたのに。そんなこと言われたら、なんか、もう。
あん――。榊が、僕のおちんちん、舐めてる――。痛いよ。気持ちいいけど、そこ。もう勃ちすぎちゃって痛い。
「ここからも、蜜が出てる」
「だ、めぇ! こすっちゃ!! あ、あんあんあああああっ」
声がたくさん出ちゃう。オチンチンに触れてるだけの榊ちゃんの舌が、いっぱいぬるぬるして、小刻みに動いているから。まるで硬いミルクキャンディーをしゃぶってるみたいに。早すぎず遅すぎず、よく味わって――。いい! 気持ちいいよぉ!!
すご、すぎる。
すごすぎて、お尻ぷるぷる、しちゃうの。
「ああああ! はあ! はあっ!! 」
「さっきより、もっと大きい――」
オチンチン舐めている榊ちゃんの顔は、とってもエッチ臭いよ。もう! そんな顔してどうするって言うんだよ!!
だから言ってやる。きっぱりはっきり! こんなふうにされっぱなしなんて、許せない!
「さかきちゃんの、ばかあ」
僕の言葉に、榊ちゃんが驚いたみたいな顔をする。でも何より驚いたのは、僕の方。だって、自分の口からこんな甘えた声が出るなんて思わなかったんだもん。これは、やばいよ。早く榊ちゃんを止めないと――。だって。
「僕と榊ちゃんは、男の子なんだよ? こんなことしちゃ駄目だよ。半陰陽だからって――」
その言葉に、榊ちゃんは不思議そうな顔をする。もう一回言って、滝野君。だからあ、僕達こんなことしたら、だめだよって――。男の子同志でこんなことするのは、変。
あれ? それでも榊ちゃんはいいの? 僕が男でも?
って!
ばかばかばか!! しっかりしろ、滝野智! 流されちゃ駄目だよ。こんな雰囲気に!
「ねえ、榊ちゃん、男同士じゃ、気持ち悪くてキスできないじゃん? わかるよね? 僕の言ってること――」
「――知らなかった」
「へ? 」
微妙に噛み合ってない会話に、僕はハテナマークを浮かべる。
「滝野君って、こう言うとき、自分のこと、僕って言うんだ」
!
そっちかー!
べ、別に僕が僕って言ったって、構わないじゃないか! でもそんな僕の突っ込みは、口から言葉になる前に、額にかぶせられた榊の手によって止められた。口をふさがれたわけじゃないのに、言葉が止まっちゃった。変なの。
あったかい――。
さっきまでもエッチな気持ちよさとは違う、心が落ち着く気持ちよさ。くふふ。なんか、気持ちいい。
とろんとしかけた僕に、低く優しい声が囁きかける。
「トモは、キスして欲しかったんだよね? 」
「ちなうよ。そゆことじゃ、なくてぇ」
「さっきまでトモのアソコ舐めてたんだよ? キスが気持ちわるいわけないよ――」
そういやそうだ。アソコ舐めたりするくらいなら、キスなんてなんてことはない。挨拶でキスするところだってあるわけだしね。
「それともトモは、私とキスするの、いや? 」
ううん。嫌じゃない。
変な話だけど、榊が男だとか女だとか、ましてや半陰陽だからなんて言うんじゃなくて。キスなら、むしろ、してみたい。
だって、榊とてもきれいなんだもん。
潤んだ目で榊を見つめる僕に、榊はなおも語り掛ける。
「それとも、アソコ舐めてた口だから、キスしたくない? 」
ううん。
「さっきの気持ちよくなかったから、キスしたくない? 」
ううん。
僕の小さなノーを示す首振りは、突如訪れた荒荒しい口付けに遮られた。
「ん、ふ、んふ。ん――ふぅ――――っ」
軽い窒息と眩暈。だって榊ったら、すごい勢いでキスするんだもん。貪るみたいな、感じ。舌、唇、ほっぺた。それが全て榊にされるがままになっている。
「さかき、いいの? 」
「え? 」
「き、もちいいの? こういうキス」
「かわいいよ。トモ」
全然意味がつながらない言葉なのに、かあってしちゃって、こっくりうなづいちゃった。バカだなあ、僕。でも、嫌じゃあ、ないぞ、このキス。うん。
だから、トモはどうって聞かれたときに。
「誉めてつかわす」って。
これが僕の精一杯の返事。だって素直に認めちゃったら、何か、僕の中の何かが根こそぎ変わっちゃいそうで。
そんな僕の態度を見て、クスって榊が笑った。
あん。もう。
こぼれたよだれ、なめちゃ、だめえ。
「トモが悪いんだよ」
よだれの跡から、首筋、首筋から胸元まで軽いキスを降らせながら、榊の頭が下がって行く。それから僕の固くしこった乳首に軽く歯を立てて――。あっあっア――!!
ん! やら!! さかきぃ!!
「トモがこんなかわいい乳首をだしっぱなしにしてるから、たまんなくなっちゃったんだから」
そんなことないよ、僕わるくないよぉ。
「うそつき」
それから榊はまたかりって、僕の乳首噛んで。舌でぺろぺろして。あ。さかきのいき、あちゅいよお――。
「ほら、またそんな恥ずかしいこと言って」
え?
「え? じゃないよ。さっきから、滝野君は思ったことが全部言葉に出てる」
「うわ! ほんとう!? 」
うわー! はずかしいよお!!
あんまり恥ずかしくて、泣きそうになる。その瞬間榊の唇が頤に吸いついて、僕はまた快感に打ち震える羽目になる。
もう! 上手過ぎるぞ、榊ちゃん!!
「ほら、また声に出てる」
「あちゃー」
榊にくすくす笑われて、僕はしかめ面を作って見せる。でも本当は、そんなに嫌じゃない。なんだかくすぐったい気持ち。きっと榊のお腹の中も、今くすぐったさで一杯なんだろうなって思ったら、嬉しくなった。
「ねえ、トモ」
覆い被さっていた榊の身体が動いて、今度は僕の顔の側に来た。そこには競泳パンツの上からもよくわかるくらい、ぎんぎんに勃っているオチンチン。先っぽの辺りが、濡れてる。
「トモ、ところでこれを見て――。どう思う? 」
「す、すごく、おっきい、デス……」
思わずそう言っちゃうくらい、榊のはしっかり大きくて立派で、それだからこそ張っちゃってて痛そうだった。
「……ぁあん! 」
今度は声を出したのは、僕じゃない。榊ちゃんの方だ。榊ちゃんの競泳パンツ越しに、僕の舌が這ったから。
しょっぱあい。
海の臭いが、する。
そうやって舐めながら、僕の理性が必死に語り掛けてくる。駄目だよ、こんなことしちゃ。男は男のオチンチンなんて舐めないんだから。
それに対して、もう一人の僕が必死で弁解する。でも、榊のオチンチン硬くなってるし、痛そうだし、それに。榊のお口、とても気持ちよかったから。
「ふ……っ。ん……」
榊ちゃんは、声は出さないで、息を呑んで喘ぐ。でもね、榊ちゃん、僕と同じ。腰、ヒクヒク動いてるよ。恥ずかしいね。
だからもっと感じさせたくて、榊ちゃんの水着をまくった。
「あ! 」
ビン!!
うわーあ!!
めくった途端、すっかり大人のオチンチンになったのが、僕の顔の前に飛び出した。くん。匂いを嗅いだけど、思ってたより臭くない。
それにしても榊ちゃんの――。大きいってのは分かってたけど、こんなに大きいなんて分かってなかった。きっと榊ちゃんの指三本分はある。だって全部なんて、全然口に入らないよぉ。
「はむ――、はむっ、はふ、っぱ! 」
大きくてお口に全部入らないから、唇と舌の先っぽでするだけにした。僕がされたときに、ぬるってしたのがよかったから、つばを一杯つけて。って、舐めてたらどんどん出てきちゃうだけなんだけどね。
どう? 榊ちゃん。
「っ。――!! っ! 」
うふふ。感じてる感じてる。だから一杯舐めて、一杯キスして。
一杯。
一杯。
「ふふ。トモ――いやらしいね」
榊のささやき声が聞こえて、我に返る。
「オチンチン舐めながら、オナニーしてるなんて」
「え? 」
冷静に指摘されて、僕はまた泣き出しそうな恥ずかしいような気持ちになってしまう。だって――だって、これは、その、なんていうか。
「ねえ、トモ」
「な、に? 」
「入れたい? 」
そう言われて僕はどきってする。い、入れたいって、いったい何のことを指してるんだろう? 聞きたくて聞くことが出来ない僕に、榊はエッチく笑って。
「トモのオチンチンを、私の中に――」
え?
それって、セックスって言うんじゃないの?
どうしよう、どうしようって気持ちがぐるぐる回った僕に。
「私、今、すっごくしたい」って榊が言った。
「入れるよ」
そうして、今榊ちゃんは、がにまたみたいに僕の上にまたがっている。もう僕のオチンチンは、榊ちゃんの入り口近くで脈打っている。
照りつける日差しから生じる、室内の薄暗がり。そのじんわりとした暗さの中で、榊の肌が汗で光っている。どこからか、西瓜のにおいがする。腰を沈め始めた榊の胸元が、ふるんって揺れた。
「入るの? 」
「場所はわかってるから」
僕の素朴な質問に、榊ちゃんは淡々と答えて、そのままずっと腰を落とす。
「――あ」
思ったよりも簡単に自分のオチンチンが飲みこまれて、僕は荒い息をついた。本当に入っちゃった。オチンチン。榊の中、ぬるん、って言ってる。
「――は、はーぁ」
榊ちゃんがたまらずに声を上げる。痛い? って聞いたら、榊ちゃんは首を左右に振った。
「う――」
低くうなりながら、榊ちゃんの腰が上下にくなくなと動き出す。これはちゃんと鍛えてるから、こんなふうに動きながら腰を上下できるんだなあって思う。そのたびに、きゅっきゅって締めつけてきて、気持ちいい。変な感じ。
榊の奥のほうで、何かこつんこつんってぶつかってきて。
あれ? 何か、変だよ?
「あ、ちょ、ちょっと、ちょっと待って! 」
言ったときにはもう手遅れ。
あーあ。
もういっちゃった。
僕の熱い何かが、オチンチンを通して吹き上がるのを感じる。その感じに気づいた榊は腰の動きを止めて、そのまま僕のオチンチンの動きをじっと感じている。
「いっちゃったんだ」
微笑むと、榊は僕の顔に優しくキスをした。ふふ。なんだかくすぐったい。
「どんな感じ? 」
「んー、何だか、ちょっと物足りないかなって気持ち。
気持ちよかったのは確かなんだけど」
何か足りないんだよなあ、って言ったら、榊がなぜかうれしそうな顔をした。
「滝野君」
「何? 」
「お尻の奥、熱い感じがするでしょ? 」
「え? う、うん。でももう射精したから、すぐおさまると思うんだけど」
そうかな? そう言って榊は、射精した後の僕の身体中にキスをする。気持ちいい、それ。うっとりと味わっていたから、今我が身に起こった異変に気づくのには、更にしばらくの時間がかかった。
あれ? なんでいつの間に、榊の両手が、僕の腰を抱えてるんだろう。
「もっと気持ちよく、なりたかったでしょ? 」
「んー。まあ、思ってたよりは地味だったなって思って」
そう言っている僕の下半身を、何かがつついている。あれ? これって。
「指? 」
「違うよ」
あ? れ?
僕の腰にかかった榊の両手に力が入る。両手が僕の腰にあるのに、どうして、僕の中にぬるんって、何か入ってきて――。
「――はぁぁぁぁ」
榊が深い深い息をついた。ぽたたって、僕の顔に汗が落ちる。榊の額から、垂れてる汗。痛い? って尋ねられて、初めて気がついた。僕の身体の中に榊のおちんちんが入っているのを。
「さっきよりも、感じさせてあげるから」
「え? なに? さかき、どうして、こんな。え? 」
「大丈夫。痛くないでしょ? 」
「え? ――ったく、ない」
どうして? あんなに固くなった榊の大きくて、口にだって入りきらなかったのに。すんなり、入っちゃうなんて。痛くないよ。でも、熱い――。
「トモの中って、あったかいのに、ひんやりしてるね」
榊が囁く。囁かれて、もっとお尻の奥から熱くなってくる。榊のも、熱い。
「動くよ」
言葉と動作は殆ど一緒だった。
「い! ひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」
榊の腰が、また動き出した。さっきののは僕の身体の上での上下運動だったけど、今度は僕の身体ががくがくするみたいな、前後運動。
「あああああああ」
さっき僕のを中に入れたときは、殆ど出なかった声が、榊の口から漏れてる。僕はがくがく揺れながらそれを見てる。涎が垂れてる、榊ちゃんの顔を見ている。
「いいよ、トモの中。トモの中――、気持ちいい」
「や、やめろよぉ! バカァ!! 」
ぎゅって目をつぶっちゃう。だって、榊の顔、すごくエッチなんだもん。溶けそうな顔をしながら、腰が動いてる。僕の胸元を、頭を垂れて零れた榊の髪が、さわ、さわって撫でてる。
さっきしたのとは、まるっきり違う。さっきしたのも気持ちよかったけれど、今の身体中を串刺しにされる快感と比べるとまるっきり違う。さっきのが、飛んでいくような快感だとしたら、これは深くて淫らな快感だ。
「さかき、そんなに、ぼくのなか、いいの? 」
「いい! いいよ――」
わあ。もう榊、とろっとろ。
そのとろとろの顔が、僕の顔に近づいてきて、トモもいいんでしょ? と囁いた。
「ん――、あ、は、は――ぁ」
「すごくかわいい。見てるだけで、気持ちいいんだなってわかる」
「そ――ん――な――と、ない」
息、苦しいよ。どん、どん、って突かれる度に、呼吸が止まる。あ、あ、ってしか声が出なくなる。お尻の穴がまたきゅって締まっちゃう。榊が顔を近づけると、汗を含んだ黒髪が顔にあたって苦しい。
でも、嫌じゃなくて。
エッチな声が一杯出ちゃって、僕の膝もかくかく笑っちゃって。身体中が、もっともっとって言ってて。お尻と一緒に、女の子のところも、きゅうって締まるのがわかって。
でも、でも僕は――。
僕は――。
「ふぇぇぇぇぇぇぇん」
「どうしたの? 」
さっきまで勢いよく腰を動かしていた榊が、ゆっくりとその動きを止めて、泣き出した僕の顔を覗き込んだ。
「見るなよぁ! ばかあ!! さかきちゃんなんてきらいだぁ! もぉ――」
「トモ……」
「えーん」
おなかの底から湧き出てくる何か。それが僕の両目を通って、ぽろぽろと零れだす。涙が頬を濡らす。僕の眉は八文字になって、子供みたいに泣いている。だって――。
「――って、ぼく、……とこのこ」
「トモ」
「お、とこのこ……こ、んな……としないもん。おとこのこ、おちんちんいれられて、きもちよくなったり、……ないもん」
今まで溶けそうな顔してた榊ちゃんが、困った顔をした。それはこんなことになっちゃって困ったなって言うより、心配した顔。僕のことを心から心配している顔。
「おち…ちん、はいって、ぼく、おかしい。おかしいの。おかしくなっちゃうの――」
「――ごめん」
「あやまるないの!! 」
僕の固めた拳が、だだっこみたいに榊の胸元を叩いた。ぽかぽか叩いた。
「ぼくも、さかきのなかで、いったから、あやまるないの!! 」
「――? 」
「セックスは、好きな人どおしがしるの! すきなひとどおしは、キスするの!! はいったらぁ、またキスすぅの!! でもおとことおとこはキスできないから、らめなの! 」
「さっきしたじゃない――」
「さっきしても、いましてないの! いまキスしてないの!! おとこどおしはキスしちゃいけないの!! 」
僕も、自分で自分が何を言ってるのかよく分からない。きっと僕の中で何かが変わり始めていることが許せないんだと思う。なんだろう。おかしいよ。僕。
「ばか! ばかばか!! さかきのばか!!! 」
ビクッ!
突然、僕の両手が、榊に押さえつけられた。僕の言葉が詰まる。目の前には怖い顔した榊がいる。その榊の顔がどんどん近づいてくる。
殴られる!
そう思って身体を固くして、目を閉じると、思いもよらないくらい優しい一撃が僕の顔を打った。
ちゅっ。
優しい榊のキス。
キスをしながら、榊がゆっくり腰を動かし始める。僕もそのタイミングに合わせて、少しずつ腰を動かす。
静かな部屋の中、僕と榊の息だけが満ちていく。はー、はーって、貪るみたいに。
「あ、ああああ」
「はーっ、は――――」
「ん、はあはあ。ん―――ん」
「はぁっはぁっはあっ! 」
ちゅぷ。
くちゅくちゅ。
頭、じーんてする。
ほら、トモのまた、勃ってるよ?
囁かれて見ると、いつの間にか僕のおちんちんがぴん、ってつっぱってた。榊が腰を動かすたびに、榊のお腹にシャフトがぶつかる。なんかへんなかんじ――。
ぎゅって抱きしめると、榊ちゃんの背中の筋肉が腰の動きと一緒に、ぴくんぴくんって動くのが分かる。
あ。
この感触。好き――。
中で動いてる榊ちゃんのも、熱くて。激しくて、やけどしそうで。
好き。
「トモ――」
切羽詰った声がする。耳元で囁く、榊ちゃんの声。
「もう――いきそう――」
「…っていいよ。――って」
「いっぱいでちゃうよ」
「だいじょうぶ。ぼく、こども、うめないから」
さらり、って言葉が出てきて、我ながらびっくりする。僕がこんなこと言ったのは、榊ちゃんにたくさん出して欲しいから。僕の中で、いっぱいいって欲しいから。
「…くよ? もう、もういく」
「いって! いっぱいだして!! 」
「ん! 」
「んんんんんん!! 」
僕は奥歯をかみ締める。強烈な窒息感。お胸から、お尻から、女の子のところから、それからそれから――おちんちんから、ぎゅって縮こまるみたいな感触があって、いきなり開放されたような快感が上り詰めた。
「あああああっ! 」
僕の短い叫び。でもそれで十分。お腹の中に熱い何かが、どん、って広がるのと同時に、僕のおちんちんがはじけた!
「ああ、でてる。でてるよぉ。ぼくのからも、いっぱい、いっぱい」
「んっ――はぁーっ。はぁ――」
「さかきちゃんも、まだでてる。ぼくも、でてるよ――」
「ん――ともの、あつい――」
榊のは、もっと熱いよ――。口に出しかけて、僕は自分の口がすごく乾いているのに気がついた。喉が塩辛い。
海の臭いがする。
*
「で、お前は結局この夏休みの宿題の何も手をつけていない、というわけか」
夏休みも残りわずかになって、僕は千代ちゃんの家に来ている。目の前に座っているのは、ヨミだ。もちろん千代ちゃんもいるし、大阪もいる。それに、榊だっている。
千代の別荘に遊びに行ってから、集ると言うとこのメンバーが自然に集るようになっていた。今日集った目的は――僕と大阪の宿題をきちんと提出させようの会、なんだって。そんなのいらないよぉ。
「おまえ、一体あの日何してたんだ? 」
しこしこ千代の宿題を写している僕に、ヨミがこれまた皮肉っぽく尋ねた。
「あの日? 」
「ほら、旅行の最中、宿題やるっていって、榊と一緒に千代ちゃんの別荘残ったじゃないか」
「あ! あれ? お勉強」
「勉強―? 」
「うん。生命の神秘」
僕がそう言った瞬間に、榊が飲んでいた紅茶を噴出した。
「おわ、珍しい榊ちゃんのリアクションやな」
「ほんとですねー」
目を丸くする大阪と千代ちゃんをちらりと見ると、榊は少し怒気をはらんだ低いいい声で僕に言う。
「智君――やりすぎ」
(了